120話 王国王都へ 四
黒いドレスに着替えさせられ、化粧までされた後、大きな鏡の中のわたしは少し大人っぽく見える。
自分で言うのも、何だけど、すごくいい。
これまで、化粧なんて、ほぼしていない。でも、年を取らないなら、化粧を勉強するのもいい考えだと思う。
全身、真っ黒だけど、ドレスもいい。
ちょっと、うれしくなってくる。
「よく似合っていますよ、メイさま」
一度、部屋を出ていたメルヴァイナがいつの間にか戻ってきていた。
「私は、他の方がよかったと思いますけど」
メルヴァイナは未練がましく、小さな声で呟いた。
その彼女も着替えていた。胸を強調しているのは変わらないが、黒い服で、女騎士のような装いだった。
メルヴァイナと共に、転移の為の部屋へと移動した。
既に、着替え終えたライナスとリーナとティムがいた。
抵抗していたライナスもよく似合っている。
メルヴァイナの着ている服とほぼ同じデザインになっている。
リーナのパンツスタイルは新鮮に映った。しかも、いつもと違い、髪を束ねている。
少なくとも、ドレスコードで追い出されることはなさそうだ。
「じゃあ、向こうに着いた後、私の従兄と会います。私は、王国王都には行ったことがありません。というわけで、ライナス、転移はよろしく」
メルヴァイナがそう言った直後、わたしの心の準備の時間は一切なく、ライナスが転移魔法を使った。
王国に着くのは一瞬だ。もう、本当に、移動したのか疑わしいほどに。
多分、本当なら、かなりの距離があるので、転移魔法がなければ、相当時間が掛かるはずだ。
具体的にどれくらいの距離かは、わからない。
しかも、転移先の部屋には窓もない。家具も一切ない殺風景な部屋だ。
「この建物は、どういう建物なんですか?」
誰にともなく聞いてみる。
「ここは、魔王国で所有しています。もちろん、魔王国の名前は出しませんが。王国民にとって、魔王国は存在しない国ですので。どういう場所かというと、王国で活動する場合の拠点として使用しています」
答えてくれるのは、メルヴァイナだ。
王国民にとって、すぐ傍に魔王国の人がいたりするわけだ。
そもそも、普通に魔王が王国にいたりする。
「いつまでこんな部屋にいるつもりだ」
ライナスが部屋の扉を開け、こちらを振り返った。
「そんなに急ぐ必要ないわよ。私の従兄もまだ、王城から戻っていないわ」
王城というのは、多分、この国の王城なんだろう。
そんなところにも出入りできるということだ。
実は結構すごい人なのかもしれない。ヴァンパイアだろうけど。
あと、部屋を出るのは賛成だ。
王国の王都がどういう感じか気になる。街並みとか。
このドレスでは気軽に外に出ていくことができなさそうなのは、残念だ。汚してしまいそうで怖い。
わたしはライナスについて、部屋を出た。部屋を出るとすぐに階段がある。
階段を下りると、そこに一人の女性がいた。
栗毛とかいうような髪色で肩までできれいに切りそろえている。
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
彼女が案内してくれるらしい。彼女も魔王国出身なんだろうか。人間なんだろうか。つい、そんなことを考えてしまう。
案内された部屋は、ゆったりした広さで、ゆったりしたソファが置かれている。
「こちらでお待ちいただくよう、お願い致します。ルカ・メレディスがすぐに戻ります」
彼女が部屋を出ると、5人だけだ。
わたしは、ソファには座らず、窓に寄り、外を見る。
窓からは、通りが見えている。この建物のすぐ前が通りになっているのだ。そこには、行き交う人々が見えている。全員、人間だ。
残念ながら、王城は見えないようだ。
ただ、何だか、ここから見える街は、古ぼけた印象だ。失礼なことを言って悪いと思うけど。歴史的と言った方がいいのかな。
もっと華やかな街を想像していただけにちょっと、がっかりした。
先ほどとは違う女性がお茶の用意をしてくれたので、ソファに座った。
”すぐ”と確かに言われたと思うが、1時間が経過した。長命種の”すぐ”が、1日以上でないことを祈るだけだ。




