129話 王都での出会い 三
すると、すぐに、
「ロイーっ!」
大声を張り上げて、女性が駆けてきた。
周りの人達の視線が彼女に集まっている。注目を集めないでほしい。
言われていた特徴通りの女性だ。
「よかったぁ~。心配したんだからぁ~」
「お姉様。ご心配をお掛けしました」
「ほんとよぉ~」
彼女は、相変わらず、大きな声を出し続ける。
わたしの想像する貴族の令嬢とは思えない。
「それで、あなた達は?」
そこで、彼女はわたしとコーディにやっと気づいたらしい。
「お姉様と逸れ、途方に暮れていたところ、この方々が声を掛けてくださったのです。コーディさんとメイさんです」
ロイがわたし達のことを説明した。
「そうだったのね。ありがとう。助かったわ。もう、こんなかわいい弟が連れ去られたら、どうしようかと思ったわ。もう、ほんとにさらいたくなるようなかわいさだもの」
「いえ、いいんです。見つかってよかったです」
「お礼に何か驕るわ。一緒に来て」
わたし達の返事を聞くことなく、彼女は片方の手で弟の手を、もう片方の手でわたしの手を掴み、歩き出す。
結構、強引だった。この人、騎士学校に行っていたのではないんだろうか?
彼女は迷わず、一件の店に入って行く。
こじんまりとした店で、まだ、早い時間だからか、他に客がいない。
彼女は店主と知り合いらしく、親しそうに少し話した後、席に着いた。
「私はフィーナ。この子の姉よ。女神と同じ名前だから、名前負けだって、よく言われるのよ。ほんと、失礼よね」
先ほどとは打って変わって、強気な口調だ。
「騎士学校を出てるんですよね」
「そうよ。興味ある?」
「うーん、わたしも剣術を習っているんです。全然、上達してませんけど。だから、すごいと思って。それに、三席になった女性も」
「デリン侯爵令嬢のこと? 彼女、確かにすごいわね。三席だなんて。私は全然だったわ。ただ、あまりいい噂は聞かないわね。冷酷だとか、氷の令嬢だとか。会ったことないから、本当かは知らないけど、だから、あんなことになったんでしょうし」
結構な言われようだ。
彼女の言う”あんなこと”というのは、おそらく、勇者パーティに入れられたことだろう。
「この後、あなた達も来る?」
「憧れの人に会いにですか?」
「そうなのよ。弟から聞いたのね。もう、それは素晴らしい、素敵な人なの。情けないけど、騎士学校ではよく助けられたわ。ああ、ほんとに素敵なのよ、ジェローム様」
聖騎士で、ジェローム?
嫌な予感しかしない。
「強くて、美しくて、優雅で、優しい、正に、理想の騎士様なのよ」
わたしの知っている昨日会った聖騎士のジェロームとは別人のことだろうか?
別人に違いない。
聖騎士にはジェロームという名前の人が何人かいるに違いない。
「騎士学校でも、私のいたときの首席が彼で、騎士学校の代表を務めていたのよ」
「それは素晴らしい。彼の印象的な出来事等はあるのですか?」
コーディが興味があるのかないのかよくわからない単調ぎみな口調で言う。
わたしの知るジェロームはまあ、あの調子のいいコーディのお兄さんだ。わたしにとっては、優しいのか微妙だ。
理想の騎士というには疑問しかない。
「聞きたい? そうよね、聞きたいわよね」
わたしはあまり聞きたくない。わたし自身は楽しい学生生活とは言えなかった。
しかも、それも急に打ち切られ、魔王としての異世界の生活が始まってしまった。
でも、情報収集ということなら、こういう話は聞いておいた方がいいのかもしれない。
「彼は、フォレストレイ侯爵家の次男で、ジェローム・ダレル・フォレストレイ様というのよ」
そこはぼかしてほしかった。この国の人、結構、はっきり言う。決定的なことは言わないでほしい。
「私も侯爵家だから、家格は釣り合うんだけど、近づくのは恐れ多いわ。少し遠くから見ていたい」
それを見ず知らずのわたし達に言っていいんだろうか?
わたしはちらっと、ロイを見る。
姉の話を止めたいのか、おろおろする姿が何だか、かわいい。
侯爵家だとか、安易に言わない方が賢明だと思う。
その間にも、彼女の話は続く。
ああ、少しの間、聞いてなかった。
「――演習のときは、一人で魔獣を鮮やかに倒したのよ。もう、その姿がかっこよくて、最高だったわ。今でもよく覚えてるのよ」
これは、いつまで聞けばいいんだろう?
コーディは兄の話だから、興味がないわけではないと思う。
彼女の話は、まだまだ続く。
食事をするのに、かなりの時間を要した。主にフィーナの話で。




