146話 村での調査
翌朝、剣術の稽古はお休みかと思ったが、リーナが頼んでくれたらしい。
わたしはウィリアムとアーロにしごかれることとなった。リーナに頼まれれば、断れないとか言って。わたしは騎士じゃないのに。
ウィリアムはわたしが魔王だって、忘れてる?
しかも、彼らはベッドもなく、床で寝ることになった。
わたしなら、床で寝るのは結構、辛いし、休めた気がしない。
それなのに、彼らはそんなことを全く感じさせない。
稽古が終わり、見学していたリーナの傍で休んでいると、よく目立つ3人の姿が見えた。
彼らの恰好はちぐはぐだ。
寄せ集めた装備という気がする。
村人とは明らかに違い、武装している。
女性1人と男性2人。
頭の装備だけがやけに立派だ。しかもどうやらお揃い。せめて、それだけは仲間同士で揃えようとしたのだろうか。
仲のいいことね。ふんっ。
声には出さず、嫌味な感じで密かに毒づく。ちょっと嫉妬しただけ。
確かに、頭を護るのは重要だ。
村の人達は特に気にしてもいない。ウィリアムとアーロも表情が変わらない。
わたしが知らないだけで、あれが常識なのかもしれない。
なにか、そういうジンクス的なものがあるのかもしれない。
わたしと同様、この国からすれば外国人であるリーナも首を傾げていた。
気になって仕方ないので、後で絶対聞いてみよう。
朝食時、デリアにもう一泊させてほしいと、図々しいお願いをした。
「いくらでもいてかまわないわ」
デリアは笑顔のまま、すんなり受け入れてくれた。
「今日の夜は村の集会があるのよ。連れてはいけないから、留守番をお願いするわね」
「集会って、何をするんですか?」
「村の方針や困りごとを話し合うのよ。そう大したものではないわ」
こういう小さな村では結びつきは強いのだろう。
わたしには、ちょっと、面倒だと思ってしまう。
全員、顔見知りだろう。噂が広がるのが速そうだ。
まあ、今は魔獣のこともあるし、そういうことを話し合うのかもしれない。
朝食後は、お墓参りに行く。
わたしを助けてくれた名前も知らない女性。
花を手向けるのは単なるわたしの自己満足だ。
ただ、彼女のお墓には既に花が置かれていた。
デリアだろうか?
彼女のお墓の前、物悲しくはなるけど、ニュースで見た知らない人の死のような、あくまで、他人が亡くなったというぐらいだ。
彼女を死なせた敵も既に死んでいる。
わたしを助けてくれて、ありがとう。
それだけ、心の中で、彼女に呼びかける。
あれから、随分経ったような気がする。その間、何人も、死んでいった人達を見た。
わたしは再生能力があるから、そうそう死なないと思うけど、普通なら、昨日も戦ったような魔獣に出くわしてすぐに死んでしまうかもしれない。
デリアやこの村の人達も簡単に死んでしまう。
そうならないようにしないといけない。
お墓からデリアの家への帰り道、村の護衛の一人を見かけ、声を掛けようとするが、わたし達を見ると、すぐに反対方向へと行ってしまった。
それからは、リーナと共にデリアの手伝いをしていた。
ウィリアムとアーロも力仕事を手伝ってくれる。
2人とも貴族の跡取りなのに、いいのかなとは思うが、2人がいいなら、いいだろう。
その間、村の護衛の人達に話しかけようとするが、どうも避けられている。
わたしが近づこうとすると、離れて行ってしまう。
わたしが村人ではないから、関わりたくないのだろうか。
彼らはあのお揃いの頭の装備ですぐにわかる。
「あの村の護衛の魔獣退治の人達が着けているお揃いの仮面? ヘルム? みたいなのは、魔獣退治の人達にとっては普通なんですか?」
ウィリアムとアーロに聞いてみたが、怪訝な顔をされた。
「1人は着けていたが、他の者も着けていたか? 心当たりがないが」
と、ウィリアムが不可解なことを言う。
いくらなんでも、あれが目に入らないということはないと思うけど……
わたしはアーロに視線を送る。
「私もウィリアムと同意見だよ。特に変わったところは見受けられない。装備に統一感がないのは軍のように支給を受けているわけではないから、個人の自由だよ」
やっぱり、わたしがおかしいんだろうか?
「リーナは気にならなかった?」
リーナは何も言わず、困ったような表情を向けた。
これ以上、言っても理解してもらえそうにないので、わたしは諦めた。
きっと、あれがここでの普通なんだと思うことにした。
日が沈み、辺りが薄暗くなってきた頃、デリアは村の集会へと向かった。
集会場所は教会だ。
デリアの家でわたし達4人は留守番だ。
「集会の様子を見に行くのですか?」
デリアがいなくなり、しんと静かになった家の中、リーナがウィリアムに問いかける。
「ああ、そのつもりだ。すまないが、しばらく護衛はできない」
村の集会に2人の目的の何かがあるんだろうか。
さすがに、集会によそ者は歓迎されないと思うから、参加させてもらうことはできないだろう。
どちらかと言えば、こっそり探るのだろう。
「見つかったら、怒られませんか!?」
「怒られるだけならいいけれど……うまくやるよ」
アーロに止める気はないようだ。
「あの、これを使ってください。これを被っていれば、気配を消すことができます。見かけはよくありませんし、魔力の高い方が見ると効果はありませんが、ここでは十分だと思います。絶対に村人の前でこれを脱がないでください。それに、人にも当たらないようにしてください。気付かれてしまいます。これがあれば、こっそり集会に参加できるはずです」
リーナは真っ白い布を2人に渡す。リーナにしてははっきりとした口調だ。
2人は再び、怪訝な顔をする。
「本当にこれで、そんなことが?」
アーロが受け取った布を広げて、確認している。
あれを被れば、おばけのようだ。
「感謝する。アーロ、行くぞ」
ウィリアムはリーナの言葉を信じたのか、布を手に外へと出ていく。
アーロも即座に後を追って行った。
2人が見つからないことを祈る。
見つかったら、ここにはいられないだろう。
「リーナ、ウィリアムとアーロが何のためにこの村に来たのか、知ってるの? あの2人は教えてくれないし」
「ふふ。魔王様、お久しぶりでございます」
リーナが怪しい笑みを浮かべる。
彼女は裏リーナだ。




