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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第四章 隠された傷跡
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99、伝説となった種族






 俺達が風呂から上がり、着替えて客間で待ってしばらくすると、ルーと女性陣が戻ってきた。

 皆上気した頬に濡れた髪を拭っている姿が普段と雰囲気が違うように思えて、さりげなく視線を外す。特にエレヴィオーラさんは結っていた髪を下ろしたせいか、先程とのギャップが凄い。


 「お待たせしました」


 湿った長い金髪を左肩に寄せ、手拭いで水気を絞りながらメリアがそう言うと。その声に璃穏さんが立ち上がった。


 「それじゃあ、皆をミュンツェ君の屋敷まで送ってあげるぅ」


 「璃穏、最後に一つだけ」


 身を翻しかけた彼にメリアが声をかけ、璃穏さんが振り返る。


 「なぁにぃ?」


 「貴方、わたくしにドラゴンティアを返すつもりはないのですね?」


 その言葉に、ドラゴン達の空気が張り詰める。確か、ドラゴンティアってドラゴンの心臓にある宝石だって、トーリスさんが言っていたような……。


 「あー、それねぇ……」


 歯切れ悪く答えた璃穏さんは、困ったように眉尻を下げた。


 「実はねぇ、アルストロメリアちゃんのドラゴンティア、どっかいっちゃったぁ」


 「はぁ⁉」


 予想外の発言に、メリアの目が吊り上がる。


 「それでは、わたくしの核はどうするのです!」


 「いや~、ごめんね?」


 「ごめんで済むものですか!」


 手を合わせて璃穏さんが謝るが、メリアは声を荒げて怒りを露わにする。話に置いて行かれた俺達が呆然と二人を見つめていると、気付いたエレヴィオーラさんが口を開いた。


 「ドラゴンティアとはあちき達の心臓に生成される石であり、あちき達の魔力に深く根付いているのでありんす。ドラゴンティアを奪われれば、核が変容し魔法に何らかの影響が現れる。そうでしょう? アルストロメリア」


 彼女に呼び掛けられ、璃穏さんを責めていたメリアが振り返り、溜息をつく。


 「ええ。わたくしの場合、本来炎が出る筈の魔法が反転し、大気中の水気を凍てつかせる魔法に変わってしまったようです」


 「あ、だからドラゴンなのに、氷の魔法を使っていたんですね」


 メリアの説明にリックが納得したように頷く。いや、でも待てよ……?


 「じゃあ、大精霊と戦った時に何で炎が出たんだ?」


 俺の質問に、メリアが髪をかき上げて空中に手を翳す。

 瞬間、空間に切れ目が走り、その中に手を突っ込んだメリアが黄金色の剣を引っ張り出した。


 「あの時はこの剣を触媒に魔力を流し込んだので、本来の魔法を使えたのです」


 「あー、なるほど」


 つまり、メリアの剣が炎属性的な武器で、そこに魔力を流し込んだから炎の魔法が使えたって理解でいいのだろう。


 「それより、わたくしのドラゴンティアですわ!」


 再び空中に切れ込みが入り、そこに剣を仕舞ったメリアが思い出したように声を上げる。


 「そもそも、貴方が持っていたのではないのですか?」


 「いやぁ、それがねぇ、アルストロメリアちゃんが眠っていた時計塔あるじゃん? そこの鐘の上に隠してたんだけどぉ、この前見に行ったらなくなっちゃってたぁ」


 「な……っ、あんなところにあったなんて……」


 てへっと舌を出す璃穏さんに、メリアが絶句する。確かに、普通はあんなところにあると思わねぇな。


 「あのー、ドラゴンティアって要はとてつもない魔力が含まれた魔石ですよね? それがなくなったってことは、かなりまずい状況なのではないですか?」


 挙手をし、おずおずと声を上げたリックに、璃穏さんが振り返る。


 「ああ、それは大丈夫ぅ。アルストロメリアちゃんのドラゴンティアなんて、強すぎて普通の人には到底扱えないからぁ」


 あっけらかんと答える彼に、リックがキョトンとした顔をした。


 「ライナードなら、ぎりぎり使えるぅ?」


 「さて、どうだかな。大方、魔力を引きずり出そうとしても、わしの核が爆ぜて終わりじゃろう」


 その言葉にリック達がギョッと息を呑む。いまいち想像がつかねぇが、メリアのドラゴンティアがとんでもなくやべぇ代物だってことは分かった。


 「世界で二番目に強いライナードがこう言っているんだからぁ、大丈夫大丈夫」


 「いや、結局わたくしの核はどうするのです⁉」


 気楽に手を振る璃穏さんに噛みつくメリア。その時、彼の雰囲気が変わった。


 「アルストロメリアちゃんはさぁ、核を治して、それでどうするの?」


 「え?」


 凪いだ赤い瞳で見つめる璃穏さんの視線がメリアを貫き、彼女は眉を顰める。


 「それは、わたくしは世界で起こる争いを治めるために、核を治さなくては……」


 「アルストロメリアちゃん」


 いっそ穏やかな声メリアの名前を呼び、璃穏さんが薄く微笑む。


 「おれ達は伝説となった種族、ドラゴン。これが、どういう意味を持つか分かるよね?」


 「それは、つまり」


 声を詰まらせるメリアに、彼はそっと頷く。


 「アルストロメリアちゃんが眠って百五十八年、おれ達は一度も他の種族の前に姿を現していない。彼らは自分達で争いを治める能力を手に入れたんだ」


 そう言って璃穏さんはどこか哀し気に目を細めた。


 「もう、世界はドラゴンを必要としていないんだよ」


 「――っ!」


 その言葉に、メリアの瞳が僅かに揺れたのを俺は見逃さなかった。


 「……さあ、屋敷に帰してあげる。ここでの話は、他言無用だよ?」


 唇に人差し指を当てて口止めをする璃穏さん。彼とメリアの話の意味は全く分からなかったが、俯くメリアの姿がどこかいつもより小さく感じられた。







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