118話 王国王都へ 二
どこか上機嫌のメルヴァイナと共に、城の廊下を進む。
大体、大まかに、必要最低限の部屋がどこにあるかはわかるが、わたしが城全体を把握しているわけではない。
案内はされたが、すぐに覚えられるものではない。
メルヴァイナがどこに向かっているか?
予想では、宰相の執務室といったところだと思う。
メルヴァイナは、おそらく、退屈していたから乗り気なのだろう。
着いた先は案の定、見覚えのある部屋、宰相の執務室だ。
直接、来てもいいのかと思ったが、部屋の扉の両側に立つ兵が扉を開ける。
まるで、来ることがわかっていたような対応だ。
一番奥の執務机の向こう側に宰相が立っている。
「魔王様、お呼びいただければ、私が参ります」
宰相がそう言うと、恭しく礼をしてくる。
「宰相さま、魔王さまが王国へ行きたいそうなのです。行ってきてもよろしいでしょうか?」
何の捻りもなく、直球だった。
「ええ、構いません」
難色を示されると思ったけど、宰相はあっさりと認めたのだった。
「ついでに、フォレストレイ侯爵を取り込んでいただけますでしょうか。方法は、魔王様にお任せいたします」
と、そんな条件を付けられた。
フォレストレイ侯爵は、コーディの父親なんだろう。
それなら、コーディに説得してもらうのが、一番だと思う。
それとも、親子喧嘩でもしているんだろうか。
うん、わたしに任せられても困る。
侯爵なんて、どうすればいいのか?
作法もよく知らないし、取り込めるとは到底、思えない。
なぜ、そんな無茶を言ってくれるんだろう?
反感しか買わない気がする。
立派な髭の紳士(フォレストレイ侯爵のことは一切知らないけど)に蔑まれた目で見られる様子が浮かんでくる。
「大丈夫ですよ。私の魅力で取り込みましょう」
メルヴァイナはそう言うが、余計に心配だ。もちろん、有効なときはあるかもしれない。ハニートラップとか。
「貴族の作法なんて、わかるわけがありません。まともに話せるとは……」
「最低限のことはできていらっしゃるように思います。それに、あなた様は、この魔王国の魔王なのです」
最低限は最低限であって、要はギリギリのような。
「そうですね。魔王さまならではの方法でなさればいかがでしょう?」
メルヴァイナが妙に笑顔を向けてくる。
魔王ならでは…………脅迫? 精神操作?
コーディの父親にさすがにそんなことはできない。
「魔王だということを打ち明けるのです! フォレストレイ侯爵がどう出るか……あぁ、楽しみですねぇ」
メルヴァイナは本当に楽しそうだ。
言ったところで、フォレストレイ侯爵はそんなことを信じるだろうか?
変な女だと思われて、摘まみ出されそうな気がする。
「そうと決まれば、すぐに準備をしましょう!」
メルヴァイナは不気味なほど、終始、上機嫌だ。
それに、まだ、決まっていない。
「ライナス、リーナ、ティムもお連れ下さいませ」
宰相が全て、決まったように、付け加える。
既に決定事項であるらしい。
「では、行きましょう、魔王さま」
メルヴァイナが得意気に、声を張り上げる。
あれ、こんな展開、前にもあったような……
執務室を出て、メルヴァイナを追っていく。
「メイさま、王国民に魔王だと認識されるように、飾り立てましょう!」
メルヴァイナが声を弾ませる。
角でもつけさせられるのだろうか?
そもそも、魔王がわたしの時点で、魔王だと認識させることは不可能に思える。
根本的に変えなければならないんじゃないだろうか。




