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ひとつの推測をする。
異国で苦境にあった学生が、何らかの経緯をたどってセルリゴ政府に引き入れられ、ある薬剤の調合に従事する。
彼はその薬がどう使われるか気づいた。
そして反政府軍が攻勢をかけた時、混乱に乗じて脱出する。
事実を公にするため薬を持ち出したが、平和な故国に戻ると己の罪を秘し、長い月日の果てに事故で生涯を……
―――そうだろうか。
頭の中で陽が陰った。それだけだろうか、本当に?
やめておけ、そこで止まるんだ。
誰かが叫ぶが思考は進む。去年受けたアレックからの電話がくり返される。
“ボートが転覆。早朝、一人きり”
葬儀の日。同じ湖畔沿いに住むという者が嘆いていた。“もっと人のいる時間だったなら……”
記憶はさらに遡る。確かに僕が聞いた先生の言葉。
“望む岸辺に行き着けるように”
私は、赤く染まった車内でハンドルをきつく握り締めた。
「そんな、まさか……!」
船旅。
先生はみずから最後の旅に出た。