130話 王都での出会い 四
店を出ると、
「一緒に来る?」
フィーナが再度、誘ってくる。
「わ、わたしは止めておきます。コーディ、行きたいなら、行ってください」
「僕も行きません」
「そう? 残念ね」
本当に残念そうにするフィーネに悪いと思う。
それに、もう彼らに会うことはないかもしれない。
「じゃあ、行ってくるわ。ほんとにありがとう」
フィーネはロイを連れて、歩いて行こうとするが、ロイが一人、戻ってきた。
「メイさん、また、お会いできませんか?」
と、そんなうれしいことを言ってくれる。
戻ってきてまで……めちゃくちゃうれしい。
希薄な人間関係じゃない気がする。
ロイとは友達として気が合いそうな気がする。
「はい! ぜひ」
「私は、レックス・フレディ・エヴァーガンと申します。よろしければ、エヴァーガン侯爵家をお訪ねいただければ、うれしいです。場所は貴族街の衛兵にお尋ねくださればわかります。話も通しておきます」
「メイ・コームラです。あの、でも、侯爵家にわたしが行ってもいいんでしょうか?」
侯爵家だと言われ、つい、ロイに対しても口調がちょっと丁寧になる。
平民を気軽に家に招待していいんだろうか? ちょっと心配になる。
わたしはどこからどうみても、一般庶民だと思う。
コーディは……服は庶民的なものだ。その辺りを歩いている人とそう変わりはない。
「は、はい。勿論です」
照れたように笑うロイがかわいすぎる。
「メイさん、それでは」
ロイはフィーナの元に走って行った。フィーナはいい笑顔をロイに向けていた。
ロイとフィーナの姿が見えなくなり、わたし達はまた、二人になった。
癒しを与えてくれるロイと賑やかなフィーナがいなくなり、どうしたらいいのという気がしてくる。
「甘い物が好きだと聞きましたので、食べに行こうかと考えていたのですが、今は止めておきましょう。魔王国に比べると物足りないかもしれませんが、王城が綺麗に見える場所がありますので、付き合っていただけませんか」
コーディからそんな風に言われると、断れるわけがない。
わたしは頷いた。
そもそも、一部とかなら見たけど、ちゃんと王城を見れていない。ちょうどいい機会だ。
コーディと並んで歩く。
せっかくだから、コーディに疑問に思っていたことを聞いてみる。
「あの、コーディ、聖騎士と王国騎士はどう違うんですか? 聖騎士の方が身分が高いんですか?」
「聖騎士は教会所属の騎士です。剣を捧げる主は神となります。実際には教皇ですが。王国騎士は、王国所属の騎士で、主は国王となります。どちらかの身分が高いということはありません」
よく考えると、普通にコーディと話している。
コーディは嫌がる様子は見せず、応えてくれる。
コーディは……わたしが嫌いなんだろうか? 実際のところ、どうなんだろう? 無理して、付き合ってくれているんだろうか?
グレンやイネスやミアには変わらず接しているのに、わたしだけ違う。
本当に距離が遠くなった。避けられている気がする。
いっそのこと、嫌なら嫌だとはっきり言ってほしい。
もう、そのことで頭の中はいっぱいになった。
「コーディ、わたしのこと、どう思っていますか? はっきりと言ってほしいです。前の本契約の時のわたしの態度は悪かったと思います。わたしが嫌いなら、嫌いだと言ってほしいです」
「い、いえ! 嫌いではありません! 僕の方こそ、嫌われているのかと……あなたを妹のように思っていてよろしいでしょうか」
「はい! できれば、兄として、傍にいてほしいです」
「わかりました。あなたの傍にいます」
久しぶりにコーディの優しい声が聞こえた。
コーディの言葉が嘘だとは思えない。
好きになってくれなくても、せめて、嫌われたり恨まれたりしていなくてよかった。
嫌ってないけど、恨んでいるなんてことはないと思う。
かなり迷惑を掛けている事実はあるのだ。
「メイ、ロイに会いに行くのですか?」
コーディがぽつりと言う。
「わかりません。できれば行ってみたいとは思いますけど、相手は侯爵家ですし、行きづらいというのはあります。コーディは、あの二人、ロイとフィーナさんのこと、知っているんですか?」
「ロイとは幼い頃に、僕が4歳の頃に別れたきりです。体が弱く、ほとんど、屋敷からは出ていないと聞いています。フィーナ嬢とは直接会ったことはありません。兄からも特には聞いていません」
「体が弱いという印象はありませんでしたけど?」
「そうですね。僕もずっと会っていませんでしたので、近況はわかりません」
コーディは、ロイのことをかなり気にしている。
ロイと仲良くしたいのか、それにしては、口調が厳しかった気もする。
体が弱かったということで気に掛けているのかもしれない。
それに、別れたということはそれまで一緒にいたということだろうか?
わたしの顔に疑問が浮かんでいたんだろうか、
「調べればすぐにわかることだと思います。僕とは似ていませんが、ロイは僕の実の弟です。母が亡くなった後、別々に引き取られたのです」
コーディがあっさりと言う。
「ロイに言わなくてよかったんですか? それとも、もしかして、気付いてたんでしょうか?」
「それは、わかりません。ただ、ロイの言っていた緑の瞳の兄というのは、僕のことでしょう。エヴァーガン侯爵家には、緑の瞳を持った方はいませんので」
「そうですか……」
「お互い、知らなくてもいいことです。僕の家族はフォレストレイ家の人々ですし、ロイの家族はエヴァーガン侯爵家の方々です」
「それなら、機会があれば、一緒にロイを訪ねましょう。兄弟だと知らなくてもいいかもしれませんが、別に仲良くしてもいいと思います」
「確かにそうですね。一緒に行きます」
わたし達は並んで歩く。
橋の上からは綺麗に王城が見えていた。




