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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第4章 ②
118/316

118話 王国王都へ 二

どこか上機嫌のメルヴァイナと共に、城の廊下を進む。

大体、大まかに、必要最低限の部屋がどこにあるかはわかるが、わたしが城全体を把握しているわけではない。

案内はされたが、すぐに覚えられるものではない。

メルヴァイナがどこに向かっているか?

予想では、宰相の執務室といったところだと思う。

メルヴァイナは、おそらく、退屈していたから乗り気なのだろう。

着いた先は案の定、見覚えのある部屋、宰相の執務室だ。

直接、来てもいいのかと思ったが、部屋の扉の両側に立つ兵が扉を開ける。

まるで、来ることがわかっていたような対応だ。

一番奥の執務机の向こう側に宰相が立っている。

「魔王様、お呼びいただければ、私が参ります」

宰相がそう言うと、恭しく礼をしてくる。

「宰相さま、魔王さまが王国へ行きたいそうなのです。行ってきてもよろしいでしょうか?」

何の捻りもなく、直球だった。

「ええ、構いません」

難色を示されると思ったけど、宰相はあっさりと認めたのだった。

「ついでに、フォレストレイ侯爵を取り込んでいただけますでしょうか。方法は、魔王様にお任せいたします」

と、そんな条件を付けられた。

フォレストレイ侯爵は、コーディの父親なんだろう。

それなら、コーディに説得してもらうのが、一番だと思う。

それとも、親子喧嘩でもしているんだろうか。

うん、わたしに任せられても困る。

侯爵なんて、どうすればいいのか?

作法もよく知らないし、取り込めるとは到底、思えない。

なぜ、そんな無茶を言ってくれるんだろう?

反感しか買わない気がする。

立派な髭の紳士(フォレストレイ侯爵のことは一切知らないけど)に蔑まれた目で見られる様子が浮かんでくる。

「大丈夫ですよ。私の魅力で取り込みましょう」

メルヴァイナはそう言うが、余計に心配だ。もちろん、有効なときはあるかもしれない。ハニートラップとか。

「貴族の作法なんて、わかるわけがありません。まともに話せるとは……」

「最低限のことはできていらっしゃるように思います。それに、あなた様は、この魔王国の魔王なのです」

最低限は最低限であって、要はギリギリのような。

「そうですね。魔王さまならではの方法でなさればいかがでしょう?」

メルヴァイナが妙に笑顔を向けてくる。

魔王ならでは…………脅迫? 精神操作?

コーディの父親にさすがにそんなことはできない。

「魔王だということを打ち明けるのです! フォレストレイ侯爵がどう出るか……あぁ、楽しみですねぇ」

メルヴァイナは本当に楽しそうだ。

言ったところで、フォレストレイ侯爵はそんなことを信じるだろうか?

変な女だと思われて、摘まみ出されそうな気がする。

「そうと決まれば、すぐに準備をしましょう!」

メルヴァイナは不気味なほど、終始、上機嫌だ。

それに、まだ、決まっていない。

「ライナス、リーナ、ティムもお連れ下さいませ」

宰相が全て、決まったように、付け加える。

既に決定事項であるらしい。

「では、行きましょう、魔王さま」

メルヴァイナが得意気に、声を張り上げる。

あれ、こんな展開、前にもあったような……

執務室を出て、メルヴァイナを追っていく。

「メイさま、王国民に魔王だと認識されるように、飾り立てましょう!」

メルヴァイナが声を弾ませる。

角でもつけさせられるのだろうか?

そもそも、魔王がわたしの時点で、魔王だと認識させることは不可能に思える。

根本的に変えなければならないんじゃないだろうか。

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