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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第3章 ③
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108話 彼らとわたしの決断 二

わたしは、コーディに結婚してほしくないんだ。

二人を祝福しないといけない。

わたしはコーディと一緒にいたかった。

でも、それなら、友達でも、兄妹でもいいはず。

単に、二人が結婚してしまうと、構ってもらえなくなるからだろうか?

小さいころ遊んでくれていた年の離れた従姉が結婚して、疎遠になってしまったように。

胸が詰まる気がする。

なんだか、よくわからない。

コーディはイネスと結婚する。

二人はお似合いだ。

それなのに、わたしがコーディと結婚したかった?

そもそも、コーディと付き合ってすらいない。

でも……

わたしはコーディが好きだった。

それは、兄として、じゃない。

わたしはコーディを兄なんて、思っていなかったんだろう。

でも、これからは、ちゃんと、兄と思わないといけない。

好きだと自覚した瞬間、わたしは失恋した。

他に好きな人がいる人を好きになるなんて、わたしは馬鹿だ。

それに、この世界の人を好きになるのも。

そんなこと、絶対ないと思っていたのに。

しかも、彼の好きな人も、わたしにとって、大事な人だ。

諦める、一択しかない。

最初、こんな人を好きになるなんて、あり得ないと思っていたのに。

わたしとは釣り合わない、そう思っていたはずなのに。

コーディ、結婚しないで……

なんだか、自分が嫌だな……

二人を祝福できないわたしが。

自分が汚い存在に思えてくる。

諦めろ。忘れろ。

わたしの初恋は終わった。初恋なんて、そんなものだろう。

わたしは二人を祝福する。

それなのに、目頭が熱くなってくる。

涙を拭って、耐えた。

植込みの陰に隠れたまま、二人がいなくなるまで、そこに座り込んでいた。

誰もいなくなった庭園で、佇んだ。

独りだ。

綺麗だった庭園が物悲しく見えた。

わたしにできることは、わたしとの本契約を止めることだ。

結婚も契約だ。それなのに、わたしと契約と結ぶなんて、いいはずがない。

そう考えると、イネスも本心では、わたしとコーディの契約が嫌だったかもしれない。

迂闊なのは、わたしなんだ。

イネスを傷付けていたかもしれない。ずっと、そうだった。


翌朝、朝食後すぐに宰相とドリーに会いにいった。

少し寝不足な気がする。

あまり眠れなかった。なんだかんだ言っても、結局は寝たけど。

昨日のことは、昨日で終わりだ。

宰相とドリーには、昨日の内に話したいと伝えてもらっていたので、すんなりと会えた。

宰相とドリーとはそれほど、会う機会はない。

会うのは、問題が起きたときぐらいだった。

会う目的は、コーディがここに残るとしても、本契約はしないということを伝えるため。

これだけはちゃんとしないといけない。

そして、コーディとイネスを祝福するのだ。

もしかすると、この後、彼らに会ったときにそういう話があるのかもしれない。

……平常心でいられるのだろうか?

自分のことがわからない……

前にも一度、訪れた、魔王四天王と初めて会った部屋で、宰相とドリーを前にする。

ちょっと、緊張する。

今は、メルヴァイナやライナスもいない。

部屋には三人だけだ。

「魔王様、何か問題がございましたか?」

一向に話し出さないわたしを見かねたのか、宰相が問いかけてくる。

「あの、一昨日の、街から戻ってきたときの話なんですが、えっと、その、本契約の――」

「そちらについては、恙なく行いましょう。手筈は全て、私共が行いますので、心配されることはありません」

「いえ、そうではなくて、本契約を結ぶのを止めたいんです」

「あなた様がそうおっしゃられるのでしたら、止めて構いません」

「本当に止めるのですか?」

ドリーが納得いかないような表情で言う。

「はい。今すぐ、本契約を結ぶ必要はないと思います。仮契約のままでも、十分だと思います。仮契約は時間が経てば、切れてしまうとかはないですよね?」

「仮契約でも、魔王様の意思で解除しなければ、切れることはありません」

ドリーがはっきりと言い切るので、勝手に解除されたりしないのだろう。

「それなら、それで十分だと思います」

「かしこまりました。仰せの通りに致します。他にご用はございますか?」

宰相の目的から言えば、本契約を結ぶ方がいいとは思うが、宰相はあっさりと承諾してくれた。

「それだけです。他には特にありません」

「魔王様、私は準備がありますので、先に失礼します」

ドリーはゆったりとスカートの裾を持ち上げ、軽く会釈し、部屋を出て行った。

その優雅な様子に見惚れていると、部屋には宰相と二人きりになってしまった。

「お加減が優れませんか?」

よく通る宰相の声。

その声がいつになく優しげで、逆に強張ってしまう。

「いえ、そんなことはありません。ただ、コーディとイネスが結婚するという話を聞いて」

上がってしまって、いらないことまで話してしまう。

「そのような話は届いておりませんが」

「そうなんですね」

「それが本当でしたら、残念です。王配となれるよう、鍛えようと思っておりました」

そ、そんなことを……

それはそれでコーディがかわいそうな気がする。

ドレイトン先生と同じような気配がする。

「それでは、早急に別の者をご用意致しましょうか?」

宰相は至って真面目に言っている。冗談で言っているのではないのだ。

曖昧に濁すと本当に用意されそうだ。

「遠慮します! 不要です!」

というわけで、声を荒げることになった。

ちょっと、気分がましになった。

「少し、寂しくなっただけなんです。すぐに落ち着きます」

もし、宰相にわたしのコーディへの気持ちを知られたら、どうなるかわからない。

主に、コーディが。

何をされるかわからない怖さがある。

ある意味で、メルヴァイナやライナスよりも更に、怖い気がする。

「承知致しました。気が変わりましたら、いつでも、お知らせ下さいませ。それでは、そろそろ、参りましょうか」

「はい」

コーディ、イネス、ミア、グレンの四人の出した結論を聞きに行く。

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