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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ②
121/320

121話 王国王都へ 五

その10分後、部屋に淡い金髪の20代ぐらいの男が入ってきた。

男は即座にわたしの前に来た。

「あなたが魔王様ですね。魔王様がお美しい方でうれしい限りです。ドレスもよくお似合いです。始めまして、ルカ・メレディスと申します。何年か、こちらに暮らしておりますので、できる限り、協力させていただきます」

彼がわたしに頭を下げてくる。

美しいとか、言わないでほしい。お世辞なのはわかっているけど、委縮してしまう。

「私の従兄です、メイさま。残念ながら、私はこの街に詳しくありませんので、この従兄にお尋ねください」

メルヴァイナは何だか嫌そうに言う。その従兄があまり好きではないのかもしれない。

「メイ・コームラです。よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ、よろしくお願い致します。何でも気軽にお申し付けくださいませ。お役に立てますよう、全力を尽くさせていただきます」

ルカは優しく穏やかな笑みを向けてくる。

「フォレストレイ侯爵には会えるのか」

ライナスが早速、本題を告げる。

「侯爵が屋敷に戻ったことを確認しましたので、これから、侯爵邸に向かいましょう」

「もう、行くんですか!?」

侯爵に会うにしても、明日以降かと思っていた。なにせ、侯爵だ。中々、会うことはできないと思う。

「会えるなら、早い方がいいだろう」

ライナスは何でもないように言う。まあ、このメンバーで緊張しているのは、わたしとリーナだけだ。

「……わかりました」

「まずは、侯爵邸に近い屋敷へ移ります。私が転移魔法を使用します。そこからは、馬車で向かいます。ここでも、転移魔法は使えますが、せっかく、専用の部屋がありますので、そちらを使います」

ルカを先頭に部屋を出て、一番最初に転移してきた部屋へと移った。

おかしな間取りの部屋だと思っていたが、転移専用の部屋らしい。

「魔王様、移動先の屋敷に、グレンとイネスとミアがおります。魔王様がいらっしゃることはまだ、伝えておりません」

転移前、ルカがわたしに伝えてきた。

「あの、コーディは?」

「フォレストレイ侯爵邸におります。グレンとイネスも同行しておりましたが、先に戻って来たのです」

コーディにはすぐに会わずに済む。侯爵邸に着けば、会ってしまうかもしれないけど。

会いたいと思う反面、会いづらい。どう振舞えばいいのか。

会った時のことを考えると、奇行に走りそうだ。

あの時、逃げなければよかった……

後悔しても遅い。

わたしはどうすればいいんだろう? メルヴァイナの言う通り、何もなかったように振舞う?

考え込んでいると、

「移動します」

というルカの声が聞こえてきた。

直後に、部屋が変わった。

窓のある部屋で、テーブルやソファも置いてあり、転移専用の部屋というわけではなさそうだ。

窓から外を見ると、ここも通りに面しているものの、先ほどの通りとは雰囲気が違う。

こちらの方が、洗練されている印象だ。高級住宅街のような感じなのだ。

窓に花を飾っている家もある。

「ここは、ルカさんの家なんですか?」

「ルカと呼び捨ててくださいませ。こちらは私の家ではありませんが、魔王国の王国での拠点の1つです。私は主にこちらに滞在しております」

呼び捨てでいいと言われても、メルヴァイナよりずっと、呼びにくい。

そうしていると、急に、部屋の扉が勢いよく開いた。

「メイ!」

部屋に駆け込んできたのは、ミアだ。

ミアがわたしに飛びついてきた。やっぱり、わんこみたいだ。

「ミア! 家族には会えた?」

「それが、引っ越しちゃってて、会えなかった。どこにいったんだろう?」

ミアは何でもないように、明るく言う。

ミアの家族は、ミアが戻ってくると思っていなかっただろう。手がかりを残していなかったのかもしれない。

「ミアの家族を見つけられるように、わたしも協力するよ」

「ありがとう、メイ。でも、今は、お仕事があるから、それが終わって、時間があれば、捜してみる」

ミアはもう、魔王国で生きることをとっくに決意している。

勇者と旅立つときも、そうだったのだろう。

ミアはすごいと思う。わたしにそんな決断ができるかわからない。

わたしの決意は魔王国で生きることではない。

わたしは……元の世界に戻りたい……家族の元に戻りたい……

でも、コーディやミアや他の皆とも別れたくない……

揺れ動いて、決められない。

「メイ? どうして、王国に? 来るとは聞いていなかったけれど」

扉の方から、イネスの声がした。言葉とは裏腹に、驚いている感じはしない。

イネスが扉の向こうに佇んでいた。傍には、グレンもいる。

「えーっと、フォレストレイ侯爵を魔王国側に取り込めないかと思っているんです」

「そう」

イネスはそれだけ言った。納得したのかしてないのか。それとも、どうでもいいのか。

それと、グレンの大袈裟なため息が聞こえてくる。無理だと言わんばかりだ。

「魔王様、そろそろ、参りましょう。侯爵邸にいる間に話をする方がよろしいでしょう」

わたしはルカに促され、屋敷を出て、馬車に乗る。

イネスとグレンとミアもついてくることになった。彼らは馬車ではなく、歩きなので、少し気が引けた。

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