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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第3章 ③
104/316

104話 魔王の休日 四

戻ると、そこには、ドリー、それに、最初で別れることになったメルヴァイナとライナスが待っていた。

もしかして、怒られるのでは、と思ったが、ドリーは穏やかな笑顔だった。

「お疲れ様です。魔王様」

ただ、問題はどうして、待ち構えていたか、だ。

わたしの失敗を見越して、フォローするつもりだろうか。

「本日は、楽しめましたか?」

未だにドリーの穏やかな笑顔は崩れていない。

女神のような彼女に、どんなきついことを言われるか、気が気じゃない。

笑顔のまま、言葉で刺されそうだ。

ギリシア神話や日本神話の女神は結構、苛烈だった気がするので、単にわたしの偏見で、実際にはドリーは穏やかで寛大なのかもしれない。

「は、はい」

どう答えていいかわからず、一言だけで済ませてしまった。

「そうですか」

ドリーはそれでも、笑顔だ。

「魔王様、コーディ様とは現在、仮の契約を結ばれているとお聞き致しました」

あれだ。騙して、結んだ悪徳商法まがいの契約。

「はい、そうです」

「コーディ様が残られるのでしたら、本契約を結んではいかがですか?」

「あ、ええ? あの契約……」

「魔王様、お嫌ですか?」

「い、いいえ」

わたしはコーディに視線を投げた。

「僕はメイがいいのであれば、かまいません」

コーディはそれでいいのかと言いたいくらい、あっさりとそう言った。

「では、本契約を結びましょう。明後日、コーディ様がこちらに留まると結論を出されれば、すぐに行いましょう」

「わかりました」

「魔王様、明日は剣術の鍛錬に必ず、来るようにとドレイトン様から伝言を預かっております。折角ですから、皆様もお会いになってはいかがでしょう」

明日はあるだろうと思っていた。今日、休みにしてくれたことの方が奇跡だ。

少しさぼったのは、すぐにばれそうだ。

普段はゆるそうなドレイトン先生は、剣術に関しては全くゆるくない。

会うのは、ちょっと怖い。でも、会わない訳にはいかない。

それに、ドレイトン先生は甥であるグレンには会いたいと言っていたし、コーディも会ってみたいと言っていたからちょうどいいのかもしれない。

怒られるのが、少しましになるかもしれないとは、断じて、思っていない。

「それがいいと思います。明日、一緒にドレイトン先生の剣術の鍛錬に付き合いませんか? グレンの伯父さんで、前の勇者です」

「ぜひ、ご一緒させてください。お会いしたいと思っておりました」

コーディは会いたいと言っていただけあって、前のめりだ。

コーディが元気そうで本当によかった。二度と恐ろしい経験を思い出させないようにしないといけない。

「もちろん、付き合うわ」「ボクも」

イネスとミアも来てくれる。

グレンは行くとも行かないとも言わなかった。

「私はまだ、魔王様に用がありますので、先に部屋へとお戻りください」

ドリーはコーディ達四人に部屋を出るように促す。

四人が出て行ったのを見届けると、ドリーがわたしに向き直る。笑みを浮かべたまま。

ちょっと、怖い。

これから、怒られるのだろうか。

「魔王様」

「は、はい」

体がびくっとなった。

「彼らに残っていただけそうで何よりです」

「で、でも、まだ、明日にならないと……」

とてもではないが、自信満々に頷けない。うまくいったとは全く思えない。

わたしは全然、期待に応えられていないだろう。

「魔王様、もっと、気楽になさってください。仮に今回、失敗したとしても、私達が責めることはありません。また、次があります」

わたしの考えを察したかのように、ドリーが言ってくる。

というより、”次”って何だろう。どこかに放り込まれるのだろうか。

「は、はい」

と答えるが、不安しかない。

「ですが、コーディ様にはぜひ、本契約を結んでいただき、行く行くは、王配になっていただいてもいいかもしれません」

はいと返事しそうになったが、

「お、王配って、女王の夫!? わたしがコーディと結婚するってことですか!?」

「ええ、勿論、そうです」

「それは無理だと思います……」

コーディにはイネスがいる。それはあり得ないことだ。

「そうですね。魔王様がお嫌でしたら、無理にとは申しません」

わたしが嫌というより、向こうが嫌だろう。

「メイさまはあの子、コーディとの結婚は嫌なのですか?」

今まで黙っていたメルヴァイナが質問してくる。

「えーと、彼と結婚するつもりはありません」

「う~ん、そうなのですね。まぁ、仕方ありません」

メルヴァイナは何とも言えない表情をしている。

深く考えてもしょうがない。

「魔王様、街へ出られて、お疲れでしょう。この後はゆっくりとお過ごしくださいませ」

ドリーの微笑みに見送られ、わたしは転送用の部屋を出て、自分の部屋に向かった。

彼らがどう思っているのか。

話してみないとわからないというが、話すのは、中々、難しい。わたしにとっては。

イネスとミアには話してみたが、未だに、コーディとグレンとはちゃんと話せていない。

今日は疲れた……休みと言えば休みかもしれなかったけど……

思い返してみると、後悔ばかり。

わたしはまた、ベッドでぐるんぐるんと転がっていた。後悔から逃れるように。


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