117話 王国王都へ
「え!? わたし、そんなこと一言も聞いてないんですけど!?」
わたしはイスから立ち上がり、思わず、大声を張り上げていた。
わたしは、こんな感じじゃなかった気がする。全て、メルヴァイナのせいだと思う。
そんなわたしの状況でも、メルヴァイナはお茶とお菓子を楽しんでいる。
大きな窓からは、穏やかな日の光が入ってきている。別の時間が流れているようだ。
メルヴァイナから正しく今日の朝、コーディ達四人が王国に向かったと聞いた午後の一時。
「魔王であるメイさまが気にされることではありませんよ。彼らは仕事で王国へ向かったのですから。その内、戻ってきます」
「どういう仕事なんですか?」
「詳しくは聞いていませんね。今回は、私の従兄が任されておりますから」
「……」
メルヴァイナにそう言われてしまえば、黙るしかない。
メルヴァイナは関わっていないから、ここでこうしているのだろう。
私の仕事はまだ、”勉強”だ。
大それたことは任せてなんてもらえない。
我儘を言える立場じゃないだろう。
魔王だから、許されるのかもしれないけど、魔王についてもわかっているとは言えない。
戦えないというのもある。
そんな状態で下手に動くのは得策じゃない。
でも、そうは思うけど、納得できない。
わたしも行きたかった……
完全に仲間外れにされた気分だ。
何だか悲しい、寂しい。
元々、仲間ではなかったかぁ……
コーディには会いにくい。わたしは、逃げてしまった。
なぜ、あんなふうに言ってしまったのか?
かなりきつく言ってしまったように思う。
なぜ、コーディとイネスを祝福できないのか?
そうすると決めたはずなのに。
王国のことも気になる。
中途半端なまま、この魔王国に戻ってしまった。
王国に向かったのなら、アリシアのことを調べに行ったのかもしれない。
アリシアのことはわたしも気になっている。
アリシアを恨む気にはならない。
はっきりしたこともわからない。
彼女がわたしの誘拐を指示したと聞いたけど、そう聞いただけだ。
本当なのかはわからない。
「メイさま、考え込んでも仕方ありませんよ。彼らは仕事を終えれば、帰ってきます。何か言いたいのであれば、その時に言えばいいのです。メイさまにはメイさまの役目があります。今は、甘い物でも食べて、落ち着いてください」
優雅にお茶を飲むメルヴァイナを見ると、呆れてくる。
わたしは、とりあえず、イスに座り直した。
「それに、コーディのことはそっとしておいてあげればいいですよ。フラれて落ち込んでるだけなんですから。働いていた方が、気が紛れるでしょう」
ん?
メルヴァイナの言葉に耳をそばだてた。
コーディがフラれた? イネスに?
イネスが相手だから、わたしはコーディを諦めた。
でも……
いやいや、何を思っているんだろう。
そんな、弱みに付け込む様なことを。
そもそも、相手にされないかもしれないけど。
「あの、メル姉、その、少しだけ、相談したいことが……」
相談は、コーディを振り向かせる方法とかではない。
「何でも言ってください、メイさま。私にできることなら、協力しますよ」
メルヴァイナはカップを置き、わたしを見つめてくる。
「わたしも王国に行きたいんです」
「王国に、ですか?」
メルヴァイナは少しだけ、困ったような表情をした。
「何か、方法はありませんか?」
魔王が簡単に国を出てはいけないのだろう。メルヴァイナでも難しいかもしれない。
「では、宰相さまに頼みましょう。私も王国について行きますね」
それでいいのだろうかと思わなくもないが、勝手に魔王国を出ていく方が問題だろう。
「わかりました。そうします」
わたしはメルヴァイナの言うことを受け入れた。




