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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第四章 隠された傷跡
94/120

94、自己完結






 璃穏さんの衝撃の告白に、ドラゴン以外の人々が息を呑む。

 それは、俺も例外ではなかった。


 「メリアが、殺した……?」


 呆然と彼女を振り返ると、メリアは静かに視線を落としている。それは、璃穏さんの言葉を肯定しているように見えた。


 「母上は」


 その時発せられた璃穏さんの声に、視線を引き戻される。


 「ここに来たエルフの集団に、無抵抗のまま殺された。その復讐にエルフの里へ向かった父上を、アルストロメリアちゃんが殺したんだ」


 「待ってください! エルフの集団が、モモさんを殺したってどういうことですか⁉」


 リックが思わずといったように話を遮ったが、璃穏さんは気分を害した素振りを見せず、代わりに口を開いたのはエレヴィオーラさんだった。


 「大方、ドラゴンであるあちき達が、人間であるモモと馴れ合っていたことが気に入らなかったのでしょう。あちき達が家を空けている隙を狙い、エルフ達はモモを殺したのでありんす」


 そう言うと、彼女は睨みつけるような流し目をメリアに送った。


 「ただ一人、アルストロメリアのみが二人を守っていたはずなんでありんすが」


 「そんな……じゃあ、先生の復讐は見当違いだったってこと……?」


 顔を歪めるリックに、移動した双子が両側からそっと寄り添う。


 「メリアさん、どうして先生にそのことを教えてあげなかったんですか⁉ もし貴女が話していれば、先生は居なくなったりしなかったかもしれないのに……!」


 「リック」


 責めるような口調で叫ぶ彼女を、ミュンツェさんが窘めた。

 エレヴィオーラさんとライナードさんはメリアに対する敵意を隠そうともせず、璃穏さんも敵意こそ感じないものの先程まで浮かべていた笑みは既に残っていない。


 リックや双子は、レティーさんに真実を告げなかったメリアを非難がましい目で見つめており、スカイルとルイーゼは静観の構えだ。

 唯一ミュンツェさんが公平な立場で話しを聞いているように見えるが、メリアは明らかに孤立していた。


 「……彼女が、ドラゴンを憎く思うのは当然ですわ」


 「え?」


 不意にぽつりと話し始めたメリアの言葉に、リックが眉を顰める。


 「クオンがエルフの里を燃やし、わたくしはそれを止めきれなかった。わたくしがもっと早く彼に追いついていれば、里は犠牲にならなかったのです」


 メリアは顔を上げると、真っ直ぐに璃穏さんの目を見つめた。


 「わたくしにもっと力があれば、クオンを殺さずに止められたかもしれない。あの時、散歩に行った貴方とモモに付いていっていれば、モモを守れたのかもしれない」


 あったかもしれない可能性の話に、エレヴィオーラさんとライナードさんの顔が曇る。


 「全てはわたくしが背負うべき罪。だから、貴方がわたくしを殺すというのなら、甘んじてそれを受け入れましょう。その為に、わたくしのドラゴンティアも奪ったのでしょう?」


 「アルストロメリアちゃん……」


 それは、もしかしたらとても高潔な精神なのかもしれない。それが正しくて、メリアは罪を償わなければならないのかもしれない。


 けれど。


 「お前、本当にそれでいいのかよ⁉」


 声を上げずにはいられなかった。


 「自分が全部悪いから? 罪は全部自分が背負う? ふざけんな! それじゃあ、レティーさんの時からお前は何にもかわってねぇんだよ‼」


 突然怒鳴り始めた俺に、皆が呆気に取られた顔をしている。


 「あの時にも言いたかった。お前は全て自己完結してるんだよ! 世界最強のドラゴンだって? んなもん知るか! 世界最強だって万能じゃねぇ。できないことだってあるに決まってんだろ!」


 メリアに近付く俺に、通り道に居た人達が道を開ける。彼女の目の前まで進んだ俺は、メリアの肩を掴んでその黄金色の瞳を覗き込んだ。


 「少しは周りを見ろよ! お前には、頼れる仲間がいたんじゃねぇのかよ。全部自分で背負い込むんじゃなくて、少しは仲間に手伝ってもらえば、何かが変わってたんじゃねぇのか⁉」


 俺の叫びに、その場が水を打ったように静まり返る。その静寂を破ったのは、璃穏さんだった。


 「アルストロメリアちゃん。あの時、母上に一緒に家事をしようって言っていれば、もしかしたら何かが変わっていたのかもしれない」


 次いで口を開いたのは、意外にもライナードさんだった。


 「アルストロメリア。お前が一人でクオンと戦わずに、わしの到着を待っていれば、もしかしたらクオンを正気に戻せたのかもしれん」


 メリアと目を合わそうとせずに顔を背けるライナードさん。

 最後に、リックがゆっくりと言葉を紡ぐ。


 「メリアさん。貴女が先生ともっとちゃんと話していれば、二人は分かり合えたのかもしれません」


 「貴方達……」


 掴んだままだったメリアの肩が、僅かに震える。

 そして、大きな瞳から一筋の涙が伝い落ちた。


 「ごめんなさい……」


 それは、小さな謝罪の言葉で。何年も伝えられなかった重みが込められた一言だった。







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