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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第3章 ③
109/316

109話 彼らとわたしの決断 三

宰相に続いて、部屋に入る。

ここに入るのは初めてだ。

部屋は無数にありそうなので、仕方ないだろう。

そもそも、部屋というような大きさではない。

玉座の間に比べると随分狭いが、それでも十分な広さはある。

窓から入る自然光を再現したような明かりは、どこか、王国にあった小さな教会を思い出す。

内装はその教会と比べるべくもなく、豪華だ。

それでも、金ぴかの嫌らしい感じはない。

少しだけ高くなった場所には、立派な椅子が置かれている。

アットホームな謁見の間のような感じだ。

宰相に促され、わたしは多少、躊躇するが、逆らえず、椅子に着く。

既に、魔王四天王はわたしの左側に控えている。逆側には、宰相とドリー。

わたしと向かい合うように、コーディ、イネス、ミア、グレンの四人がいる。

随分、距離が近い気がする。

「さて、王国に帰るのか、それとも、この魔王国で暮らすのか、結論をお聞かせ願えますか? ここで出した結論を覆すことはできません。王国に帰るのでしたら、すぐに帰っていただきます」

そう言う宰相の声はいつもより、低く感じる。

「僕の考えは変わりません。僕はここ魔王国で暮らします」

コーディははっきりとそう言った。

「俺もここで暮らす」

グレンがぶっきらぼうに言い切る。

「勿論、聞かれるまでもないわ。ここに残るわよ」

「ボクも魔王国で頑張ります」

四人共、この場で悩んだりする様子が一切ない。

宰相は鷹揚に頷く。

「では、こちらにサインを。今後、許可なく、この魔王国から出ることを禁じます」

ドリーが一人ずつに書類を差し出し、サインをもらっている。

四人のサインが終わると、ドリーが宰相に合図を送る。

「では、この魔王国の一員として歓迎致します。今後の生活は保障致しましょう。無論、この魔王国内での基本的な自由は認めております」

こうして、あっけなく、結論が出た。わたしが口を挟むこともなく。

というより、一声も出していない。

もう、彼らがサインしてしまった以上、取り消しはできないだろう。宰相が許すとは思えない。

もう一度、わたしから確認すべきだったのかもしれない。

まぁ、何にしても、もう遅い。

それより、わたしはコーディに話さなければならない。

コーディは、きっと、断るに断れなかっただろう。だって、ドリーに言われたから。

わたしは、そこまで考えてなかったからというのと、ドリーに言われたから、本契約をすることに賛成した。

でも、イネスのことを考えると、間違っている。

「コーディ、あの、わたしから話があるんです」

わたしは椅子から立ち上がり、コーディに近づいた。

「はい、どうぞ」

コーディは柔らかな表情だ。

「わたしと本契約をするということになっていましたが、やっぱり、止めたいんです」

わたしは、直球に、はっきりとコーディにそう言った。

「もちろん、仮契約はそのままにしておきます。解除することもありません。一度、口に出したことを取り消してすみませんでした」

わたしは頭を下げる。

「わかり、ました」

コーディの声が聞こえる。

ちょっと、言葉が足りない気がする。でも、コーディはちゃんとわかってくれたと思う。イネスのためだ。

もちろん、具体的な説明なんて、できるわけがない。

わたしの気持ちをコーディに言えるわけがない。

それに、本人から結婚のことを何も聞いてないのに、そのことをわたしが言えるわけがない。

しかも、わたしがそれを知った理由。わたしは盗み聞きをしているのだ。

なんだか、ばつが悪い。

「すみません、先に失礼します」

立ったままだったので、そのまま、部屋を出てしまった。

部屋を出たところで、わたしはまた、後悔した。

余計に印象悪い……

しかも、次に会った時、何て言えばいいのか……

閉まった扉を恨めし気に見つめた。


わたしはソファの上で蹲っていた。

ちらっと前を見ると、メルヴァイナとライナスがいる。

「メイさま、仕方ありませんよ。あの子のことは。メイさまが気にされることではありません」

メルヴァイナが気遣わしげに言ってくる。

わたしは剣術の鍛錬をサボった。コーディ達も一緒だからだ。すぐに会うのは、気が引けた。

わたしは気を紛らわせようと、ゴホールの授業を受けた。

その後のことだ。

「あの子は大丈夫ですよ。これまで通り、接すればいいかと思います。メイさまが距離を取りたいというのでしたら、それも仕方ありませんが」

「距離を取りたいわけじゃありません……できれば、これまで通り……」

「ただ、あの後は、居たたまれなかったがな」

ライナスが口を出してくる。

「ラ、イ、ナ、ス」

メルヴァイナがライナスを睨みつける。

わたしは二人をぼーっと見ていた。

「コーディは本契約がしたかった? でも、それは……わたしには、やっぱり、できない」

仮契約ではすぐに解除が可能だ。この仮契約でコーディにわたしの魔力を供給しているらしい。

簡単に解除できる仮契約では不安になるのも、無理はないと思う。

これからはこの魔王国で生きていくのだ。不安にもなるに決まっている。

彼らはもう、この魔王国から逃げられない。

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