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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第3章 ③
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107話 彼らとわたしの決断

騎士団の演習場から部屋に戻った後、一人で本を読んでいた。

本の内容は、魔王国の歴史とかではなく、冒険譚だ。

現実逃避に近い。というより、そうかな。

本を読んでいる間にディナーの時間になり、一人、食堂で食事をした。

皆と一緒に食べればよかったと思う。

部屋に戻ると、もう、すっかり日は沈んでいる。

とうとう、明日だ。

彼らがどういう結論を出すのか、わからない。

残ってくれるのか、王国に帰ってしまうのか。

残ってくれるとは言っていた。

でも……

王国へ帰るなら、本当に、二度と会うことはないのかもしれない。

それは……

嫌だ……

ディナーの後だが、まだ、遅い時間ではない。

わたしは気合を入れて、もう一度、部屋を出た。

彼らの部屋の場所は案内されなくても、わかっている。

まずは、イネスの部屋だ。

昨日も来ているから、訪ねやすい。

部屋をノックする。

でも、応答がない。

「イネス」

呼びかけるが、返事がない。

もしかして、もう寝てしまったのだろうか。

諦めて、すぐ近くのコーディの部屋をノックして呼びかけるが、コーディも応答がない。

しょうがないか……

わたしがすごすごと部屋に戻ろうというとき、

「メイ!」

後ろから声が掛かった。ミアの明るい声に何だか、安堵する。

ただ、ミアは部屋から出てきたわけではなかった。ミアの部屋とは逆の方から現れた。

「ミア! どこかに行っていたの?」

「お庭に。すっごく、きれいだったよ。魔法の光があって。イネス様に誘われたの」

イルミネーションでもやっているんだろうか?

何も聞いてないけど。

わたしも誘ってほしかった……

「イネスは?」

「まだ、お庭にいると思うよ。三人で話があるからって、ボクだけ先に戻ってきたの」

「そっか。ありがとう」

「メイ、ボクはここに残るから。ずっと、一緒にいてね」

ミアはわたしを不安そうに窺っている。

「もちろん。ミアがここに残ると決断するなら、ずっと、一緒にいるよ」

わたしは口角を上げ、笑みを作って、言う。

わたしは、ミアを含めて、ここに残ってほしいのか、王国へ帰ってほしいのか。

自分でもよくわからなくなってくる。

「絶対だよ、メイ。おやすみ」

ミアは自分の部屋に向かって、駆けていく。

ミアが部屋に入ったことを見届けた。

三人の元に行ってみようか。

でも……

三人だけで話したいのかもしれない。わたしに来られると迷惑かもしれない。

三人の話の内容は簡単に想像がつく。

明日出す結論についてだろう。

彼らにとっても、重要な選択だ。

その後の人生が掛かっているようなものだ。

わたしはどこか、部外者のような気がする。

わたしは、彼らの本当の”仲間”ではない。

仲のいいグループのその一人の妹のような立ち位置だ。

かと言って、魔王四天王とも”仲間”とは言えない。

どちらかと言えば、主従関係? ”主”とは思われてないけど。

そう考えると、中途半端な存在だと思う。

元々、異世界から来ているから、本当に部外者なのかもしれない。

まあ、宇宙の彼方の惑星に転移させられたという説も消えてはいない。

何にしても、異質な存在なんだと思う。

でも……

ちょっと、様子を見に行くだけ……

邪魔そうなら、すぐに戻ればいい。

ミアの言うお庭は、いつも剣術の鍛錬をしている庭園だろうか。

わたし達がすぐに行ける庭と言えば、そこしかない。

剣術の鍛錬で使っているのは、庭園のほんの一角に過ぎない。

庭園の奥の方までは行ったことがない。

近くを散歩したことはあるが、確かに城の庭園だけあって、しっかり整えられていた。

バラや色々な花が咲いていたり、円錐のように剪定された木があったり。

それでも、夜に来たことはない。

なんだか、悪いことをしている気になってくる。

自然と、足は忍び足のように音を立てないように、歩いていた。

いつものように、庭園に出る。特に鍵は掛かっていなかった。

夜の庭園は、特にイルミネーションをしているわけではなかった。

それでも、防犯の為か、明かりが点けられている。暖色系の落ち着いた明かりだ。

中々、いい雰囲気だ。恋人とでも、来ればいいのかもしれない。

元の世界なら、恋人同士だらけで、来辛いような、そんな雰囲気だ。

ぱっと見たところ、誰の姿もない。

ここじゃなかったのだろうか。

不安に思いながらも、先に進む。

すると、微かに話し声が耳に届いた。

何を言っているのかは全然わからないが、人の声なのは間違いない。

もう少しだけ、先に進む。

木の影などに隠れながら、今回は、意図して、忍び足で。

話しているのは、イネスとコーディだ。二人の声で間違いない。

所々、単語が聞こえてくる。

こっそりと、声のする方を覗くと、イネスとコーディの姿が見えた。

二人っきりで、見つめ合っているように見える。

ように見えるというより、そうなんだろう。

甘い恋人同士のようだ。

これは、邪魔してはいけない。

そして、ふと、コーディの言葉が聞こえた。

「――結婚――」

そう、結婚という言葉だ。

これって、プロポーズ!?

「――ここで、二人――」

コーディの言葉が続く。耳を凝らしても、はっきりとは聞こえない。

それでも、それは、プロポーズなのだろう。

「いいと思うわ」

イネスの声が聞こえる。

イネスの答えはイエスだ。

二人は、結婚するんだ……

わたしはその場に座り込んでいた。

うれしいとかではなかった。

わたしはショックを受けていた。

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