140話 ヴァンパイアのリビー 二
町の外へ出て、すぐ。
着いた時には全て終わっていた。
僕達が見たのは、魔獣3体の死体だった。
町の警備隊が集まった人々を近寄らせないようにしていた。
倒したのは、たった4人のパーティだ。
その内の二人の名はウィリアムとアーロ。その2人の剣士と2人の少女。
魔獣退治をするにしては、奇妙だ。
2人の剣士は少女達の護衛かもしれないと思ったが、少女達も戦闘に参加していたらしい。
「私達の出番は無いようですね。ちょっと、残念ですねっ! せっかく、腕試しできましたのに!」
リビーは警備隊の隙間から魔獣の死体を観察するように見ながら言う。
警備隊の隊員はそのリビーに迷惑そうにしている。
「あの魔獣を倒した4人に心当たりはあるのですか?」
僕はそんなリビーに問う。
「残念ながら……ありません……も、もしかして、幻滅しましたか……? 赤髪でアーロという名でしたら、ここの領主の子息しか思い当たりません……」
リビーは振り向くと、不安そうに僕を窺いみる。
「いえ、幻滅なんてしません」
「俺もアーロ・ゼールスを思い浮かべた。アーロ・ゼールスはフォレストレイ侯爵家の嫡男とも親しい」
グレンはリビーではなく、僕に言う。兄から何か聞いているか、ということだろう。
「二人は王都にいるはず。このゼールス伯爵領に向かったということは聞いていない。このような所で魔獣退治をしているとは思えない。仮に王都を発っていたとしても、到着はまだのはずだ」
「ああ、そうだ。だが、俺達もここにいる」
転移魔法……
次兄はともかく、長兄は魔王と関わることに否定的な印象だった。
確かに転移魔法で来たのなら、今、このゼールス伯爵領にいても不思議ではない。
長兄も転移魔法を見ている。存在を知っている。
「私をいないものと思ってますね……泣けてきます……」
リビーが僕とグレンの間に割り込んで、悲し気な声を上げる。
「離れろ」
グレンは嫌そうに、低い声を出す。そして、結局、グレン自身が離れる。
「私を意識してくれてうれしいです! 魔獣を倒した4人に興味があるのですよねっ!? では、予定、変更ですっ! その4人、捜しに行きましょう!」
僕達の意見を聞くことなく、リビーは町へと歩き出す。
立ち去った4人は、町から離れたのではなく、町へ入って行ったのだと聞いていた。
時間に余裕が全くない訳ではなく、4人に興味があるのも事実だったので、リビーの後に続いた。
実際に会えば、4人のことがはっきりする。
少女達のことも気になる。その少女達が転移魔法を使った魔王国の民かもしれない。
ただの人間の少女に魔獣が殴り倒せるとは思えない。聞いた話では獣人でもなかった。
魔獣を退治したとはいえ、敵の恐れもある。
リビーの言っていた事件に関わる人間以外の種族。それが、その少女達の可能性もある。
引き返した町の中、僕達の耳にも十分聞こえるほど、魔獣が出たことやその魔獣を倒した4人のことは噂となっていた。
その方が4人のことを尋ねやすい。
見つけるのは容易だと思ったが、甘かった。
その4人の足取りはぷっつりと途絶えていた。
ただ、それにより、転移魔法を使ったということが濃厚なように思う。
町にある宿を回ったが、それらしい4人が宿泊している形跡はなかった。
「元気を出しましょう! こういうこともありますよ! うまくいくばかりではありません! 切り替えていきましょうっ!」
リビーは今朝と同じくらい活気のある様子だ。
というより、ほとんど、一貫して変わっていない。偶に、弱気になるくらいだ。
「それでは! 遅くなりましたが、私は用事を済ませに行きますねっ! また、絶対にお会いしましょうっ!」
言うなり、リビーは駆けて行った。
僕達を優先してくれたリビーに感謝する。彼女の用事が間に合うといい。
僕達は――
「俺達も予定通り、明日、シンリー村へ向かう。ここの町に留まっても意味がない」
僕はグレンの言葉に頷いた。




