127話 王都での出会い
朝、起きて、見慣れない天井そして、部屋。
「あれ? ここどこ?」と、寝ぼけたことを言ってしまった。
今は、フォレストレイ侯爵邸、コーディの家にいるんだった。
剣術の鍛錬はどうしたらいいんだろう?
勝手に人の家の庭を使うわけにはいかないし、部屋で武器を振り回すのも気が引ける。
完全に言い訳だけど。明日は必ずしよう。
今日は、外に出掛けるんだ。
王都を見ておくというのは、いいかもしれない。
王都に着いてから、ほぼ、建物の中だった。
宰相からの指令はかなり難易度が高い。
もう、すでに頓挫しているんじゃないかと思う。
だからといって、たった1日で諦めるのもいやだ。
まずは敵情視察。敵になっては困るんだけど。
朝食より前にイネスが一人でわたしの部屋を訪ねてきた。
部屋に入ってもらうと、イネスはすぐに口を開いた。
「コーディとは幼馴染でしかないわ。結婚なんて考えられない。父からの言いつけであるなら、従ったかもしれないけれど、もう、侯爵令嬢ではないわ。気にすることは何一つないから。あなたが思うようにして」
イネスがそう言った。
もしかして、イネスにバレていた? わたしが、その、コーディのことをす、すきだって。
だから、一人のときに言いに来てくれたのかもしれない。というより、それしか、考えられない。
イネスは応援してくれるということだろう。
「ありがとうございます」
答えに迷ったが、とりあえず、お礼を言っておく。
「いいのよ。コーディには、はっきり言いたいことを言うといいわ」
「で、できれば……」
それは、コーディに好きだと告白しろということだろうか。
正直言って、かなり、告白はしづらい。
コーディがイネスにフラれて、すぐにわたしが好きだと言ったところで、答えてくれる望みはない。絶対、むりだ。
「気付いていなくて、悪かったわ。そういう事だから。それだけ言いに来たのよ。また、後で。案内と護衛は頼んでおいたから」
悶々とするわたしを残し、イネスは部屋を出て行った。
朝食を取った後、いつでも、出掛けられる準備をして待っていた。
今日の服装は、簡素なワンピースだ。昨日のドレスと違って、動きやすい。
再度、イネスが訪ねて来た。
案内と護衛はイネスなのかと思ったが、
「仕事があって、行けないから。コーディに行ってもらうわ」
イネスはそんなことを言った。
イネスの後ろには、コーディがいた。
「イネス、やはり、僕じゃない方がいいんじゃないか」
「何言っているのよ」
二人がそんなやり取りをしている。
イネスはまだしも、コーディはフラれたとは思えない。
まだ、諦めていないということだろうか。
それなら、わたしに望みは全くない。
「コーディ、しっかり、案内と護衛をするのよ」
イネスに見送られ、わたしはコーディと二人で、侯爵家の馬車に乗り、外出することになった。
屋敷の中で会ったメルヴァイナもついてくることはなく、用事があるとどこかへ行ってしまった。
せめて、ミアに一緒に来てもらいたかった。
しかも、かわいいわんこが傍にいてくれたら、犬嫌いでなければ、最高の癒しだと思う。
誰でもいいから、一緒に行ってほしい。
一体、何を話せばいいのかわからない。
馬車の中で二人きりだ。
実際には聞くことはある。というより、聞かないといけないことが。
コーディの家族のことだ。
彼らのことを知らないと、取り込むとか、むりだと思う。知っても、むりだと思うけど。
そもそも、昨日、何も知らないで、侯爵の前に連れ出されたのは、ひどいと思う。
魔王って、何なんだろう……
「メイ、本契約の件は、申し訳ありませんでした」
コーディが沈黙を破って、そう切り出してきた。
「コーディが謝ることは何もありません」
悪いのは、わたしの方だ。
好きだと言う以前の問題だ。
前よりも、コーディと距離がある気がする。
そのことを突きつけられたようで、胸が痛い。
コーディの顔が見れない。
目の前にコーディがいるのに。
とんでもなく、遠くにいるような。
コーディに抱き着きたい。
それじゃあ、変態だ。冷たい目で軽蔑される。
今は、無難にやり過ごすしかない。
でも、つらい。
「あの、コーディ、できればでいいんですけど、前と同じように接してくれませんか?」
わたしが嫌いかもしれない。わたしを恨んでいるかもしれない。
そんな人に言うことじゃないかもしれない。
内心ではびくびくしながら、答えを待つ。
「わかりました……努力します」
冷たい言葉を言われるか、無視されるかと思ったが、そうではなかった。
うれしい答えでもない気がするけど。
やがて、馬車が停車する。
馬車のドアが開かれ、コーディが先に降りる。わたしが降りるときには、コーディが手を差し出してくれる。
こういうところは変わっていない。
わたし達二人を降ろすと、馬車は帰って行った。
しばらく、二人で歩いていく。
わたし達は、一体、どこへ向かっているんだろう。




