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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第1章
13/316

13話 動揺

突如、広場に現れた魔獣が大聖堂に入ろうとする人達の中に飛び込むのを見ていた。

その光景はすぐ目と鼻の先で起こった。

ミアは耳をぴんと立て、威嚇するように睨んでいる。その鋭い眼光は普段のミアとはあまりにも違う。

人が集まる中を暴れる魔獣。さらにパニックを誘発した。

血飛沫が上がり、人が簡単に吹き飛ばされる。

「こっちだ、魔獣!」

警備隊が人の少ない方へと魔獣を引き付けようとしているが、うまくいっていない。

魔獣が人を咥えている。牙が刺さり、出血がひどい。

魔獣が首を激しく左右に振る。

人が散り散りに逃げ惑っていく。

千切れた人の足が目の前にボトッと落ちた。

ぁ――。

両足がガクガクしている。力が入らない。

魔獣がバキバキと音を立てながら、咀嚼する。

その魔獣と目が合った気がした。

また、足が動かない。射すくめられたように動かない。

魔獣がわたしの方に足を向ける。

ミアがわたしの前に立ち、両手を地面に着く。ミアの臨戦態勢だろう。

「ミア――」

ミアの姿に、自分の不甲斐なさを反省する。

わたしは自分の持つ短剣の存在も忘れていた。

わたしは短剣を鞘から抜き、それを構えた。

「大丈夫だよ、メイ」

そう言うと、ミアは力強く地を蹴った。

ミアは俊敏に一気に魔獣に距離を詰める。人には真似のできない速さだ。

ミアは魔獣の胴に取り付くと、発達した爪を立て、引き下ろす。

魔獣が呻き声を上げる。

それを機とばかりに、警備隊も攻撃に加わる。

魔獣は疎まし気に体を振る。魔獣を倒すには至っていないのだ。

ミアはそれに耐え、爪で魔獣の体を傷つけ続ける。

魔獣もさすがに耐えられないのか、一際大きな呻き声を上げると、突然、走り出した。

「ミア! 逃げて!」

わたしが叫んだ直後、魔獣は自分の体を建物に押し付けた。

ミアが魔獣から転落し、建物の側面が崩れ、ミアの上に降りかかった。

「ミア!」

わたしは咄嗟に魔獣へと駆け出していた。

ミアが殺されてしまう。そんなの、いや!

その時、誰かに腕を掴まれた。

「だめよ。任せて」

イネスの声だった。

魔獣に向かって、複数の槍が飛び、突き刺さる。突き刺さると、それは形状を失い、水となる。

イネスの水の魔法だと理解した。

魔獣がこちらに顔を向ける。魔獣は足をふらつかせ、かなり弱っているように思う。

そこへ、グレンが突っ込んでいく。

グレンの剣が炎を上げ、魔獣の首を切り落とした。

首を失くした魔獣の胴体は、どさっと倒れた。

「ミアは?!」

わたしはミアの元へと駆けた。

ミアは瓦礫の下敷きになっていた。意識もなさそうで、血が出ているのも見える。

「ミア!」

わたしは瓦礫を除けようと奮闘する。

イネスも手伝ってくれ、なんと、グレンも協力してくれた。

なんとか、ミアを瓦礫から引っ張り出せた。

「ミア!」

呼びかけに答えてくれない。

ただ、まだ、息もあり、鼓動を感じる。

それでも、その体はひどい状態だった。

体の左半分を瓦礫で圧迫されていた。すぐに病院に運ばないといけない状態だ。

医療関係者じゃなくてもかなりまずい状態だとわかる。

「医者は? 病院はどこですか?」

「大聖堂にはいると思うけれど……」

イネスは大聖堂へと視線を向ける。

そこには多くの負傷者、ミアよりもっと状態の悪い負傷者もいる。

そして、亡くなってしまった人も。

全然、医療が間に合っていないのがわかる。

処置をしようにも、出血なら止血だが、圧迫の場合、どうすればいいか知識がない。

かと言って、このまま放っておけば、確実に死んでしまう。

どうすればいいの……

気持ちばかりが焦る。

悪いことはさらに続いた。

再び、大聖堂前の広場に魔獣が姿を見せた。しかも、5体同時に。

まるで、目の前で死んでいる魔獣が最期に呼び寄せたかのように。

複数の魔獣の咆哮が広場に響き渡る。

「メイ!」

名前が呼ばれた。コーディがわたしの方に駆けてくる。

「コーディ、ミアが!」

わたしはコーディに縋った。

「申し訳ありません……僕に医療の知識はありません。獣人なので、人間よりは強靭な体です。ミアの治癒力に期待するしか――」

コーディは項垂れた様子だった。

「コーディ、今はあれの始末だ。もっと被害が増えるぞ」

グレンが剣を手に魔獣を凝視する。

魔獣には、既にランドル達警備隊が対峙している。トレヴァーや見覚えのある隊員の姿もある。

他にも、警備隊ではないが、剣や弓を手に武装した人達もいる。

イネスが言っていた魔獣退治専門の人かもしれない。

「グレンの言う通りよ。先に魔獣をどうにかするわ」

「――わかった」

わたしは三人を止めることはできない。魔獣が暴れているのは事実で、少しでも戦力が必要なのは承知している。

「ミアにはわたしがついています」

迷いがあるようなコーディに声を掛ける。

コーディは無言で頷くと、グレンとイネスを追っていく。

わたしは――

選択肢は二つ。医者がいると思われる大聖堂内にミアを運ぶか、それとも、動かさないで戦闘が終わってから医者に来てもらうか。

下手に動かすと悪化させる可能性がある。

ただ、ここが安全であるという保障がないので、このままここにいるのも、別のリスクがある。

戦闘はすぐ近くで行われている。5体もの恐ろしい魔獣。倒すのも、容易ではなさそうだ。

何人かが弾き飛ばされ、ぐったりとしている。その中には警備隊の姿もある。

剣戟、そして、魔法が繰り出されている。

致命傷は与えられておらず、5体もいるせいか、まだ1体も倒せていない。

1体を倒そうとすると、別の1体が邪魔をしていた。

魔法の知識はほとんどないが、強力な魔法で魔獣を仕留められないのだろうか。

もちろん、街中なので限度はあると思うけれど。

例えば、火と風や水と風で威力を増すとか、火と水で爆発を起こすとか。

現実的なのは、威力を増すことだ。爆発だと、威力が予測できないので、かなり危険だ。

そういう理由で使わないのかもしれない。

でも、火災旋風とか疑似的に起こせないだろうか。辺りに火災をまき散らさないようにしなければならないが。

水はウォータージェットなら鉄をも切り裂けるはず。確か、加圧して、細い穴に通し、細かい粒を打ち出すとかだったと思う。

本からの知識で、曖昧で、本当に魔法で再現できるかわからない。

長引かせれば、被害が増えるし、救える命も救えない。

ミアを助けられない。

負傷者や死者は増え、戦える人数も減っていくばかり。

このままでは、コーディやイネスやグレン、ランドル達警備隊も危ない。

「ミア、ごめん。ちょっとだけ、待ってて」

わたしはミアをその場に残し、コーディの元へと駆けた。

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