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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ②
128/316

128話 王都での出会い 二

歴史のありそうな建物が密集して建っている。

人々が行き交い、それなりに活気はある。

ただ、どことなく、ゼールス領の方がもっと活気があった気がする。

わたしが見たのは、ほんの一部で、もっと賑やかなところがあるのかもしれない。

どうにも、陰気な、色褪せたような、ゼールス領と比べると翳りがあるような気がしてならない。

せっかくコーディといるのに、わたしの気分も晴れやかとはいかない。

コーディは、イネスに頼まれたから、もしくは、わたしが魔王だから、仕方なく付き合ってくれているのだろうか。

コーディは全く話しかけてくれない。

やっぱり断るべきだった。

気まずい……

コーディは、失恋して落ち込んでいるのか、わたしがあまりに嫌いだからなのか、その両方なのか、全っ然、わからない。

ここは、わたしが頑張るしかない。

と、決意したわたしの目がふいに捕らえた。

屋台か何かに使う資材が置かれている。

その陰になった部分に、ひっそりと、男の子が顔を伏せ、蹲っていた。

わたしもそこに座り込みたい気分だ。

見なかったことには、やっぱりできない。

迷子だろうか。

わたしは立ち止まる。

「メイ?」

コーディも立ち止まり、声を掛けてくる。

「あの子、迷子じゃないですか?」

「そうですね。身なりはいいですし。ただ、そこまで幼くはないと思いますが」

わたしの問いかけにコーディは普通に答えてくれる。

確かによく見ると、そこまで小さくはないかもしれない。

で、でも、見捨てていくのは――良心の呵責が……

それに、もしかすると、体調が悪いかもしれない。

わたしはコーディに無言で訴えてみた。

「わかりました。声を掛けてみましょう」

わたしと目が合ったコーディは仕方なさそうに言う。

それを聞いて、わたしはその子の傍に寄る。

「もしかして、迷子?」

そう口にした後、よく考えると、わたしもこの辺りのことを全く知らないことに気が付いた。

コーディと逸れたら、わたしが迷子だ。

相手は反応しないかと思ったが、顔を上げる。

そして、こくりと頷いた。

どうやら、本当に迷子らしい。

「よければ、わたし達と一緒に行く?」

陰からその子が出てくる。

はっきり言って、わたしより身長は10センチメートル程高い。

きらきら輝くさらさらの金髪に青い瞳、童顔でかわいいぽっちゃりとした少年だった。

誘拐されてしまわないか心配になるくらいかわいい。

「私はロイと申します」

声変わりしていない高めの声だ。

まだあどけなさが残っているけど、上品な印象だった。

ロイをじっと見ていたわたしは、はっとして、

「わたしはメイです」

慌てて、自己紹介する。

相手が名乗っているのに、ぼーっとしているのは、失礼だ。

「よろしくお願いします。メイ」

ロイは、わたしの手を取ると、その手の甲に口づけた。

そんなことをされたわたしは、固まっていた。

そんな経験あるわけもなく、どうしたらいいかわからない。

これって、王都では普通の挨拶!?

「そのようなことをするものではありません」

コーディにしては、冷たいような言い方で言う。

やっぱり、普通の挨拶ではなかった。

「すみません。姉から気になる女性にはこうすればいいと教わりました」

「それは、からかわれたんじゃあ?」

わたしがそう言うと、

「そ、そうなのですか!? 本当にすみませんでした! 無礼なことだったのですね。不快な思いをさせてしまい、すみませんでした」

ロイは必死で謝ってきた。

「もう、いいから。びっくりしただけなの」

「それなら、よかったです。ところで、あの方は貴女の護衛でしょうか?」

護衛と言えば、護衛かもしれないけど、そんな言い方をしたくない。

「あ、えっと、友達のコーディ」

そんな風に言われて、コーディは迷惑かもしれないけど。

ロイはコーディの顔を見ている。

「僕に何か?」

「すみません。緑の瞳は珍しいので。私の兄も緑の瞳なんです」

「貴方こそ、護衛も付けずにこのようなところに来てよろしいのですか? 貴族のご子息でしょう? それに、僕達のような平民を信用していいのですか?」

ロイは首を傾げて、考えるような仕草をする。

「貴方方は問題ないと思います。私がそう思うので」

ロイはかわいい笑顔を見せる。

わたしより身長高いけど、なんだか、癒されるような笑顔だ。

内容は全く、根拠がない。それでも、まあいいかと思ってしまう。

「疑ってください。僕達が貴方を誘拐するかもしれません」

コーディはまあいいかとは思わなかったようで、ちゃんと注意していた。確かに、誘拐されたら大変だ。

わたしから見ても、ロイは一般庶民だとは思えない。

既にわたし自身、誘拐されたことがあるのに、暢気すぎたようだ。反省である。

「貴方方はそんなことはしません。自信があります」

「わたし達はそうだけど、でも、ちゃんと注意してね」

「わかりました。ありがとうございます」

「それより、ロイは一人で来たの?」

「いえ、姉に連れ出されました。ですが、その姉と逸れてしまったのです。ほとんど、屋敷から出たことがなく、どうすればいいのか、途方に暮れておりました」

ロイはしょぼんと肩を落とす。

「わたしもお姉さんを捜すのを手伝うわ。コーディもいいですか?」

「協力します」

コーディの答えを聞き、ロイの姉を捜し始める。

ロイの姉は、栗毛で、肩より少し長くわたしより少し短いくらいの髪の長さだそうだ。

この国では、長い髪の女性が多い。わたしやロイの姉の方が珍しいので、十分、特徴となる。

「お姉さんのこと、心配だよね」

「そうですね。ですが、時折、訪れているようですし、それに、姉は強いのです。騎士学校を卒業していますから。姉の憧れる方が騎士学校に通うというので、姉も入学したのです。その方は今、聖騎士をされています。とても素晴らしい方だと姉がつくづく話してくれており、お会いしたいと言いましたら、連れ出してくれたのです」

それで、今に至っているんだろう。

その憧れの人目当てに学校を決めたって、行動力がすごい。わたしは単に学力と家からの距離で高校を決めた。

その素晴らしい憧れの人というのは、イネスのような女性かと思ったが、騎士は女性ではなれないらしい。

「この辺りで逸れたのですか?」

コーディがもっともなことを尋ねる。

「いえ、もう少し、向こうだったと思います。いつの間にか、一人になっていたのです」

ロイが一方を指差す。

「じゃあ、行ってみよう。お姉さんも捜してるかもしれない」

三人で並んで、ロイが指した方へと向かっていく。

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