14話 反撃
手にはお守り代わりの短剣。それをぎゅっと握りしめる。
魔獣と戦う警備隊の横を通り過ぎる。
「嬢ちゃん! 来るな!」
ランドルがわたしに向かって叫ぶ。
わたしはそれを無視し、駆け抜ける。
「コーディ!」
「メイ、ここは危険です!」
「コーディ、魔法で竜巻を発生させて、コントロールできる?」
「できますが、威力は望めません。魔獣を巻き込むことはできません」
「それで構いません。竜巻で魔獣を囲ってください」
わたしは近くにいたグレンにも頼むことがある。
「グレン、これから起きる竜巻に火炎を加え続けて」
「は? 俺に命令するな」
「いいから、お願い」
コーディがわたしの依頼通りに竜巻を発生させる。
それを見たグレンが、渋々といった具合で、そこに火炎を注ぎ込む。
火が立ち昇っていく。
温度も上がっていると、確証はないが思う。
熱気が襲ってくる。火の竜巻は怖いほど、迫力がある。
魔獣が苦しそうな声を上げ、聞こえなくなる。
おそらく、空気を吸い込み、内部が焼かれたのではないかと思う。
もう1体の魔獣が自分から飛び込んでくる。焼かれていく魔獣を助けようとでもするように。
その魔獣も同じ末路を辿った。
コーディとグレンが魔法を解除すると、2体の魔獣の死骸が転がっていた。
味方を巻き込んだり、周りが火災にならなくてよかった。
これで後3体だ。
「メイ、助かりました」
コーディから声を掛けられた。
グレンは無視を決め込んでいる。
まだ、苦戦を強いられているイネスや警備隊達の元に合流する。
「1体、毛色の違うやつがいる。そいつが特に手強い。もう何人も、やられた。気を付けろ」
ランドルが忠告してくる。
その言葉通り、周囲に何人も倒れていた。まだ生きている人もいる。
ここで先ほどの魔法は使えないだろう。
それは、コーディやグレンも承知しているようで、これまでの地道な戦法を取る。
じゃあ、どうすればいい?
簡単に攻撃力を上げる方法は?
個々の魔法では、魔獣に傷は付けられても決定打に乏しい。
たぶん、普通の獣なら、致命傷を与えられるくらいの威力はありそうだ。
この世界の魔法は魔獣に対しても一撃必殺のような強力な魔法はないらしい。
ウォータージェットは加圧が難しそうだ。
水で魔獣を溺れさせられないか、イネスに聞いたが、無理だと首を左右に振られた。
少しでも、威力を。
コーディの風の魔法で回転を加えて、水の威力を高められないか。
うまくいくかわからないが、やってもらってもいいと思う。
コーディとイネスに伝え、イネスが10本の水の槍を作り出す。
コーディがその槍1本1本の周りに風で回転を加えてもらう。
人がいないのを確認し、イネスの合図と同時に水の槍が手前の魔獣1体に向かっていく。
水の槍だけの時とは比べ物にならないくらい、槍は魔獣に深く刺さり、魔獣の動きが止まる。
すかさず、コーディが魔獣の喉元へ剣を突き刺し、とどめを刺す。
見事なコーディとイネスのコンビネーションだ。
魔獣は、後2体。
これなら、いける。
そう思ったとき、毛色の違う1体があろうことか、わたしに襲い掛かってきた。
「嬢ちゃん!」
ランドルがわたしを突き飛ばした。わたしはたたらを踏んで、倒れた。
わたしの代わりにランドルに魔獣の爪が襲い掛かる。
血飛沫を上げ、ランドルの体が転がる。
あっという間の出来事だった。
血塗れのランドルが倒れている。
急に恐怖が襲ってくる。
「メイ!」
わたしはコーディに助け起こされ、退く。
「おい! 魔獣! 後はお前だけだ!」
グレンが叫ぶ。
毛色の違う1体がこちらを襲っている間、グレン達がもう1体を倒したらしい。
最後の1体がこちらを伺っている。かなり警戒が見られる。
ランドルが無事か確認する余裕はない。
魔獣がいつ襲ってくるかわからない。
呼吸を忘れそうなほどの張り詰めた空気。
わたしはコーディに庇われるようになっている。
グレンが炎の矢を出現させ、数十の矢を順に魔獣へと降らせる。
それと同時に駆け出し、魔獣に剣戟を浴びせようとするが、素早く身を躱される。他の魔獣より、一回り大きく思えるにもかかわらず、他の魔獣より素早い。大きい上にスピードもあるのは脅威だ。
他の面々も攻撃を加えてはいるが、魔獣のダメージになっていない。
はっきり言って、攻撃はばらばらだった。
警備隊もその隊長が欠け、統制が取れていない。
勇者パーティはそもそも連携なんて取っていないだろう。
これでは、頭の良さそうな魔獣にどんどんこちらが削られていくだけだ。
むしろ、魔獣側の方が連携ができていたぐらいだ。
幸いなことは、魔獣があまり魔法攻撃をしてこないことだ。魔法を放つまで時間が掛かるからだろう。屋敷に現れた魔獣もそうだった。
わたしでは戦術などはわからない。でも、ダメージを与えられるとしたら、同時攻撃かと思う。
誰かが魔獣を引き付け、その間に他の全員で攻撃する。特に頭部と足を狙ってもらう方がいい。
「コーディ、イネス、協力して」
わたしはすぐ傍にいるコーディと近くにいたイネスに声を掛ける。
それともう一人。
「トレヴァーさん!」
副隊長が誰かは知らないが、優秀そうなトレヴァーなら、警備隊を指揮できそうだ。
わたしがこんなこと言う筋合いはないと思うが、そんなこと言っていたら、全滅しかねない。
後、魔獣を引き付けられるとしたら、わたしだと思う。さっきもわたしを襲ってきた。
わたしを司令官だと思わせて、追わせる。
トレヴァーがわたしに近づいてくれた。
「トレヴァーさん、お願いがあります。これから同時攻撃をしますので、警備隊で、魔獣の4本それぞれの足を狙ってください。合図はわたしが出します」
「わかりました。任せてください」
トレヴァーは特に異論も唱えず、わたしなんかのお願いを聞いてくれた。
「コーディとイネスとグレンで魔獣の頭部に魔法で攻撃してもらえますか。わたしが合図するので、同時に。チャンスがあれば、止めを刺してください」
「わかりました、メイ」
「いいわ。グレンには伝える」
コーディとイネスが頷いてくれた。
イネスがグレンの元へ走っていく。
わたしは短剣をぎゅっと強く握りしめる。
コーディにはもう一つお願いした。
魔獣の側面から横顔に衝撃波を叩き込んでもらう。
当たれば、すぐに場所を移動してもらう。
わたしも移動していた。
魔獣と目が合うように。
引き付けられなければどうしようと思った。
魔獣はわたしを捉えていた。
魔獣からわたし、わたしからその後ろには人がいない。
魔獣が動き出したのと同時に、
「攻撃して!」
わたしは叫んだ。
警備隊が魔獣の4本の足を同時攻撃。
魔獣の頭部に一斉に魔法が降りかかる。
後ろ足を攻撃していた警備隊の二人がその足に蹴られ、離脱するが、魔獣退治専門の民間人も加わり、攻撃する。
量による猛攻だ。
さすがの魔獣も、苦しそうな呻き声を上げる。
魔獣の体液が飛び散り、魔獣がよろめく。
勝てそうだ。
このまま――
魔獣が攻撃を回避しようと、強引に動き出す。
しかも、わたしの方に。
逃げないと。
こういうとき、困ったことにわたしの足は恐怖で動かない。
「メイ!」
コーディが攻撃を中断して、わたしの元に来る。
再び、魔獣と目が合う。
魔獣が叫び、最後の力を振り絞るように、飛びかかってきた。わたしを道連れにでもするように。




