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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ②
119/316

119話 王国王都へ 三

メルヴァイナに魔王の代わりをしてもらった方がまだ、魔王に見えるんじゃないか?

そう考えながらも、口には出さなかった。

それでは、なんとなく、いけない気がした。

いつでも、足元を崩されそうな気がする。

陰った窓ガラスに映ったわたしは見慣れた姿だ。

ボロボロになった高校の制服に似せて作られた服で、高校に通っていたときとほとんど変わらない姿だ。

ただ、その顔はどこか不安げに映る。

こんな顔をしていてはいけない。弱みを見せてはいけない。

もっと、堂々と……未だに、治癒魔法しか使えず、剣術も上達しない、それを思うと、気が沈んでしまう。

魔王というには、呆れるしかない。

気にしても仕方がないけど、どうしても、何かをしようとすると、頭に浮かんでくる。

それでも、王国に行くのを止める気はない。

「メル姉」

メルヴァイナは足を止め、振り返る。

「大丈夫ですよ、メイさま。こんなこともあろうかと、用意しておきました。どこからどうみても、魔王であるように、それはもう、可憐で美しいドレスを!」

まだ、わたしは何も言っていないのに、弾んだ声でメルヴァイナが言う。

魔王って何だろう?

ここでは、そう言えば、神の類だとか言っていた気がする。

実際には、魔王に強さは求められていないのかもしれない。

話を聞く限りでは、発電できればいいようなものだ。電気ではなく、魔力だけど。

そもそも、どうして、宰相はメルヴァイナを止めないのか?

本当なら、魔王を死なせてはいけないはずだ。

安易に王国に行っていいのだろうか? わたしが言い出しておいてなんだけど。

考えても仕方のないことをとりあえず、棚上げして、コーディ達の元に向かう。今はそういうことでいい。

相変わらず上機嫌のメルヴァイナは、わたしの答えも聞かず、廊下を進んでいく。

メルヴァイナにある一室に招き入れられ、待つように言われる。彼女はすぐに部屋を出て行ってしまった。

その部屋には大きな鏡と長椅子が置かれている。大きな試着室といったところだ。

大きな鏡に姿を映す。

異形の化け物に変わるように、姿が揺らめく――

そんな気がした。

もちろん、そんなことはないだろう。

さっきと変わらないわたしが映っているだけだ。

わたしが不気味で気持ちの悪いものになっていくように思う。

鏡に向かって、手を伸ばす。

鏡の中のわたしも同じように手を伸ばしている。

映っているのは、間違いなく、わたしだ。

扉が開き、

「メイさま!」

メルヴァイナの明るい声が響く。

メルヴァイナの後から、侍女?のような同じ服を着た5人の女性達が部屋に入ってくる。

彼女達は、普段、わたしが接する侍女とは服が違っている。

更に、その後から入ってきたのは、ライナス、リーナ、ティムの三人だった。

ライナスはメルヴァイナと対照的に機嫌が悪そうだ。

それを顔に出しているわけではなかったけど、節々にそう感じる。

訳も分からず、連れてこられたという感じがする。

ちなみに、同じく連れてこられたリーナとティムは無表情だ。

「伯父上からの命だ。仕方なく、同行する」

ライナスはわたしを見据えているものの、どことなく気だるげに言う。

一応、どういうことかは聞いているらしい。

余計なことを、という呟きが聞こえてきそうだ。

「御託はいい? それでは、メイさまの衣装を」

メルヴァイナが手をパンパンと2回叩く。

いつの間にか、姿を消していた5人の女性達が続きの部屋から現れる。

女性達はそれぞれ、1着ずつの衣装を持っていた。

「向こうにとって、魔王は恐怖の存在じゃないのか?」

ティムが的確な疑問をメルヴァイナにぶつける。

メルヴァイナの用意した衣装は、絶対に恐怖の存在とはならない。

見た目に反して、強く残忍だというなら、なるかもしれない。恐怖の存在に。わたしの力だけでは無理だけど。

3着を除く2着は、普通に着てみたいドレスだった。

1着は薄いピンク色で、スカートの丈も短めのドレス。もう1着は真っ黒でスカートがふわふわしたドレスだ。

除いた3着は、一見遠目からは真っ白で清楚そうに見えるが、水着に透けているスカートが付いているようなものと、赤と黒で体のラインが思いっきり出そうなものと、布の面積がかなり少ないものだった。

こういう魔王もいなくないかもしれないが、絶対に却下だ。

「そうねぇ。その通りだと思うわ。ただ、今回は必ずしもそうでなくてもいいのよぉ」

「メル姉! この黒いドレスがいいです。これが着たいです!」

わたしは先制攻撃のつもりで、強く主張した。

「そうですか? ですが、一番、地味ですよ。ほら、こちらの方がよくお似合いだと思いますよ。以前、おっしゃられていたように、角を付けても――リーナはどう思う?」

メルヴァイナは、確実に侯爵家から即、追い出されそうな衣装を薦めてくる。

リーナはちらっと、わたしを見ると、弱々しい声で、

「わ、私も、魔王様と同じ、黒いドレスがいいと思います……」

と、わたしに賛同してくれた。

ライナスとティムは我関せずというように、少し離れているのが見えた。

「わかりました。そのドレスに致しましょう」

ごねられるかと思ったが、メルヴァイナは意外とあっさりしていた。

「要は、魔王だと信じても信じなくてもどっちでもいいってことか。信じさせるなら、王都を半壊ぐらいさせるなんて、いいんじゃないか」

ティムが笑い声を上げる。

「ダメよ。さすがに、宰相さまに怒られるわぁ」

怒られる怒られないで判断しないでほしいけどと、思わなくもない会話を聞いていた。

後は、肝心のフォレストレイ侯爵に会ったときの対応だ。

「もし、フォレストレイ侯爵に会えれば、名乗ればいいんですよね?」

「その通りです。会うことは、既に王国にいる従兄にどうにかさせますから、大丈夫ですよ」

度々、話に出てくるそのメルヴァイナの従兄は、もしかして、メルヴァイナによく似ているんじゃないだろうかとふと思う。

「その後は?」

「相手の出方次第ですね」

「……」

そんな臨機応変な対応が求められるの? コミュニケーション能力の不足しているわたしに? しかも、相手は侯爵。もう、不安しかない。

まあ、今更、止めるとは言えない。

逃げ出したくない。

「頑張ります……」

多少、弱々しくなった声でわたしは言った。

「大丈夫ですよ。私達もついておりますから、どうとでもなります」

頼もしげに見えるかはわからないが、メルヴァイナは胸を張る。

「本当に、予め、台詞を決めておかなくていいのか?」

ライナスが真っ当な忠告を挟んでくる。

「いいのよ。今回は。じゃあ、着替えて、いつもの転移室に1時間後に集合よ。ゆっくりしていると、夜になってしまうわ」

メルヴァイナはそう言うと、もう一度、手をパンパンと叩く。

3人の女性達が廊下へと繋がる扉の前に並ぶ。それぞれの手には、黒っぽい服を持っている。

「メイさまのドレスに合わせて、私達の衣装も作ってあるのよ。それに着替えてね。きっと、リーナにはよく似合うわ。何を着ても似合うんだけど」

「メルヴァイナ、私にそのよくわからない服を着ろと?」

ライナスは、冷たい視線をメルヴァイナに向けている。

「ちゃんとした服よ。それに、今回のこの5人の責任者は私よ。私が必要だと言えば、必要なのよ」

わたしは黙っていることにした。

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