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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第3章 ③
110/316

110話 彼らとわたしの決断 四

わたしはソファの上で蹲っていた。

ちらっと前を見ると、メルヴァイナとライナスがいる。

「メイさま、仕方ありませんよ。あの子のことは。メイさまが気にされることではありません」

メルヴァイナが気遣わしげに言ってくる。

メルヴァイナは全部、わかっているのだろう。わたしが本契約をしなかった理由を。

わたしは剣術の鍛錬をサボった。コーディ達も一緒だからだ。すぐに会うのは、気が引けた。

わたしは気を紛らわせようと、ゴホールの授業を受けたその後のことだ。

「あの子は大丈夫ですよ。これまで通り、接すればいいかと思います。メイさまが距離を取りたいというのでしたら、それも仕方ありませんが」

「距離を取りたいわけじゃありません……できれば、これまで通り……」

「ただ、あの後は、居たたまれなかったがな」

ライナスが口を出してくる。

「ラ、イ、ナ、ス」

低い声を出すメルヴァイナがライナスを睨みつける。

わたしは二人をぼーっと見ていた。

「コーディは本契約がしたかった? でも、それは……わたしには、やっぱり、できない」

仮契約ではすぐに解除が可能だ。この仮契約でコーディにわたしの魔力を供給しているらしい。

簡単に解除できる仮契約では不安になるのも、無理はないと思う。

これからはこの魔王国で生きていくのだ。不安にもなるに決まっている。

彼らはもう、この魔王国から逃げられない。

これでよかったのか……?

「何とかなりますよ、メイさま。何事もなかったように振舞えばいいと思います」

「それは、そうかもしれません……」

そう答えるが、コーディとイネスにはできれば、今日は会いたくない。

さっきは私の気持ちを誤魔化せたと思う。

でも、さっきは宰相もドリーもいた。緊張する場面で、色々、気が回っていなかった。

そうでなければ、本当に、何事もなかったようになんて、振舞えるのか?

せめて、明日にしてほしい。

この後、今日は、部屋に閉じ籠っていよう。

偶には、逃げさせてほしい。結構、逃げているかもしれないけど。

「結婚のことは、私もイネスから聞きました。仕方ないことだと思いますよ。どうしようもないでしょう。私にはよくある話ですから、気にしていては身が持ちません。これで終わりにして、気持ちを切り替えてください」

メルヴァイナでもよくあることか……

メルヴァイナも失恋するんだ……

メルヴァイナは魅力的だと思う。強引に迫って、逃げられたのだろうか?

「忘れるようにします……」

もう諦めるしかないから、確かにどうにもならない。忘れるしかない。

わたしはコーディとイネスを祝福する!

「それがいいでしょう。これから、色々と大変になりますよ。漸く魔王さまとしてお披露目をと、宰相が申しておりました」

「お、お披露目、ですか? それって……」

わたしはよく王族とかが、バルコニーから手を振っている場面を想像した。

考えただけで、緊張してくる。なんだか、トイレに行きたくなってきた……

次から次へと、何なのだろう。

命の危機でないだけ、ましかもしれないけど。

「もちろん、新たな魔王さまの誕生を国民に知らしめるのです! 100年ぶりのことですから、それはもう、国を挙げて盛大に行われることでしょう!」

「……」

盛り上がるメルヴァイナをよそに、わたしの気は沈んでいく。

騙されているんじゃないかとも思ったが、わたしが魔王だというのは、嘘か本当かで言えば、本当の方に大きく傾いている。

「メイさま? もしかして、街に遊びに行けなくなることを気にしてますか? 大丈夫ですよ。顔を出さなければいいのです。前の魔王さまもそうされていたそうですよ」

気にしてなかったけど、確かにその通りだ。街に行けないのは困る。

「国民の前に出なくていいということですか?」

「いえ、顔は隠していていいということですよ」

……

だめだ……また、緊張してきた……

想像してしまう。大勢の人達の前に晒されているわたし。

顔にはモザイクか、目の上に黒い線が……

なんだか、犯罪者になった気がする。

って、何を考えているのか……

「ああ、お披露目の衣装はどうされますか? やはり、黒ですか? 私にお任せください。素晴らしい衣装を用意します」

メルヴァイナが目を輝かせている。

全て任せたら、とんでもないことになりそうだ。

そんなとんでもない衣装なら、宰相がドリーが止めてくれるとは思う。

でも、一抹の不安が……

「わたし、着たい衣装があります! また、今度、話し合いましょう!」

「もちろんです! ご期待に添えるよう尽力しますよ、メイさま」

「それで、そのお披露目はいつなんですか?」

わたしはちょっと、身構えていた。こういう場合、明日とか言われそうだから。

「半年後ですよ。短いので、のんびりしているとすぐにその日が来てしまいます」

常識的な答えが返ってきたので、逆に少し面食らう。

ただ、そのお披露目からは逃げられそうにない。

元の世界に戻るまでは、ここで魔王としてやっていかないといけない。

これでよかったのだ。

この世界の人を好きになってはいけない。

目的を忘れてはいけない。

わたしは元の世界に戻る!

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