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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第3章 ③
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100話 彼らの選択

もう、深夜のような気がしていたが、実際はまだ、21時ぐらいだった。

わたしは自分の部屋に戻ってきた。

大分、戻っていなかったような気がする。

部屋は変わっていない。しかも、ほこり一つ見当たらず、綺麗にされていた。

最初は豪華すぎて落ち着かなかった部屋も、すっかり、自分の部屋だと認識でき、落ち着ける。

ただ、今は、明日考えようと思いはしたが、不安は消えてなくならない。

とりあえず、部屋に運んでもらった軽食を食べ、シャワーを浴びてから、ベッドに入った。

ベッドに入ったものの、眠れない。

ああ、どうしよう。明日、どうしよう。

そればかりだ。

わたしはがばっと起き上がった。

イネスに会いに行こう!

そう思い立った。

明日をただ、待っているだけというのは辛すぎる。

それなら、いっそのこと、今の方がいい。

二人だけの方が、本音を言ってくれるかもしれない。

わたしが嫌いなら、嫌いだとはっきり言ってくれればいい。

迷惑かもしれないということは頭をよぎったけど、居ても立っても居られない。

シンプルなワンピースに着替え、侍女を呼んだ。

行かせてもらえないかもしれないとも思ったが、特に止められることはなく、案内してもらえた。

特別区の外ではあったが、割と近い位置に彼らのいる部屋があった。

イネスの部屋の前、ノックしようとして、躊躇してしまう。

スーハ―と深く呼吸して、よしっと頭の中で言う。

思い切って、ノックした。

「イネス、少しだけ、話がしたいんです」

扉越しに呼びかけた。

すぐに扉が開き、イネスの姿が見える。

「メイ、入って」

いつもの淡々とした口調。そのイネスの様子からは、何も読み取れない。

部屋に入ると、そこにミアもいた。

「メイ!」

ミアはわたしに満面の笑みで駆け寄ってくる。

案の定、ミアに抱き着かれて、よろける。

それを予期していただろうイネスに支えられる。

なんだか、前とちっとも変わらない。

「ミア……」

「ここの食べ物、すごくおいしかった!」

最初の一言がそれでいいのだろうか。

ただ、彼らに宛がわれている部屋は広さもあり、シンプルながら、快適そうな部屋だ。

不当な扱いはされていないようで、よかった。

「ミア、何かつらいこととかはない?」

「ううん。よくしてもらってるよ」

イネスもミアもいつも通りすぎて、責められないからと甘えてしまいそうになる。

何事もなかったかのように。

でも、だめだ。

「わたしを責めないんですか……わたしは嘘を吐いたのに……」

「ここに来たのは、メイ、あなたを護る為だった。元々、そういうこともあるかもしれないと、考えていたから。あなたが無事なら、それでいいわ」

イネスは何でもないように言う。

「もう、普通の人間に戻れません……」

年は取らないし、再生能力なんてものがある。まあ、その再生能力があるからこそ、今、生きているけど。

「国に生贄にされて、家族に捨てられたわ。戻るところはないから。だから、気にすることはないのよ」

「わたしが魔王であることを受け入れたのは、故郷に帰りたかったからです。魔法の発達したこの魔王国なら、何か方法があるかもしれないと思っています。騙されているのかもしれないとも思いました。でも、わたしもわたしの目的のために、この国を利用できるかもしれないと。それで、今回のことにも協力したんです。わたしの意志で、したことです。わたしは恨まれても仕方ないと思います」

「メイ、申し訳ないけど、あなたを憎いとは全く思わないわ。むしろ、よかったと思っているのよ。王国には居場所がないし。ここに好条件でおいてもらえるなら。ここに残るわ。この国を利用する、とてもいいと思うわ」

「イネス……」

イネスも優しすぎる。

自分勝手な考えかもしれないけど、そんなイネスを否定したくない。

本当は恨んでいるとか、憎んでいるとか、そんなこと、考えたくない。

それでも、彼らに対して、罪悪感はある。

「それなら、聞かせて。魔王というのは、どういう存在なの? どうして、メイが魔王になったの?」

「わたしもはっきりとは言えないんです。あ、秘密という意味じゃなくて、まだ、よくわからないということです。ただ、この国を維持する為の魔力を供給する存在のようです。この国中を囲む結界の維持も。とはいっても、魔力が吸収されているような感覚はありません。魔王になったのは、この国を維持できるくらい魔力が多いということだと思います。わたしには全く実感はないので、少し疑わしいですけど」

「なるほど。魔王はそういうもの、なのね。それで、十分な答えよ。じゃあ、ここに残るわね。ここで騎士を目指すわ」

これで決定と言わんばかりに、イネスが宣言する。

「ボクも、残る! メイとイネス様と一緒にいます!」

ミアもつられて、そんなことを言う。

ただ、ミアはイネスとは条件が違う。彼女は自ら、勇者パーティに加わることを志願した。

イネスが残るからと言って、それで決めるのではなく、自分で選んでほしい。

「ミア、ちゃんと考えて、本当に望む方にしてほしい。ここに残れば、王国の家族に会えるかわからない。ミアはそれでもいいの?」

家族に会えなくなるのは、つらい。わたしもそうだから。

ミアが家族のために勇者パーティに加わったことは聞いている。詳しい経緯は知らないから、どんな家族だったのかは知る由もないけど。

「ボクはもう、15歳だから。ボク達、獣人は15歳で独り立ちするものだから。ボクは独り立ちして、ここで生活していくの。もう、決めたことだよ」

「うん、わかった」

わたしはそれだけ言った。あまり言ってしまうと、もし、二人の気が変わったとき、言い出しにくいかもしれないから。

「コーディとグレンは――」

わたしは言いかけて、止めた。

ネガティブなことばかり言っていたくない。

彼らこそ、わたしを恨んでいるかもしれないなんて。

コーディは優しいし、グレンもそんなに悪い人じゃない。グレンは悪ぶっているだけのような気がする。

そんな二人のことを勝手に決めつけて、言うことじゃない。

「あの二人は気にしなくていいわ。好きにするでしょう。もう、答えは出ているはずよ」

「そうですね……」

「ええ。それより、明日は街へ案内してもらえると聞いたわ。楽しみにしているわ」

「ボクも楽しみです」

「イネス、ミア、ありがとうございます」

わたしはミアと共に、イネスの部屋を出て、ミアとはその隣のミアの部屋の前で別れた。

わたしはやっぱり、ずっと、助けられてばかりだ。

彼らを守るつもりでいたけど、全然、できてない。

彼らがここに残るのであれば、彼らには手を出させない。王国へ帰るのだとしても、ちゃんとそれを見届ける。

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