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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ②
132/316

132話 アリシアの兄 二

「アリシアからの手紙に、貴女はアリシアの友人だということが書かれておりました。その貴女が王都に来ていると聞いたものですから」

アーロ・ゼールスは、落ち着いた口調で言う。

怒っているような印象はない。

わたしはほっとしていた。怒りをぶつけられるかと思っていた。

アリシアがあんなことになったのに、わたしは冷たいのかもしれない。

それに、今日も、黒い服の方がよかったんじゃないかと思う。

「その後、ドレイトン様を追いかけたのか、行方不明となったと父から知らせを受け、そして、1か月前、アリシアの遺体が見つかったと」

1か月前に? 遺体が見つかった?

時間が合わない気がする。

まだ、1週間とちょっとしか経っていないはずだ。

もしかして、ゼールス卿はすでにアリシアが亡くなっているのを知っていた?

「もう、直接、事情を聴くことはできません。アリシアの身に何か起きたのか、少しでも知っていることがあれば、教えていただきたいのです」

アーロは言葉を選ぶように言っている。

それでも、どこか頭の中で整理が付けられていないようなそんな感じがする。

妹が亡くなったのなら、当然かもしれない。

ただ、今のわたしはむしろ、彼がどこまで知っているんだろうということが気になる。

この王国では情報はすぐには伝わらない。

電話もないし、魔法での通信もない。転移魔法も使えない。

聞いたところによると、早馬とか、商人に頼むとか、一部都市間ではそういうことを仕事にしている人もいるそうだ。後、伝書鳩のような鳥を使った通信もあるらしい。

彼は大聖堂でのことを知っている? もう、伝わっている?

考えることがありすぎて、アーロにどう答えればいいのか、全くわからない。

「あなたはどこまで知っているの?」

メルヴァイナが直球でアーロに尋ねる。

「先ほど、申しましたことのみです。父からの知らせには、それ以上のことは書かれておりませんでした。そのことがむしろ、釈然としないのです。父は何かを隠しているのではないかと思うのです。……よほど、悲惨な状態であったのかと……私達伯爵家の醜聞を晒すことにはなりますが……」

「そう。それなら、知らなくていいんじゃないの? 知っても、どうにもできないでしょう? 本当に知りたいなら、父親の元にすぐに行くといいわ」

メルヴァイナはアーロを突き放した。

「……それは……」

「妹よりも、この王都で使命を果たす方が重要なんでしょう?」

「違います!」

アーロが急に立ち上がる。

「これから、父の元へ帰ります。ウィリアム、申し訳ない」

「好きにしてくれ」

ウィリアムの表情は変わらない。

「いいわぁ。行動力のある子は好きよ。私達が送って行ってあげましょうか?」

「それでしたら、私も同行してよろしいでしょうか?」

ウィリアムまで、そんなことを言い出した。

メルヴァイナの言い方に怒った様子もなく、ごく普通に。

「ウィリアム! そんな安易に行ける距離じゃない。往復に一月は必要だ」

逆にアーロが驚いた口調で言う。

「行ったことがあるんだ。知っているに決まっているだろう」

ウィリアムは当然のように言い、メルヴァイナに顔を向ける。

「送って下さるのでしたら、セイフォードまで、どれくらいで到着しますか?」

ウィリアムの言葉に、メルヴァイナは、ふふっと笑う。

「そうね、一瞬だと思うわ」

ウィリアムは転移魔法を見ている。それを期待していたのだろう。

「私達はいつでもいいわよ。私ももう一度、セイフォードに行きたいと思っていたのよね。ちょっとした用事でね」

「それでは、お願いしたいと思います。出発は明日でどうでしょう」

「わかったわ。明日の適当な時間に訪ねて来て」

「ウィリアム! どういうことだ!? 本当に来るのか? それに、許可が出るのか?」

「もう決めたことだ。許可は――こういう時に、父の権力が役に立つ」

ウィリアムは真面目な印象だったけど、そうでもない気がした。

そうして、セイフォード行きが決定した。

わたしは一言も口を利いていない。

そう言えば、自己紹介もしていない。

ただ、そこにいただけ。

わたしの存在意義って何なんだろう……

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