128話 王都での出会い 二
歴史のありそうな建物が密集して建っている。
人々が行き交い、それなりに活気はある。
ただ、どことなく、ゼールス領の方がもっと活気があった気がする。
わたしが見たのは、ほんの一部で、もっと賑やかなところがあるのかもしれない。
どうにも、陰気な、色褪せたような、ゼールス領と比べると翳りがあるような気がしてならない。
せっかくコーディといるのに、わたしの気分も晴れやかとはいかない。
コーディは、イネスに頼まれたから、もしくは、わたしが魔王だから、仕方なく付き合ってくれているのだろうか。
コーディは全く話しかけてくれない。
やっぱり断るべきだった。
気まずい……
コーディは、失恋して落ち込んでいるのか、わたしがあまりに嫌いだからなのか、その両方なのか、全っ然、わからない。
ここは、わたしが頑張るしかない。
と、決意したわたしの目がふいに捕らえた。
屋台か何かに使う資材が置かれている。
その陰になった部分に、ひっそりと、男の子が顔を伏せ、蹲っていた。
わたしもそこに座り込みたい気分だ。
見なかったことには、やっぱりできない。
迷子だろうか。
わたしは立ち止まる。
「メイ?」
コーディも立ち止まり、声を掛けてくる。
「あの子、迷子じゃないですか?」
「そうですね。身なりはいいですし。ただ、そこまで幼くはないと思いますが」
わたしの問いかけにコーディは普通に答えてくれる。
確かによく見ると、そこまで小さくはないかもしれない。
で、でも、見捨てていくのは――良心の呵責が……
それに、もしかすると、体調が悪いかもしれない。
わたしはコーディに無言で訴えてみた。
「わかりました。声を掛けてみましょう」
わたしと目が合ったコーディは仕方なさそうに言う。
それを聞いて、わたしはその子の傍に寄る。
「もしかして、迷子?」
そう口にした後、よく考えると、わたしもこの辺りのことを全く知らないことに気が付いた。
コーディと逸れたら、わたしが迷子だ。
相手は反応しないかと思ったが、顔を上げる。
そして、こくりと頷いた。
どうやら、本当に迷子らしい。
「よければ、わたし達と一緒に行く?」
陰からその子が出てくる。
はっきり言って、わたしより身長は10センチメートル程高い。
きらきら輝くさらさらの金髪に青い瞳、童顔でかわいいぽっちゃりとした少年だった。
誘拐されてしまわないか心配になるくらいかわいい。
「私はロイと申します」
声変わりしていない高めの声だ。
まだあどけなさが残っているけど、上品な印象だった。
ロイをじっと見ていたわたしは、はっとして、
「わたしはメイです」
慌てて、自己紹介する。
相手が名乗っているのに、ぼーっとしているのは、失礼だ。
「よろしくお願いします。メイ」
ロイは、わたしの手を取ると、その手の甲に口づけた。
そんなことをされたわたしは、固まっていた。
そんな経験あるわけもなく、どうしたらいいかわからない。
これって、王都では普通の挨拶!?
「そのようなことをするものではありません」
コーディにしては、冷たいような言い方で言う。
やっぱり、普通の挨拶ではなかった。
「すみません。姉から気になる女性にはこうすればいいと教わりました」
「それは、からかわれたんじゃあ?」
わたしがそう言うと、
「そ、そうなのですか!? 本当にすみませんでした! 無礼なことだったのですね。不快な思いをさせてしまい、すみませんでした」
ロイは必死で謝ってきた。
「もう、いいから。びっくりしただけなの」
「それなら、よかったです。ところで、あの方は貴女の護衛でしょうか?」
護衛と言えば、護衛かもしれないけど、そんな言い方をしたくない。
「あ、えっと、友達のコーディ」
そんな風に言われて、コーディは迷惑かもしれないけど。
ロイはコーディの顔を見ている。
「僕に何か?」
「すみません。緑の瞳は珍しいので。私の兄も緑の瞳なんです」
「貴方こそ、護衛も付けずにこのようなところに来てよろしいのですか? 貴族のご子息でしょう? それに、僕達のような平民を信用していいのですか?」
ロイは首を傾げて、考えるような仕草をする。
「貴方方は問題ないと思います。私がそう思うので」
ロイはかわいい笑顔を見せる。
わたしより身長高いけど、なんだか、癒されるような笑顔だ。
内容は全く、根拠がない。それでも、まあいいかと思ってしまう。
「疑ってください。僕達が貴方を誘拐するかもしれません」
コーディはまあいいかとは思わなかったようで、ちゃんと注意していた。確かに、誘拐されたら大変だ。
わたしから見ても、ロイは一般庶民だとは思えない。
既にわたし自身、誘拐されたことがあるのに、暢気すぎたようだ。反省である。
「貴方方はそんなことはしません。自信があります」
「わたし達はそうだけど、でも、ちゃんと注意してね」
「わかりました。ありがとうございます」
「それより、ロイは一人で来たの?」
「いえ、姉に連れ出されました。ですが、その姉と逸れてしまったのです。ほとんど、屋敷から出たことがなく、どうすればいいのか、途方に暮れておりました」
ロイはしょぼんと肩を落とす。
「わたしもお姉さんを捜すのを手伝うわ。コーディもいいですか?」
「協力します」
コーディの答えを聞き、ロイの姉を捜し始める。
ロイの姉は、栗毛で、肩より少し長くわたしより少し短いくらいの髪の長さだそうだ。
この国では、長い髪の女性が多い。わたしやロイの姉の方が珍しいので、十分、特徴となる。
「お姉さんのこと、心配だよね」
「そうですね。ですが、時折、訪れているようですし、それに、姉は強いのです。騎士学校を卒業していますから。姉の憧れる方が騎士学校に通うというので、姉も入学したのです。その方は今、聖騎士をされています。とても素晴らしい方だと姉がつくづく話してくれており、お会いしたいと言いましたら、連れ出してくれたのです」
それで、今に至っているんだろう。
その憧れの人目当てに学校を決めたって、行動力がすごい。わたしは単に学力と家からの距離で高校を決めた。
その素晴らしい憧れの人というのは、イネスのような女性かと思ったが、騎士は女性ではなれないらしい。
「この辺りで逸れたのですか?」
コーディがもっともなことを尋ねる。
「いえ、もう少し、向こうだったと思います。いつの間にか、一人になっていたのです」
ロイが一方を指差す。
「じゃあ、行ってみよう。お姉さんも捜してるかもしれない」
三人で並んで、ロイが指した方へと向かっていく。




