表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ②
122/316

122話 フォレストレイ侯爵

やがて、馬車が停車する。ただ、馬車のドアは開かないし、一緒に乗っているメルヴァイナ、ライナス、リーナ、ティムは動こうとしない。

「今は、侯爵邸の門前でしょう。しばらく、お待ちください」

メルヴァイナがわたしの疑問に答えてくれる。

そう言えば、訪問の約束なんてしていないだろう。入れてもらえるんだろうか。

なんて思っていると、馬車は動き出した。

次に停車したときには、ドアが開いた。先に4人が馬車を降り、わたしが降りるときには、ルカが手を差し出してくる。

独りで降りられるのに、と思いながらも、わたしは手を預けた。

ここで転ぶと、かっこ悪すぎる。魔王としての威厳とかがまずいと思う。

失敗してはいけないと思うのがいけなかったか、ちょっと躓いた。

全力で誤魔化したし、ルカは何事もないように振舞ってくれた。

目の前には、豪華なお屋敷、わたしは怯みそうになる。

屋敷自体はゼールス卿の屋敷の方が大きいように思うが、それでも、これから、わたしが主体で侯爵と話をしなければならないと思うと、だめだ。

ちょっとトイレに行きたくなってきた。でも、まさか、そんなことを言えるわけがない。

「すぐにフォレストレイ侯爵にお目通りをお願い致します。我が国の王族のお方にございます。ウォストデール公爵からの紹介状を預かっております」

ルカが出迎えてくれた(歓迎してくれているとは思えない)執事だと思われる男性に宣言する。

多分、他人の家でかなり礼儀知らずの振る舞いじゃないかと思う。しかも、ここはコーディの実家だ。

あぁぁぁぁぁぁぁぁ――

わたしの頭の中でわたしの絶望の声が響いている。

わたしにルカのようなそんな度胸はない。

「私の主を待たせるのですか?」

ルカは、柔らかい物腰で言っている。わたしからルカの表情は見えない。ただ、何だか不穏だ。

「お待ち下さいませ」

男性が屋敷の中へ消えていく。

門は通してもらえたものの、完全に不審がられているだろう。

しばらく、ここで待っているのかと思っていたが、ルカはとんでもないことを言い出した。

「では、参りましょうか」

「えっ……」

ルカは当惑するわたしに素晴らしい笑顔を向け、ごく自然にわたしの手を取る。

さっきの人を待ってなくていいの? というか、待ってないとだめだと思う。

すると、変な感覚が襲ってきた。

ちょっと気分が悪くなるような、少し体が浮き上がるようなそんな感覚だ。

目の前には、先ほどの男性の姿が見え、その男性は扉に向かって呼びかけていた。

明らかに、場所が変わっている。転移魔法とは違うように思う。

どちらかと言えば、高速で移動したような感じだ。

「こんな時間に約束もなく、申し訳ございません。至急、面会したいと私の主が申しております」

急に、メルヴァイナが声を上げた。

メルヴァイナは、すかさず、わたしの手を引き、扉の前の男性を押しのけ、扉を開け放つ。

えぇぇぇぇ……

わたしの当惑にはお構いなしで、

「さあ、メイさま。あちらがフォレストレイ侯爵だそうですよ」

とメルヴァイナがわたしに耳打ちし、背中を押す。

もう、どうとでもなれと、わたしは前だけを見て、フォレストレイ侯爵を目指して進む。

「私は、魔王国女王、メイ・コームラ」

侯爵の前で、できるだけ大きな声を出した。

そこに誰がいるのか、全然確認していない。確認するのが怖かったからだ。

無になるのよ。わたしは何も考えない。見えてない。

それでいいのよ、今は。

「あなた方が恐れる黒門の向こうの主、魔王様ですわ」

直ぐ後ろから、メルヴァイナの声が聞こえてきた。

先ほどとは違い、かなり尊大に聞こえる。

もう、穴があれば、すぐに潜り込みたい。

もう、今すぐ、暗い隅で蹲っていたい。

まあ、逃げ道がないことぐらいはすごくよくわかっている。

そして、わたしの目はしっかりと見えている。

目の前には、貴族にしては、体格のしっかりした強そうな男がいる。

負けてはだめだ。わたしは平静を装う。

そこでようやく、周りの様子を窺う。

誰かよくわからない二人の若い男、それと、コーディがわたしを見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ