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「雪女」ユキの生活日記  作者: 雪女のユキ
3/4

二日目 新撰組・・・・・・こわい・・・・・・

 えっと・・・・・・前日は、幕府の「時矢」さんに・・・・・・ある人の・・・・・・護衛を・・・・・・頼まれました。

 そして・・・・・・その日になって・・・・・・新撰組と会うことになるんですけど・・・・・・



 肌を刺す寒さが、一日の始まりを感じさせる早朝。そんな寒さを心地よく感じながら、ユキは布団から身体を起こす。

 銀髪を顔に巻き付けながら、毛布を跳ね除けると立ち上がって大きく伸びた。

 そして焦点の定まっていない目で周りを、キョロキョロと見渡す。


「朝・・・・・・か・・・・・・」


 顔に張り付き、絡まったボサボサの銀髪を梳いて綺麗にする為に未だに半開きの目で、外に出る。

 が、前すらよく見えていないユキは途中で木の柱に足の指をぶつけた。


「いたっ・・・・・・・・・」


 その場に座り込んで小指を抑えるユキ。既にお分かりだろうが、彼女は朝が尋常ではなく苦手だ。

 理由は、長い一日がこれから始まると考えると、嫌で嫌で仕方がなくなるのだ。朝起きて、一分せずに、「早く夜にならないかなぁ・・・」と言った事もある。


「はぁ・・・・・・」


 ため息を着くと、まだ続いているじんじんという痛みを堪えながら外の井戸へと向かう。下駄を履いて歩くが、ふと下駄だと歩きにくいと感じた。


(後で・・・自分で・・・・・・作ろうかな・・・・・・)


 井戸から水を汲み出すと顔を洗い、頭から水を被った。

 どうにか意識を覚醒させると、櫛を取り出し髪を梳かす。

 ユキの髪は、真に雪から出来たものなのでとても柔らかくて、しかし冷たい。常に熱を吸収しているので、暑くなってもうなじの辺りはとても快適だ。

 最後に水を一口だけ飲み、ユキは井戸に立て掛けていた刀を手に取った。

 今日一日を乗り切れば、後は自分の居場所が手に入るのだ。

 ユキは珍しくやる気で、その場で刀を抜くと軽く素振りを始めた。

 少し汗をかくまで続けると、部屋に戻り渡された新撰組と同じ隊服に着替えた。


「胸の辺りが・・・・・・苦しい・・・・・・」


 それに、足がこんなに包まれていては動きづらくて仕方がない。もっと身軽に、かつ機能性も備えた隊服が理想だ。


「・・・・・・・・・はさみ、はさみ」


 ****


「な、なんて破廉恥なっ!」


 そうして、隊服を改造し新撰組と合流したユキだったが、案の定こうなった。

 新撰組の男たちは、普段女に接しない為そもそも女に耐性が無いのだ。そんな時に、足丸出しの美少女が来れば、当然前屈みにもなるだろう。


「ここは・・・・・・男の仕事場である。やはり女子おなご如きが来る場所では無い。時矢のげんを信じた俺が馬鹿だった」


 新撰組局長「近藤勇」は、天幕の奥に座りユキを睨んでいる。

 だが、実際近藤の言うことは正しい。新撰組は選ばれた隊士のみが所属できる。そんな所に女を一人で送り込むなど愚の骨頂。そして、今回のユキの服装は、袴をはさみで切ったせいで現代のスカートのようになっている。その上、履物も勝手に自分で手を加え、もはや新撰組など全く関係なくなっている。

 だが、ユキはずっと山に篭っていたのだ。そんな事が分かるはずもない。


「・・・・・・動きやすい・・・・・・ですよ」


 この一言は、近藤の怒りに人をつけた。


「あまり・・・・・・舐めるなよ。女風情が。ここを何処と心得る。・・・・・・・・・何も知らず、ただ荒らしに来たのならば、斬るぞ」


 刀の刀身を少しだけ見せて威嚇する近藤。それを見たユキは今度こそ黙った。

 少しだが、近藤からは一瞬とても強い妖気を感じた。

 妖気は、基本ユキのような妖怪にしか使えぬ力であるが、稀に人間でありながらそれを使いこなす者もいる。

 そして、それらの人間は総じて妖怪をも打ち倒す程に強い場合が多い。


「・・・・・・ふん。今回の指令は、徳川とくみず彩音あやね様の護衛だ。幕府の徳川公の子であり後にこの江戸の支配者となる方だ」


 それを聞いたユキは飛び跳ねそうになった。重要人物だろうとは思っていたがまさかそこまでとは思っていなかったのだ。

 いくらユキでも徳川の名ぐらいは知っていた。そしてその娘となると、それは確かに命に替えてでも守らねばならないのだろう。そして、ユキにとっても住居を得るためにどうしても守らねばならない。

 頑張ろう、と決意を固めた時。ユキの直感が嫌なものを感じ取った。


(・・・・・なに・・・・・・これ・・・・・・・)


 背後からだ。自分のすぐ後ろから確かに強力な妖気を隠す気もなく発している男と、上手く隠そうとしているがその鋭い眼光から隠しきれていない男が歩いてくる。


 「来たか。沖田、土方」


(この二人が・・・・・・)


 新撰組最強と呼ばれた男、沖田総司。

 若くてして天然理心流道場「試衛館」に入門した剣の天才。弱冠九歳にして、大人に剣術で打ち勝ったという武勇伝が残っている。「試衛館」では近藤周助の弟子となり、頭角を現して若くして免許皆伝、塾頭も務めるほど。

 そして鬼の副長とも呼ばれる男、土方歳三。

 近藤、沖田と同じく天然理心流道場「試衛館」で剣を鍛えた。

 怒ると、薔薇のように手がつけられなくなる事から薔薇餓鬼と呼ばれ、剣鬼、と恐れられた事もある。


(なんて・・・・・・妖気・・・なの・・・・・・)


 人間でここまでの妖気を放つ者がいるとは思えない。特に、沖田総司。ユキの本能が、けたたましく警鐘を鳴らしている。

 沖田が一歩近づく度に、体が強ばる。そして、遂に二人がユキの前を通り過ぎようとした・・・・・・


 「そんなに警戒しないで欲しいなぁ」


 ビクッとユキの体が震える。異様に手汗が出てくる。耳鳴りが煩い。


 「あんたも・・・・・・相当強いですね。どうですか、一度・・・・・・」


 「沖田、そこまでだ。今は放っておけ。それより攘夷志士連中だ。桂小五郎の目撃情報があるが、それは恐らくこちらを貶める為の・・・・・・」


 沖田総司、土方歳三、近藤勇。その三名が一堂に会する様子を見て、ユキは冷や汗が止まらなかった。三人の妖気を合わせれば妖怪であり、妖気の塊であるユキすらも超える。これはとてつもない事だ。出来れば早々に立ち去りたい・・・・・・と思い、チラ、と背後を見た。その瞬間、ユキの背中に電気が走る。

 そうだ、考えてみれば新撰組がこの数だけであるはずがないのだ。

 そして、天幕に入ってきたのはいずれも人間として破格の力を擁した武士たちだった。


 「お、どんどん来ましたね」


 二番組組長「永倉新八」、三番組組長「斎藤一」、四番組組長「松原忠司」、五番組組長「武田観柳斎」、六番組組長「井上源三郎」、七番組組長「谷三十郎」、八番組組長「藤堂平助」、九番組組長「鈴木三樹三郎」、十番組組長「原田左之助」。


 今更ながらに、ユキは理解した。自分が、どんな場所に迷い込んだのかを。


(新撰組・・・・・・こわい・・・・・・・・・)

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