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令和の乱  作者: 岡田一本杉
東海
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張本さんの過去

突然、張本さんが口を開いた。

「本当に親の愛情を受けなかった人は、親の愛情が足りないという感覚すら分からない。だから、西村さんは愛情を受けてる」

私は自分の思慮の浅さを指摘されたような気がして、少し負い目を感じたが、同時に私は親から愛情を受けていたと言われたことに、意外な気がした。

「なんで、そう思うの?」

「私は、今までたくさん親の愛情を受けない人を見てきたから。親の愛情がない子は、逆に親孝行をしたがる。小さい子供の時だけでなく、中学・高校とか10代後半になっても、いじらしいくらいに親を大切にしたがるものだから」

「見てきた?」

「そう。私、児童養護施設、つまり孤児院出身だから。だから、周りの子は親がいないか、親に捨てられた子ばっかりだったから」

張本さんは、いつも落ち着いていて、ピンチの時も冷静だったし、背が高く、クールなイメージだったので、いい暮らしをしてきた人のような気がしていた。だから、児童養護施設で育ったというのが信じられなかった。

「そんな感じ、全然しなかった」

「入ったのが遅かったからかも。中2からだから」

張本さんは、生い立ちを話し始めた。

張本さんのお父さんは貿易商で、主に中国向けに日本の古い家具や骨董品を売って、財を成した人だった。

「中国って、歴史が古い印象があるけど、70年代に文化大革命っていう混乱が国全体であって、その時に古いものはあらかた壊されてしまった。だから、歴史的なものは何にもない。日本の方が古いものが残っている。だから、日本の古いものは中国では人気」

そして、子供の頃はかなり裕福な暮らしをしていて、人も羨むような豪邸暮らしだったと彼女は言った。

「今から思えば、楽しかったな、毎日が」

彼女は遠くを見るように言った。

「私の父は、中国人。私の中国名は、張麗。母は日本人。だから、私は日中のハーフ。でもその頃はそんなことは全く気にしてなかった」

でも、彼女のそんな生活は長続きしなかった。彼女の父の部下、彼は日本人だったが、取引先の銀行と組み、彼女の父から会社をだまし取ったという。

「父は、訴訟を起こそうとしている最中に、事故にあって死んだ。でも、それは部下の仕業なのは確実。私は母と二人で、古いアパートに移り住み、母は働きに出たけど、生活は苦しいし。ある日、私が家に帰ったら、母は部屋で首をつっていた」

生活苦と、プライドが許さなかったのだろうと、彼女は言った。

「私は身寄りがなかったから、市の児童養護施設に入れられて。そこがとても悲惨なところで、職員が子供を殴る蹴るは当たり前。それに、私はハーフだから、子供からもいじめられた」

張本さんが中国とのハーフというのが意外だった。日本人離れしたスタイルはそのためなのだろう。でも、私の想像以上の境遇の人がいるというのが、最初は実感できなかった。気の毒な人だということは分かったが、どう声をかけて良いのか、変なことを言って逆に傷付けてしまうかもしれないという気がして、無言でいた。

「父さえ死ななければ。何度もそう思った。父さえ死ななければ、私はこんなに不幸にならなかった」

そっか、張本さんは、見た目はクールそうに見えたけど、いろいろ抱えている人だったんだ。私以外の人も、人それぞれいろんな苦労を抱えているんだ。

なんか張本さんに、少し親しみを感じた。

「だから、、、」

張本さんが続けて、言いよどんだ。

んっ、と私は聞き直したが、張本さんはその続きを話さなかった。本人が話したくないのを無理に聞いちゃ悪いだろう。聞かなかったことにした。

しばらく、無言で一緒に月を見ていた。私が無意識に欠伸をした。少し眠たくなってきたのかも。

「そろそろ戻ろうか?」

張本さんに促されて、みんなが寝ている野営地に戻り、寝袋に入った。

いろいろ話せて良かった。自分だけが不幸で、浮いていると思っていたけど、みんな一生懸命頑張っているんだと思うと、少し勇気が湧いてきた。

そして、私はいつの間にか眠ってしまった。


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