147話 村での調査 二
もう、別に驚くことはない。それに、少し前から、薄々、気付いていた。
「既に気付いてくださっていたのですね。光栄でございます」
いつものリーナのような優しい笑みが浮かんでいる。
「知っているの?」
「1つは聖騎士失踪の調査でございます。この村を出発したのち、彼らは行方不明となりました。魔王国でもこの件は調査しております」
可愛い声に、優雅な口調で裏リーナが言う。
「聖騎士失踪? その聖騎士って、勇者について行っていた人達なの?」
「そうでございますよ。王都には帰還していないのです。王国側がこの辺り一帯の捜索は行ったそうですが、何の手がかりも掴めなかったそうなのです」
わたしのお守りがあったから、聖騎士達が通ったのは間違いない。その後、あの人達はいなくなった……
聖騎士達は精鋭だと言っていたし、街への魔獣襲撃の時、魔獣を倒している。
道に迷うなんてことはないから、何かあったとしか思えない。
「魔法でわからないの?」
「残念ながら、わかりません。魔法が使われていたなら、しばらくその痕跡は残るかもしれませんが、時間が経ち過ぎております」
「そっか。他の理由は?」
「全滅した村との関りでございます。むしろ、あのお2人の焦点はこちらでございますね。亡くなられた妹に関わることでございますから」
全滅した村……全滅させたのはアリシア――そうは言いたくない。既にあの時、アリシアは亡くなっていた。アリシアの意思はなかったはず。
「最新の情報なのですよ。神官長を通し、ゼールス伯爵にも伝わっております。この村の者が全滅した村の者へ接触していたと。勿論、それだけであれば、問題にはならないことでございます」
裏リーナは再び、怪しく笑う。
「とある信仰。黒いドラゴンの像。そして、魔獣生成。あの女性は魔獣のように生み出されたものなのです。興味深いことでございます」
はっきり言って、繋がりがわからない。
魔獣が人工的に作り出されたということは知っている。アリシアは魔獣と同じようにされてしまったということだろう。
魔獣を作り出しているのが、全滅した村とこの村だと言いたいのか?
「ここの村人を疑っているということ?」
「どうでしょう。そこまでのことができるようには思えません。ただ、この村に秘密があるのは確かでしょう。例えば、魔力の強い人材の確保などでございます。協力ぐらいはできるでしょう。知らず、協力させられているのかもしれませんが」
「それで、ウィリアムとアーロを集会に潜入させたかったの?」
「何の変哲もない集会でしょう。期待はしておりません」
「2人に渡していた白い布は姿を見えなくするの? それなら、すごい」
透明になるようなものだろうか? そんなことが魔法で!?
「残念ながら、認識を歪めるだけでございます。よく似たものを既に魔王様もご覧になっております。ただ、魔王様や私のように魔力の高い者には効果がありません」
よく似たもの……わたしは閃いた。村の護衛の人達の頭の装備!
わたしと他の人達と認識が違う。あれはそういうことだったんだ!
ということは、むしろ、怪しいのはあの護衛の人達?
「このことを話しましたのは私の独断でございます。おそらく、私がこうすることは姉も承知していたでしょう」
悪いことをしたように、裏リーナがにいっと笑う。
わたしは単にデリアに会いに来ただけだったけど、そうは言っていられない。
一体、何が起こっているのか?
わたしだけ何も知らなかった……
わたし、単にここでお留守番していていいの!?
逆に、調べるなら、今がチャンスなんじゃあ?
これは、行くしかない!
外はもう暗いけど、ちょっと魔獣とか不安だけど。
「わたし、ちょっと、外に出て来る」
「はい、お気をつけくださいませ」
裏リーナは非常にあっさり送り出してくれる。
少しだけ、期待したけど、裏リーナはついて来てくれるつもりはなさそうだ。
もう、止めるとは言えない。
「外は暗いですから、こちらをどうぞ」
裏リーナからキャンプで使うようなランタンを渡される。
すかさず、裏リーナはドアを開ける。ほとんど、行けと言われているようだ。
仕方なく、外に出ると、ドアが閉められる。
外は――暗い。本当に暗い。街灯なんてない。
明かりがないわけではない。
一番明るいものは、きっと、教会の明かりだ。それに、家に残っている村人もいるのか、光が漏れている家もある。
後は、動いている明かりがある。
とりあえず、その動いている明かりを追う。
向こうは歩いているので、走れば追いつける。
近づくと、それは案の定、村人ではない。村の護衛の一人だ。
護衛の男の防具などで、彼が顔に傷のある声の出せない人だとわかる。
彼の頭には最初見た時とは違う例の装備。
認識を歪めるけど、わたしには効かない。
だから、わたしにはあれがおかしく見えたんだ。
彼もわたしに気付いて、わたしの方を見ている。
ど、どうすれば……
彼は話せないから、話を聞けない。
でも、ここで無視すると、不自然な気が……
「こんばんは。ちょっと、退屈で……」
とりあえず、声を掛けた。挨拶と外を歩いている訳を。怪しまれないように。
十分、怪しかった気もするけど。
彼は敵かもしれない。




