133話 セイフォードへ行く理由
わたしの部屋(実際には人の家の部屋)に戻ってきた。
今すぐ、ベッドに潜り込んで、反省しなくてはならない。
わたしって、お飾りの魔王……お飾りと言うほど、魔王らしくもない。
もう、その辺りの通りですぐに紛れられる。
ウィリアムとアーロが訪ねて来た時、あれはなかった。
わたしも話に加わるべきだった。
まあ、何を言えばよかったかはわからないけど。
ウィリアムはわたしの言葉が嘘だとは思えないと言っていたけど、魔王として認識されているかというとされていないと思う。
また、失敗してしまった……
とはいっても、部屋には今、メルヴァイナもいる。
ベッドに潜り込めるはずもなく、ソファに座る。
「メル姉、セイフォードなら、転移魔法ですぐに行って来ればいいんじゃないですか?」
「行ったら、行ったで面倒なのです。転移先は、街の外、どこかの路地裏、大聖堂の中の3点だけですし」
「どこに転移するつもりですか」
「街の外は論外ですね。ゼールス伯爵の屋敷から遠いので。路地裏はだれかに見られる恐れがあります。見られたとしてもどうにかできますが。一番いいのは大聖堂ですね。あの老人に連絡を取っておきます」
あの老人というのは神官長だろう。神官長は年齢不詳の魔王国のスパイだ。
「一番話したかったのは、アリシアさんの遺体が見つかったのは、1か月前だと言っていましたけど、どういうことでしょうか。まだ、セイフォードを出てから、1週間と少しだと思います」
わたしの言葉に、一瞬、きょとんとしたメルヴァイナは、何かに気付いたというような顔になった。
「セイフォードを出てから、もう、1か月と8日になりますよ」
「え?」
「ですから、1か月と8日が経ちます」
にこっと、笑顔でメルヴァイナが答える。
「え? どこで、1か月が経ったんですか?」
「あの不気味な魔王城で、ですよ」
「ほ、ほんとうなんですか?」
「勿論、本当ですよ、メイさま」
1か月、むだにした……
全然、気が付かなかった……
ショックで、崩れ落ちそうになってしまった。
「メイさま、大丈夫ですか?」
メルヴァイナに心配されてしまった。
何でも1か月も遅れたら、取り返しがつくかわからない。
今は、何かある訳ではないから、いいのかもしれないけど。
気を取り直し、メルヴァイナに聞いておきたいことを聞く。
「大丈夫です。それより、わたし達は、セイフォードに何の用で行くんですか?」
「勿論、調査ですよ。普通の人間には使えない闇魔法が使われたのは確かですから。魔王国としては放っておく訳にはいかないのですよ」
メルヴァイナの答えは正論だった。
単に遊びに行きたいとかではなかった。
ただ……
「それは、わたし達が行って、何か役に立つんですか?」
おそらく、神官長を始め、他の魔王国の優秀な人達が調査しているんじゃないかと思う。
「専門的なことは任せています。ただ、私達には私達のできることがあります。メイさま、何もできないということはありませんよ。例えば、あの二人、ウィリアムとアーロと行動を共にすると、また、違った視点で見ることができます」
「わかりました。できることをします。アリシアさんのことも知りたいですし」
「ええ、そうですよ。では、今日はゆっくり休んでください。明日はセイフォードですから」
そう言うと、メルヴァイナは部屋を出て行った。
 




