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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ③
142/316

142話 シンリー村 二

村長の家はこの村で唯一、二階建てだ。

前回、この村に来た時は、この二階部分に泊まらせてもらっていた。

村長の家を僕がノックした。

「誰だ?」

扉は閉めたままの状態で、中から低い声がした。おそらく、村長自身だ。

「魔獣退治をしているの。悪いのだけれど、今日、泊れるところはないかしら?」

イネスが扉越しに、返答する。

「……」

村長は黙ったままだ。村長の様子はわからないが、僕達を警戒しているのだろう。

しばらくすると、扉が開き、村長が姿を見せた。

「申し訳ありません。野盗の恐れもありますので、慎重になっておりました」

村長は朗らかな笑みを浮かべていた。

もっと渋られるだろうと想像していたが、意外と早く、警戒を解いてくれたらしい。

村長は僕達を家の中に招き入れ、応接室のような個室に通した。前回も来ているので、既に構造はわかっている。

僕達が勧められるまま、木製の長椅子に座ると、村長が口を開く。

「私がこのシンリー村の村長のジャック・ピーターです。魔獣退治をされているとのことですが、どのくらいされているのでしょうか?」

「そうね。2年程よ」

「ほう。では、何頭もの魔獣を退治されて来られたのでしょう。ところで、そちらの方は」

村長は僕に視線を送る。僕が素顔を見せないからだろう。

「彼は、顔と首に怪我を負って、ひどい傷がまだ残っているのよ。だから、人前では兜を外さないわ。声も出せないの」

イネスは村長に僕の設定を話す。

「そうでしたか……お気の毒に……」

「彼は気にしないわ。仕事だから」

イネスの言葉を聞き、村長は頷くと、居住まいを正す。

「この村の周辺には、何年も魔獣は出ておりません。ただ、近頃、魔獣の出現が多くなったと耳にしまして、不安に思っておりました。見ての通り、この村の護りはないに等しいのです。無理なお願いなのは承知しております。何日か、できるだけ長く、村にご滞在いただけないでしょうか。勿論、報酬はお支払いいたします」

村を囲むのは、頑強な石造りの壁などではなく、木の柵のみだ。村に大型の魔獣が出れば、一溜りもない。

ゼールス伯爵領は魔王国との境界に近いので、魔獣が多い印象だが、実際は魔獣が少なかった。その為、小さな村では護りが弱い。

以前は村の防衛の為、僕がライナスとメルヴァイナにその村への滞在を依頼した。

村では中々、警備隊もなく、防衛の為の人員がいない。

村人が不安に思うのは当然のことだ。

ただ、この近辺で聖騎士達が失踪している以上、言葉のままかは疑うべきだ。

それでも、こちらとしては、都合のいい提案でもある。

村に滞在できるのであれば、その方が調べやすい。

僕達の答えは決まっている。

「引き受けるわ。とりあえず、10日でいいかしら」

「はい、勿論です。宿泊はこの2階に部屋を用意します」

一連の事が見る間に決まった。

報酬もこんな辺鄙な村にしては割合いい。滞在中、魔獣が全く現れなくても、支払われる。

いきなり来た僕達に対して、ここまで信用できるものなのか?

元々、誰かに依頼するつもりだったか、それとも、他に僕達を留める必要があるか。判断はできない。

今日は休ませてもらうと村長に言い、食事も断り、2階の部屋に入った。

その後、僕とグレンで使う部屋へとイネスとミアが訪ねて来た後、キースへと転移した。

シンリー村を離れたくなかったが、あそこで話をすると、村人に聞かれる恐れもあった。

ルカのような高度な魔法は使えないので、こうするしかなかった。

「ひとまず、村に入り込めたわね。この後、何かしてくるかしら? むしろ、その方が手っ取り早いのだけれど」

イネスは最初から村人を疑っている口ぶりだ。

「どうだろうな。証拠がなければ――」

「もう、その兜、取ってくれないかしら? ちょっと、鬱陶しいのよ」

確かに、声は少し籠るし、視界も悪くなり、僕自身も鬱陶しい。言う通りに兜を取る。

「そうね。村人に話を聞けないかしら?」

「話を聞くなら、デリアという女性がいいと思う。メイが親しくしていた女性だ。一人で暮らしている。僕はよく思われてなかったが」

「それなら、ミアと二人で行って来るわ。女同士の方がいいでしょう」

「証言者が誰なのかということは直接、聞かない方がいい」

「わかっているわ。聖騎士の失踪のことを知っているのは不自然だものね。公にはされていないもの」

「僕はグレンと見回るふりをして、周辺を探ってみる。村の建物の配置を教えるから、イネスとミアで村の中を探ってほしい」

「それでいいわ。勿論、今夜、何もなければ、の話だけれど。こういう時、再生能力は心強いわ」

襲撃があるかのようにイネスは言う。

「再生能力は過信しない方がいいと思う。痛みは変わらずある上に、人間じゃないのが露呈する」

「それはそうだけれど、刺されて終わり、ということはなくなるわ。まあ、でも、再生能力はないという前提で行動するわよ」

「村に戻るぞ。俺もそれでいい」

グレンは面倒くさそうに言い放つ。

「ボクもです! 頑張って、探ります!」

逆にミアはやる気を漲らせていた。


無事、何事もなく、シンリー村にて朝を迎えた。

グレンと交互に警戒していたが、襲撃はなく、静かな夜だった。

部屋まで持ってきてもらった朝食を食べた後、イネスが見回りと周辺の把握をすると村長に告げた。

僕は一切、声を出せないので、不便ではある。

同様に、兜も取れない。

とはいえ、村長はすぐに快く了承した。

村長の家を出ると、イネス、ミアとは別れ、僕とグレンは村の外へ向かった。

村の周りを一周した後、徐々に村から遠ざかる。

見回りという名目の為、堂々とできる。

特に村人から見張られているということもない。

太陽が最も高くなった頃、村へと戻った。

僕達の方は収穫なしだった。

魔獣の痕跡もなく、平穏そのものだ。

僕の思い過ごしではないかと言う気になってくる。

村の教会の前にいたイネスとミアに合流し、村長の家に戻る。

お互いに収穫がないなら、特に話すことはないが、イネスは僕達に合図を送ってきた。

ここでは話せないことがあるということだ。

転移魔法で、キースに転移し、その宿にて、イネスが話し始める。

「彼女、デリアに話は聞いたわ。手がかりになるようなことは何も話さなかったけれども、彼女の家で気になる物を見たのよ」

イネスは勿体ぶった言い方をする。

僕は兜を外し、「気になる物?」と続きを促す。

「メイの”お守り”があったの。大分汚れていたけれど、間違いないわ」

「ボクもメイに見せてもらったから、間違いありません!」

イネスは淡々とした口調ながら、少し早口になっている。ミアも興奮気味だ。

「メイが彼女に贈ったものじゃないのか?」

「違うわ。あの”お守り”をセイフォードでメイに見せてもらったの。母親にもらった物だと言っていたのよ。確かに、全く同じものを2つ持っていた可能性もない訳ではないけれど、その可能性はかなり低いと思うわ」

「僕達の荷物は聖騎士達が王都へ持ち帰ることになっていた。その時に、メイの荷物も混ざっていた」

「ええ、そうなの。だから、あの”お守り”は聖騎士達が運んできたはずなのよ。この村で聖騎士達に何かが起こった、その考えは正しいと思うの」

「仮にそう考えるとしても、それだけでは証拠にならない。この後、どう証拠を探すか……」

「聖騎士を消す、簡単な方法ならある。普通の人間には決してわからない。今の俺達にも使える転移魔法を使ったんじゃないのか。転移魔法と特定しなくてもいいかもしれないが、普通の人間には使えない魔法だ」

グレンがぶっきらぼうに、まるで、どうしようもないと言わんばかりに言う。

「まあ、元々、魔王国が関係しているという話だし、そう言うこともあるわ。尻尾を出してくれるといいのだけれど」

聖騎士達が運んでいたはずのメイの”お守り”は見つかったが、それ以降は手詰まりだ。

闇雲に探したとしても、いつ見つかるのか、魔法で隠されていれば見つからない恐れもある。

次に打つ手が見いだせないまま、一旦、シンリー村へと戻った。

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