139話 ヴァンパイアのリビー
翌朝、朝食を取った後、とりあえず、ルカの部屋へと行く。何時にどこに行けばいいのか、聞いていない。
ノックすると、ルカの入室を許可する声がした。
部屋に入ると、ルカの他に、女性が一人いる。
ルカと同じ色合いの長い金髪の快活そうな女性だ。
服装は派手で独特ではあるが、メルヴァイナのように露出が高い訳ではない。それでも、王国では溶け込むことはできないだろう。
服装の点では、ルカは時と場所を弁えている。
部屋の様子を見るに、ルカがこの部屋に泊まっているようには思えない。
単に転移する為の部屋として使っているのではないかと思う。
おそらく、僕達が訪ねると、ルカに通知されるような仕組みがあると推察される。
「彼女が昨日言った私の部下のリビー・イーノだ。私と同じく、ヴァンパイアなのだよ。彼女がキースという町まで送る」
「はいっ! 私、リビー・イーノが皆さんをお送りします! 気軽に、リビーと呼んで下さいねっ! わからないことがあれば、私に、何でも、質問して下さいね!」
リビーは満面の笑みを浮かべている。
「ここ1、2週間の話なのだが、ゼールス領にて魔獣の出現が多い。それも大型の魔獣だ。君達なら死ぬことはないだろうが、気を付けてくれたまえ」
リビーが続けて何か言おうとしたようだったが、それを無視して、ルカが話し始める。
「ああ、それと、コーディ、君はシンリー村の村人に顔を知られているのだろう? ある程度親しくなっていると、懐にも入れるだろうが、そうでなければ、警戒される恐れもある。しっかり見極めることだ」
リビーはあからさまに拗ねた表情を浮かべている。
「イーノ、彼らをしっかり送り届けるように」
「わっかりましたっ! ボス! お任せを!」
漸く、ルカに構われ、リビーの表情がぱっと輝く。
「しっかり、任されましたから、すぐにキースへお連れします!」
リビーはそう言うと、本当にすぐに魔法を発動させた。
次の瞬間には、ルカの姿は見えなくなり、別の部屋の中にいた。
おそらく、キースにある宿だろう。
キースは、前に一度、メイと二人で訪れたことのある町だ。
宿は前に宿泊した宿ではなかった。
街道沿いにある町で、セイフォードへ行く場合、この町で宿泊することが多い。その為、宿も多くある。
「はいっ、到着です! この宿に二部屋取っています。適当に使ってください。転移のポイントは忘れずに、作成しておいてくださいね!」
リビーの気分は高揚したままだ。
「魔獣が出現するとのことですが、この辺りでもいるのですか?」
僕は早速、リビーに質問した。セイフォードに出た魔獣と同じような魔獣が出れば、かなり被害が出てしまう。
セイフォードの時、かなり苦労したことが思い出される。
前とは違い、闇魔法は使えるが、街中で使うのは躊躇われる。
「勿論ですよっ! 私も何匹か、この周辺で魔獣を狩ったのですけど、困ったものです。出現は不自然ですし。元々、魔獣は作り出されたものですが。あぁ、間違いなく、人間以外が関わってます。本当に、困ったものですね」
色々と引っかかることをリビーが口にする。
「魔獣が作り出された? 誰かが意図的に作ったということ?」
イネスが僅かに険しい表情でリビーに詰め寄る。
「そうですよっ! 魔獣は自然にはいません。魔王国には魔獣なんていませんから!」
生き生きとうれしそうに返答がある。
「このゼールス領にいた魔獣は、俺達が知る魔獣とは違っている。明らかに強くなっている。原因はわかっているのか?」
次は、グレンがリビーに詰め寄る。
「それは……残念ながら、調査中ですね。どこで作られているのかも」
「それに、人間以外の種族が関わっているんだな?」
「人間には使えない魔法が使われていますからね。しかも、おそらく、上位種か最上位種ですね。手強いですよー。といっても、私も最上位種なんですけどね」
「わかった。俺達は街で情報を集める。シンリー村へは明日、向かうつもりだ」
「私も街に用があります。しばらく、ご一緒しましょうっ!」
リビーと共に、宿を出て、通りを行く。
「ありゃ~。また、魔獣が出たそうですよ。大変ですね」
リビーが急に声を上げる。
周りを見回すが、特に変わりはない。魔獣の姿は見えない。
「私は皆さんより耳がいいんですよ。この町のすぐ近くで商人が襲われたらしいです。もしかすると、その魔獣がこの町に来るかもしれないそうですよ」
「それは、大変じゃないですか!!」
ミアが慌てたように言う。
「はい、大変です! では、さくっと倒しに行きましょうか!」
リビーの声と共に、僕達は町の外へと急いだ。




