125話 フォレストレイ侯爵邸での滞在
ルカとメルヴァイナはその話に乗り、話を進めてしまった為、ルカを除く、わたし達の滞在先は、ここフォレストレイ侯爵邸となった。
コーディは自宅だから当然として、グレン、イネス、ミアも一緒だ。
拠点の確保に成功した。そういう目的じゃなかったけど。
きっと、わたし達を野放しにはできないとか、そんな理由だろう。
病んでるとか思われていても嫌だ。
自分が魔王だと言い出す人を普通、信じられない。
むしろ、そんなことを言った自分が恥ずかしくなってくる。
そして、状況は、滞在先が決まっただけで変わっていない。
もう一つ、わたしの隣にずっといる偽魔王を消してくれないだろうか。
侯爵への威嚇のつもりかもしれないが、落ち着かない。
「フォレストレイ侯爵、行方知れずになった者達を捜しているのは本当です。私達も捜索しますが、何かわかりましたら、彼らに伝えていただければ、私の耳にも入ります。私はそろそろ帰ることに致します」
ルカは、そう言うと、わたし達の傍を離れ、部屋の端まで移動すると、転移魔法を使い、消え失せた。
まだ、行かないでよー、と心の中で叫びをあげる。
「消えた?」
コーディの兄と思われる男がルカが消えた場所を凝視して、呟く。
王国には、転移魔法もない。闇魔法に続き、この転移魔法を見るのも、初めてだと思う。
ここで転移魔法を使ったのは、見せつける意味があったのだろう。早く家に帰りたいというのもあった気がする。
強硬手段に出られるより、はるかにいい。
「自宅に移動しただけです。転移魔法ですね」
メルヴァイナが説明する。
「便利だな」
小さく、声が聞こえた。わたしもそう思う。
そこで、侯爵が咳払いをした。
問い質されたりするのかと思ったが、
「ゆっくりとしていくといい」
侯爵はそう言うと、退出していった。
まるで、コーディの友達が泊まりに来たような対応だ。
侯爵がいなくなってから、とりあえず、紹介し合うと、その後は重苦しい沈黙があった。
侯爵もいないし、いたとしても、今は話したくない。疲労感がすごい。
ようやく、そこから出て、偽魔王も消え、泊る部屋へと案内されている途中、
「君は本当に魔王?」
好奇心旺盛な子供のような表情で、コーディの兄が話しかけてくる。
魔王と接するにしては、馴れ馴れしいように思う。
もし、わたしが凶悪な魔王なら、即、殺されていそうだ。
ついてくる必要はないが、なぜかついてきた、ジェロームというコーディの次兄。
もう一人の兄、長兄のウィリアムはついてきていないし、もちろん、侯爵もついてきていない。
自分の部屋のあるコーディは、今もいる。
「そうは見えないと思いますが、そうです」
わたしの方を向いたまま、ずっと待っていそうなジェロームに答えた。
「ああ、本当に魔王には見えない」
「見えたものが全てではありません」
わたしは前を向いたまま、そっけなく答える。
「確かにそうだね。だからこそ、君のことがとても気になっているよ」
最初、わたしにかなりの敵意を向けていたはずだが、今は敵意を感じない。
「そうですか」
「つれないなあ。これから、俺の部屋でも来ない?」
さっき、このジェロームは聖騎士だと紹介を受けたが、前にわたしの会った聖騎士達とはすごい違いだ。プライベートではこんなものなんだろうか?
ウィリアムは王国騎士という話だった。そう言えば、聖騎士と王国騎士はどう違うんだろう?
ジェロームの話は聞き流していたが、
「兄様! 他国の王に失礼ではありませんか!」
コーディが割って入ってきた。
わたしはちょっと鬱陶しかっただけで、気にはしていなかった。それではだめだったんだろうか? 多分、魔王として、だめだったんだろう。
コーディがわたしを庇うように立つ。
「あ、ああ……悪かった。それでは、お客人、お寛ぎください」
そう言うと、ジェロームは元来た廊下を引き返していった。
わたし達に探りでも入れるつもりだったんだろうか。
わたしがしっかりしないから、コーディから兄に対して、あんなことを言わせてしまった。
コーディがいて、ジェロームの表情は見えなかったが、逆に悪いことをしてしまった気がした。




