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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ②
123/316

123話 フォレストレイ侯爵 二

空気が重い。耐えられないような雰囲気。

その中心にいるわたしは、どうしたらいいんだろう。

フォレストレイ侯爵がわたしを見据えている。

わたしも視線は外さない。

熊とかには目を逸らしたら襲われる。目の前にいるのは、熊じゃないけど。

「魔王か」

侯爵は、挑んでくるような目つきで、言う。

馬鹿にされている様子でもないし、どういうつもりなのかよくわからない。

わたしは沈黙――単に、何を言えばいいかわからないだけだ。

わたしにできるのは、無表情で、侯爵を見ていることぐらいだ。

「先ほどお会いしたばかりではございますが、お初にお目にかかる方もいらっしゃいますので、まず、名乗らせていただきます。私は、ルカ・メレディスと申します。先ほどは、事情により、国の名を出すことができず、申し訳ございません。私は、魔王国の外交官でございます。今回、我が国の王たる魔王様を案内して参りました」

にこやかなルカの言い方は、鼻に付くように感じる。

仲良くする気はあるんだろうか。まあ、仲良くする気なんてないのか。外交では、そういうこともある気がする。

喧嘩売ってるとまでは言えない。

「勇者は戻ってきた。それは、かつてないことだ。その勇者はあなた方と共にいる」

侯爵は悠然とした口調で言う。侯爵から、グレンが見えているのだろう。

「黒門の向こうに魔王国という国がある、と言う話も強ち、否定できないだろうな」

黒門というのは、王国と魔王国の境界にある巨大な門のことだろう。

黒門と言っても、今は白いはずだ。黒くなるのは、生贄を要求しているのでも何でもなく、メンテナンスの合図だと聞いている。

緊迫した空気の中、わたしはどうすればいいのやら。

正直なところ、勝手にやってほしい。

別に否定してくれてもいい。

「いやいや、そんなわけないだろ。魔王を騙るなんて、胡散臭いにもほどがある。否定できないって、否定しかないだろ。何が目的かしらないが、すぐに追い出すべきだろ?」

妙に明るい小馬鹿にした口調だ。

全てをぶち壊すような発言をしたのは、知らない二人の若い男の内の一人だ。

二人の男は一見すると、立派な騎士のような雰囲気だ。

否定してくれてもいいと思ったけど、空気は読んでほしい。

ただ、実際はその通りだと思う。それが正しい反応だ。

わたしとしては、むしろ、ぶち壊してくれた方がいいかもしれない。

「そうですね。正式に国として名乗りを上げているわけではありませんので、信じてもらえなくとも構いません」

ルカの口調は穏やかなままだ。

「では、そうですね。一つ、お見せ致しましょう。判断材料にしていただければ幸いです」

ルカは何を見せるつもりなのか、かなり気になる。

「それは私が致しましょうか。首と手足を斬り落とすのはどうです? 勿論、ルカお兄さまの」

ただ、メルヴァイナがそれを遮る。

「それは止めてくれるかなぁ、メル」

「いやですわぁ。私の手足は斬り落としましたのに。何も遠慮する必要はございませんよ」

それは、盛大な喧嘩のせいか、例の儀式のせいかはわからないが、今する話ではない。

ルカとメルヴァイナの確執で、変な方向に話が行きそうなところ、

「血で汚すようなことはするな」

とライナスが低い声で牽制する。

すると、わたしのすぐ傍に黒い人型が形作られていく。

闇魔法だ。

ライナスの魔法だろうかと思ったが、違った。

「お前達の言う魔王って、こんな姿なんだろ?」

自信満々でティムが言う。ティムの姿を見てはいないが、滅茶苦茶、胸を張ってそうだ。

多分、ティムの独断だろう。

わたしの傍に出現した魔王もどきは、わたしの身長より遥かに高い。

真っ黒のローブにフード付きのマントを羽織っている。しかも、立派な2本の角がある。顔の部分はよく見えない。

確かに魔王っぽいと思ってしまう。

ところで、交渉?はどうなったんだろうか。

わたし達は、フォレストレイ侯爵を取り込む為に来たはずである。

断じて、冷やかしに来たわけでも、マジックを披露しに来たのでもないはずだ。きっと。メルヴァイナは冷やかしに来たのかもしれない……

これで、今までのルカの苦労(実際に苦労していたかはわからない)が水の泡にならないことを祈る。

元々のルカの計画には、侯爵を取り込むという話はなかったはずである。

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