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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第四章 隠された傷跡
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97、女湯






 食後のお茶を飲みながら俺達が寛いでいると、どこかへと消えていた璃穏さんが大量の手拭いを持って戻ってきた。


 「うちにはねぇ、温泉も湧いているんだぁ。是非是非入って行ってよぉ」


 「いや、そろそろ帰らなければ……」


 流石に、と立ち上がったミュンツェさんの肩に手をのせ、璃穏さんがにっこりと有無を言わさぬ笑みを浮かべる。


 「さっきも言ったでしょぉ? おれが帰してあげなくちゃ、ミュンツェ君達は帰れないんだよぉ? 大人しく入っていきなよぉ」


 笑顔で圧力をかけられ、ミュンツェさんが渋々頷く。


 「エレヴィオーラ。女の子達は君が案内してあげてねぇ」


 「承知したでありんす」


 女衆と別れ、俺達は手拭いを受け取り、璃穏さんの背中についていった。



========================================



 リック達を案内すると、エレヴィオーラはどこかへと姿を消してしまった。

 不意にメリアが無造作に衣服を脱ぎ捨てたので、リックは慌てて声を上げる。


 「ちょ、ちょっと⁉」


 「ああ、そういえば貴女達は知りませんでしたね。温泉とは皆で裸になり、一緒に湯に浸かるのです。早く貴女達も服を脱ぎなさい」


 下着姿で言い放つメリアにリックとコレル、ルイーゼが戸惑っていると、エレヴィオーラが戻ってくる。

 彼女を振り返り、三人は息を呑んだ。


 結い上げていた髪を下ろし、化粧を落としたエレヴィオーラは先程よりも幾分か年若く見え、それでいてメリアに負けない程の美貌を露わにしていた。


 「ライナードに髪を解いてもらっていたので、遅くなりんした」


 そう言い、彼女はメリアに「帯を解いておくんなんし」と声をかける。


 「ライナードの元へ行ったのなら、ついでに解いてもらえばよかったじゃないですか」


 「折角アルストロメリアがいるのなら、ぬしに頼めとライナードが」


 「面倒になったのですね」


 溜息をつき、メリアがエレヴィオーラの背後に回り込む。手慣れた手付きで帯を解き、メリアは「できましたわよ」とエレヴィオーラに告げた。

 「どうも」と軽く礼を告げ、エレヴィオーラが躊躇なく花魁衣装を脱ぐ。それを見て、コレルが意を決したようにポンチョに手をかけたので、リックとルイーゼも覚悟を決めてシャツのボタンを外していった。


 そうして裸になった五人は、脱衣所の引き戸を開けて外に出る。

 そこには、月夜の下に広がる露天風呂があった。


 メリアとエレヴィオーラが屈みこみ、湯の中にゆっくりと入っていく。彼女達に手招きをされ、三人も爪先から熱めの湯に恐る恐る入っていった。

 肩まで浸かると最初は熱いと感じていた温度がジンと心地よく感じ、思わず三人は「「「ふーっ」」」と同じタイミングで息をついて、顔を見合わせて笑い合う(ルイーゼは無表情だったが)。

 それにしてもと、リックは四人の身体に視線を向ける。


 エレヴィオーラの砂時計型の身体、そして豊満な巨乳は同姓でありながら思わずドギマギしてしまい、刺激が強いとリックはメリアに視線を移す。

 エレヴィオーラほどではないにしろ、豊かな胸とキュッとくびれたウエストは思わず嫉妬心を掻き立てられるほどで、首を振ってリックはルイーゼに目を向ける。


 傷跡の多い身体は見ていて切なくなるが、すらっとした肢体と標準以上に膨らんだ胸はリックの目から見ても魅力的で、彼女は視線を剥がしてコレルに視線を移した。

 痩せぎすな身体つきをしているが、ささやかに主張する胸部はこれからの成長を物語っており、思わず自分の身体に視線を落とす。


 肉のない身体。真っ平な胸元はよく少年に間違えられる要因の一つで、思わず三人と見比べてしまい彼女はガックリと肩を落とした。

 そんな彼女を不思議そうに見つめながら、エレヴィオーラはにやっと人の悪い笑みを浮かべる。


 「ぬし達、ここは恋バナと洒落込むでありんす。皆、好いた男でいるのでしょう?」


 「「「「えっ‼」」」」


 彼女の爆弾発言に、四人は肩を跳ねさせた。


 「ちなみに、あちきはライナードを好いているでありんす」


 「えっ! そうなんですか⁉」


 あっさりと告白した彼女の言葉に、リックとコレルが食いつく。エレヴィオーラは「ええ」と頷くと、頬に手を添えて微笑んだ。


 「アルストロメリアに次ぐ強さを持つところも、庭の手入れが好きなところも、料理の味付けも、あちきの髪を結う指先の優しさも、全てを好いているのでありんす」


 「わぁ~、素敵ですねー。お似合いだと思いますー」


 キャッキャとエレヴィオーラとコレルが盛り上がり、矛先はコレルに向けられる。


 「そういうぬしはどうでありんす?」


 「えっ」


 目を見開いたコレルは助けを求めるように他の三人を振り返るが、全員視線を合わせようとしない。

 諦めて、彼女はもじもじとしながら口を開いた。


 「えっとですねー、その人はコーのことを大事って言ってくれたんですー。コーに居なくなってほしくないって、それがとっても嬉しくてー。だから、その人のことが、少し、気になるんですー」


 「ほうほう、愛いのう」


 「はい! 次リックねー」


 「私⁉」


 バトンを渡されたリックが慌てふためくが、エレヴィオーラ達の興味津々な視線に負けて、仕方なく話し出した。


 「強いて言えば、私はずっと『目』のことを気にしていたんですけど、彼は皆が嫌がった私を怖くないって、リクエラはリクエラだって言ったんです。それが心に響いて、だから私は変われたんだと、そう思います」


 「うんうん、甘酸っぱいのう」


 「コーはリックのこと嫌だなんて、思ってなかったよー」


 「ありがとう。ルイーゼは?」


 抱き着いてくるコレルを受け止めながらルイーゼに訊ねると、彼女は首を傾げる。


 「……好きとか、そういうのはよく分からない」


 無表情で言うルイーゼにリックとコレルが「だよねー」と言いたげな表情を浮かべるが、「でも」と彼女は続けた。


 「あの日、ゼスに斬られそうになったときに少年に名前を呼ばれて……ちょっとドキッてした」


 「それって……!」


 自分のことのようにコレルとリックが声音を高くし、ルイーゼが目を伏せる。


 「いいのういいのう。ほれ、アルストロメリアも他人事みたいな顔をしていないで白状しなんし」


 メリアに絡んでいくエレヴィオーラを、三人がギョッとした顔をして様子を見守る。


 「わたくしは、別にそんな相手はいませんわ」


 「嘘をいいなすんな。ほら、例のセインとかいう――」


 「彼は関係ありませんわ‼」


 エレヴィオーラがセインの名前を出した瞬間、メリアが水飛沫を飛ばして立ち上がる。


 「……お先に、失礼します」


 身を翻して風呂を後にする彼女を後ろ姿を見つめながら、四人は顔を見合わせた。







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