134話 セイフォードへ
翌朝、ウィリアムとアーロが訪ねて来たのは、午前10時頃。昨日会った部屋で、再度、彼らに会った。
無事に許可は取れたんだろう。多分、無事に。
今日のわたしは元の世界の高校の制服に似せて作ってもらった服だ。
元の世界の物は大分、失くしてしまった。ボロボロで直す気力も出ない制服だった布切れは一応、大事に魔王国の自室に置いている。
荷物は特にない。必要な物は後で送ってくれるらしい。
行くのは、わたしとメルヴァイナとリーナで、ライナスとティムは王都に残る。
そう決めたのは、メルヴァイナとライナスだ。
わたしはコーディ達がいるから、この王都に来たのに、ここ3、4日、全く会えていない。
どうしたことか?
なにせ、彼らはこの屋敷に戻ってこないのだ。
一体、どこで何をしているのか?
ルカにも全く会っていない。
メルヴァイナに聞いても、知らないと返されるだけだった。
メルヴァイナはルカを避けているし、目的も別々で、本当に知らないのかもしれない。
「では、行きましょう。私の傍にいて。離れないでね、置いて行くから」
ウィリアムとアーロが訪ねて来てすぐに、メルヴァイナが言う。
いつもそんなふうなので、わたしはもう慣れた。
ウィリアムは落ち着いていて、表情も変わらない。
アーロが困惑していたくらいだった。
アーロはウィリアムに引っ張られて、わたし達の傍に寄った。
それを見届けたメルヴァイナはすぐに転移魔法を発動させた。
フォレストレイ侯爵邸の一室から景色が変わる。
以前訪れたことのあるセイフォードの大聖堂の部屋へと移動した。
「どうなっている……」
アーロが呆然と呟いている。
ウィリアムの方は、やっぱり、平静だった。それが当たり前のように。
アーロもすぐに慣れるだろう。だって、便利。なぜ、わたしは使えないんだろう……
待ち構えていたように、部屋の扉が開いた。
扉を開けたのは、神官長だった。魔王国出身の一見、白髪の高齢者だ。絶対に人間ではない。確か、名前はケスティーさん。悪い人ではないと思う。
おそらく、メルヴァイナが連絡していたんだろう。
「お久しぶりでございます。再び、お目に掛かれましたこと、光栄にございます」
神官長は跪きはしなかったけど、深々と頭を下げる。
まだ、ちょっと大げさだ。
「頼んでいたことはちゃんとしてくれた?」
メルヴァイナが神官長に問う。
「勿論です。治癒魔法の件は、あの時の魔法により、その力を失ったと広げております。強欲な者に煩わされることはございませんでしょう」
「ありがとう。ちゃんとしてくれたのね。他のことは、後でゆっくり聞くわ」
大聖堂内で、メルヴァイナと神官長が話をしている間、アーロは忙しなく、辺りを見ている。
「ここは、セイフォード……」と、呟いていた。わたしは見て見ぬふりをしていた。
大聖堂を出ると、広場とその向こうに街並みが見える。
「どう見ても、セイフォードです。確かに直前まで王都にいたはず。これは、魔法なのですか!? こんな魔法は見たことも聞いたこともありません。ウィリアムですら、当然のように。私が無知なのでしょうか?」
アーロの表情から困惑は消え、無知を恥じているというよりは、興味津々というような様子だ。
「転移魔法よ。残念ながら、あなた達には使えないわね。王国では転移魔法を知っている方が稀よ」
「やはり、そうなのですね。魔法とは、火、水、風、土の属性魔法が一般的で、後は治癒魔法。それ以外の魔法があるとは、夢にも思いませんでした。魔法にはまだまだ可能性があるのですね」
アーロが熱っぽく語る。
どこか、アリシアに雰囲気が似ている。何かに熱中するところが。
アーロの興味に付き合う気はなく(メルヴァイナが魔法の話に興味を失ったから)、神官長が用意してくれた馬車で、早速、ゼールス邸へ向かう。
すでに、神官長がわたし達の訪問も伝えてくれているそうだ。仕事が速い。




