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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ②
126/316

126話 フォレストレイ侯爵邸での滞在 二

案内をしてくれている男性は、わたし達のやり取りを待ってくれていた。

「あの、コーディ」

わたしの前に立ったままのコーディに声をかけた。

「兄が失礼しました」

コーディはそう言うと、さっと視線を逸らし、わたしの傍を離れた。

距離を置かれているのは、間違いないだろう。

わたしが魔王だから?

それはまだいい方の解釈だ。

単に嫌われて、避けられているのかもしれない。

わたしは恨まれても仕方ない。

わたし自身も、今は少し距離を置きたい。

イネスにフラれたコーディに何て声を掛けていいのかもわからない。

案内されて、わたしは廊下を進んでいく。

侯爵邸だけあって、立派な建物だ。

とはいっても、魔王城で慣れているからか、特に感動するようなこともない。

イネスも、ミアも、グレンも、わたしをどう思っているんだろう?

彼らがわたしから離れて行ってしまう気がする。

いつものように、慰める。

この世界のたった数人に嫌われたところでどうってことない。

何だか空しい。

結局、どこにいても、わたしはだめなままだ。

こんなことなら、王国に行きたいなんて、言わなければよかった。

いつの間にか、わたしに用意された部屋へと辿り着いていた。

部屋は一人部屋で、中々、いい部屋だ。

急だったのに、用意してもらって申し訳なくなってくる。

今はその部屋で一人だ。

食事も持ってきてくれるとのことだ。

気を遣って、一人にしてくれたのか、面倒なわたしと離れたかったのか。

皆、嫌々、わたしに付き合っているんじゃないか。

考えると、嫌になってくる。

コーディの家族にいい印象を持ってもらいたかった。

魔王では無理に決まっているけど。

フォレストレイ侯爵を取り込むのは厳しそうだ。

まずは、コーディかその兄達に仲介してもらった方がいいと思う。

ただ……前途多難すぎる。

コーディとその兄達と話しづらい。

急に訪ねて行っても、空気を読んでいないような嫌な雰囲気になりそうだ。

いっそのこと、さっき、ジェロームについて行ってもよかったかもしれない。

裏がある気はしたけど。

色々と放り出すように、ベッドに飛び込んだ。

痛くなくてよかった。

前にベッドが硬くて痛かったことを思い出した。


少し遅い食事の後、ドアをノックする音と、ミアの元気な声が聞こえてきた。

「メイ! 今、いい?」

わたしはすぐにドアを開けた。

ミア一人ではなく、イネスもいる。

「メイ、顔が暗い気がするわ」

イネスがいつもの淡々とした口調で言う。

「大丈夫です。さっき、あまりうまくいかなかったと思っていたんです」

「そう。入っても? 今、お茶を用意してもらっているわ」

「どうぞ」

わたしは部屋にイネスとミアを入れた。

部屋にはテーブルとソファが置かれていたので、そこに座ってもらった。

「メイ、元気出して。ボク、協力するから」

ミアが前のめりになる。しっぽがゆさゆさ揺れているのが見えた。

「うん、ミア」

「暗い顔だと、幸せが逃げちゃうから」

「うん、そうだよね」

かわいいミアを見ていると、少し、元気が出た。

「頼っていいのよ。グレンもコーディも」

イネスがまっすぐ、わたしを見つめている。

「でも、グレンもコーディもわたしを嫌っているんじゃないですか?」

「嫌ってなんていないわ」

そこへ、ドアがノックされ、お茶を持ってきたのだと言う声がした。

鍵は掛けていなかったので、そのまま入ってもらった。

侯爵邸のメイドだろう20歳前後ぐらいの女性だった。

てきぱきとお茶の用意を済ませ、部屋を出て行った。

もう、遅い時間なのに、本当に申し訳ない。

話が中断してしまったので、イネスに聞きたいと思っていたことが頭に浮かんだ。

「イネス、その、イネスはコーディのことが好きなんですか? その、結婚とか……」

声に出ていた。しかも、直球すぎた。

「コーディとはただの幼馴染よ」

イネスは即答した。コーディを可哀そうに思うほどに、早かった。

コーディがフラれたっていう、メルヴァイナの話は本当だったんだろう。

「明日、出掛けてきてはどう? 王都は初めてでしょう? 案内と護衛をつけるわ」

イネスが急にそんな提案をしてきた。

「ボクも行きたい!」

「駄目よ、ミア。あなたには仕事があるから」

「すみません。ちゃんと、お仕事します」

イネスに怒られ、ミアの耳がしゅんとなっている。

ミアには悪いけど、かわいい。

にやけそうになるのを堪えた。

「仕事がないときに、一緒に行こう」

そういうと、ミアは嬉しそうに笑ってくれた。

お茶を飲み終えると、二人は部屋を出て行った。

フォレストレイ侯爵を取り込む為の相談もしたいと思っていたのに、すっかり忘れていた。

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