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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第四章 隠された傷跡
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96、懐かしい食事






 不意に、くきゅーと可愛らしい音が聞こえ、その場の全員の視線がそちらに向く。

 その方向には、頭を掻きながら参ったと言いたげに眉を下げるスカイルの姿があった。


 「嘘でしょスカイル。空気読まなさすぎでしょ」


 「うっせーな! オレだって鳴らしたくて鳴らしてるわけじぇねぇ! 腹減っちまったんだから、仕方ねぇだろ⁉」


 ルイーゼに無表情で突っ込まれ、彼は気恥ずかしさを隠すように怒鳴り散らす。しかし、そのお陰で微妙にぎこちなかった空気がゆるまったような気がした。


 「確かにぃ、もう日も暮れるねぇ」


 会話に集中していて気付かなかったが、璃穏さんの言う通り縁側の外の空が薄っすらと赤みがかってきている。


 「人間は、食事が必要でありんす。ライナード、皆に夕食をご馳走しておやんなんし」


 「えっ⁉」


 エレヴィオーラさんの言葉に思わず息を呑む。いかにも侍っぽい雰囲気を漂わせるライナードさんの手料理だって……?

 俺達の不安を他所に、ライナードさんは「承知した」と頷く。意外と乗り気だ。


 「まあ、おれが帰してあげなきゃ君達は帰れないんだしぃ。大人しくご飯食べていきなよぉ。ね、ミュンツェ君」


 璃穏さんの言葉に、腰を浮かしかけていたミュンツェさんが困ったように座り直す。恐らく、食事の誘いを断ろうとしたのだろう。


 「……分かりました。ご相伴に預からせて頂きます」


 諦めたようにミュンツェさんが誘いを受け、俺達はドラゴン達と食事をすることになった。

 台所に向かうライナードさんとは別れ、俺達は璃穏さんの案内で日本家屋の中を進んでいく。ミュンツェさんはスカイルとルイーゼを手伝いにつけようとしたのだが、ライナードさんに「足手纏いだ」と一蹴されてしまった。


 案内された茶の間にはちゃぶ台が一つ置かれており、普段はそれを使っていることが分かる。しかし、それだとこの大人数が納まりきらなかったので、璃穏さんがちゃぶ台を撤去し、エレヴィオーラさんが人数分の座布団と膳を持ってきてくれた。

 そうして食事の準備を整えて少し待っていると、台所からお盆を持ったライナードさんが出てきた。


 「待たせたな。璃穏、運ぶのを手伝え」


 「はーい」


 「あ、俺も手伝います」


 「一期君はいーのいーの。座っててぇ」


 ライナードさんに呼ばれた璃穏さんが腰を上げ、俺も手伝おうと立ち上がりかけると、彼に押し戻されてしまう。仕方なく正座をして待っていると、(ちなみにミュンツェさんやリック達はそれぞれ足を崩して座っていた)お盆を抱えた二人が戻ってきた。


 「まずは吸い物じゃ」


 「それで、これがお浸しねぇ」


 ライナードさんの手で汁物が、璃穏さんの手で副菜が配膳される。もう一度二人が台所に引き返し、次いで主菜の魚と白米が盛り付けられた茶碗を持ってきた。


 「あれ? メリアの分は?」


 一人だけ膳に皿が乗せられないことを疑問に思うと、ライナードさんが「ハッ」と鼻で笑った。


 「アルストロメリア。お前に食わせる飯なぞない」


 「嘘だよぉ。ちゃんとアルストロメリアちゃんの分も用意されてたからぁ」


 「なっ、璃穏!」


 毒づく彼の後ろから璃穏さんが手を伸ばし、メリアの分の食事を置く。それを見て、ライナードさんが顔を強張らせた。いや、ツンデレか?

 配膳を終えた二人が席につき、璃穏さんが手を合わせる。


 「それじゃあ、いただきます」


 彼に続いてドラゴン達が挨拶をし、慌ててミュンツェさん達も食前の祈りを捧げる。俺は祈りを捧げてから再度「いただきます」と言い、箸に手を伸ばした。

 さて、眼前に用意された食事は、いかにも「和」という感じがする。


 お吸い物には具としてお麩が入っており、三つ葉が浮いている。漂ってくる出汁の香りに、思わず胸いっぱいに香りを吸い込みたい衝動を堪えるのが大変だった。

 ほうれん草らしき野菜のお浸しは、目にも鮮やかな緑色の上に鰹節が振りかけられ、醤油をかけられたのか茶色く湿った部分と乾いた鰹節のコントラストが食欲を誘う。


 魚は切り身を何かに漬けて焼いたのか、焼き目の上にチョコンとのせられた柚子の皮が堪らなく愛おしい。絶対美味しいやつじゃん、これ。

 白米も一粒一粒がツヤツヤと輝き、湯気が立ち昇る様を無抵抗に眺めているのは男子高校生には拷問に等しい。


 俺は吸い寄せられるようにお吸い物に手を伸ばすと、特に深く考えずに口を付けた。


 「ちょっ、イツキ!」


 まじまじと並べられた食事を眺めていたリック達が、ギョッとしたように声を上げる。

 ゴクン、とお吸い物を飲み込んだ俺は、思わず「はー……」と息を吐いてしまった。


 「出汁の味だ……」


 口の中に広がる醤油の風味と、昆布と鰹節のうま味に思わず頬を緩める。あまりにも懐かしい風味に、胸の奥がキューッと締め付けられるような感覚に襲われた。

 次いでお浸しを口の中に運び、シャキシャキとした歯応えと甘い味わい、水気を吸い込んだ鰹節を味わいながら咀嚼して飲み込む。


 魚を箸でほぐして口の中に入れると、香ばしい味噌の風味と爽やかな柚子の香りが鼻の奥へと抜けていき、間髪入れずに白米を頬張るとこれ以上の幸福があるだろうかというような、幸せな気持ちになった。

 ふと、ハッとして周囲を見回すと俺の食べっぷりをミュンツェさん達が唖然と見つめており、璃穏さんがにこにこと微笑んでいる。


 「ライナードの料理は気に入ったようだねぇ」


 「……はい。めっちゃ、美味いっす」


 薄っすらと頬が紅潮していく感覚を感じていると、恐る恐る手を伸ばした双子がお吸い物を口にし、驚いたように目を見開く。


 「ふわぁ~、なんというか不思議な味がしますー」


 「でもー、これはこれで美味しいかもー」


 双子を皮切りに、ミュンツェさん達がお吸い物を飲み込んで、様々な反応をする。

 その隣でリックがライナードさんにフォークとナイフがないか訊ねる声を聞きながら、俺は再び食事に箸を伸ばした。







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