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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第四章 隠された傷跡
90/120

90、結婚式






 「段々とモモは話せるようになり、歩くこともできるようになりんした。そして、次第に二人は惹かれ合い、誓いを交わしたのでありんす」



========================================



 モモが東の果てに来てから一年経った春、ドラゴン達が見守る中、二人は慎ましやかな式を挙げた。

 アルストロメリアに連れられたクオンと、エレヴィオーラに連れられたモモが反対の襖を開けて入ってくる。


 クオンは黒の羽織袴を身に纏い、凛とした佇まいで。モモは白無垢姿で自前の白い肌を活かし、真っ赤な紅を刷いた唇が赤い瞳と合っていつもとは異なるどこか大人っぽい雰囲気を漂わせて、しずしずと摺り足で進む。


 そして部屋の中央まで進むと、アルストロメリアとエレヴィオーラが離れ、二人はお互いに向き合いながら用意されていた座布団に腰を下ろす。

 日本の結婚の流儀など知らなかったドラゴン達は、四人で頭を突き合わせて必死に式の中身を考えた。


 座布団の上で正座になるクオンとモモにライナードが歩み寄り、二人の間に一つの盃を置いてアルストロメリア達の元へ戻る。

 その盃は真っ白な陶器で出来ており、質素ながらも神聖さを感じさせた。


 ライナードが腰を下ろしたのを確認して、クオンが懐から針を取り出す。


 「モモ」


 彼の伸ばした手の上に、少女の手が乗せられる。クオンはモモの掌を露わにすると、彼女の人差し指に針を突き立てた。

 鋭い痛みに顔を顰めるモモに「ごめんね」と謝ると、彼は血の玉が膨れ上がる彼女の指先を盃の上に翳す。


 「モモ。今だよ」


 クオンの合図に、モモが息を吸い込みそっと口を開いた。


 「われ、なんじ、を、あいする、もの。

 いかなるとき、も、とわ、なる、あい、を、なんじ、に、ささげる、こと、を、ちかう」


 クオン達と練習した拙く紡がれる誓いの言葉が響き、指先を伝った紅い雫が一滴盃の中に落ちる。

 クオンはモモの手を離すと、自分の指にも針を突き立て、彼女と同じように盃の上に翳した。


 「我、汝を愛する者。

 いかなるときも、久遠に等しい時間の中で汝のみを愛すると誓う」


 誓いの言葉が終わり、クオンの血が数滴滴り落ちた瞬間盃の中が輝く。

 ドラゴン達が目を見開く中、光の中から一本の赤い糸が生まれ、端と端がクオンとモモの左手の薬指に絡みついた。


 刹那、何かが爆ぜる音と同時に糸の中心から漆黒の火花が飛び散り、クオンとモモの指に迫る。

 そして、薬指で盛大に火花を散らすと、一際大きな火花と共に糸が掻き消えた。


 「モモ」


 クオンがひっそりと少女の名を呼ぶと、消えた筈の糸が浮かび上がる。

 彼はその糸を辿るように、一歩一歩ゆっくりと歩いていくと、座布団の上に座り込む花嫁をそっと抱き締めた。


 「……大丈夫。『糸』は繋がった。これでおれは、モモを……―――――」


 感極まったように言葉を詰まらせるクオンに代わり、アルストロメリアが口を開く。


 「誓いを交わした二人の魂は、別たれた後もその糸を辿り、再び巡り合うことでしょう」


 彼女の声が畳に吸い込まれ、束の間の静寂が満ちる。


 「くお」


 不意に、クオンの腕の中からモモの声が発せられた。

 彼が腕を緩め、露わになった彼女の面差しはとても大人びていて。


 「くお、だいすき」


 そこに居たのは、紅を刷いた唇に淡い笑みを浮かべ、幸福に頬を紅潮し、涙に目を潤ませて愛を囁く、一人の立派な女だった。

 彼女と視線を合わせると、クオンはそっと顔を寄せ、唇を重ねる。


 そうして顔を離した時、二人は照れたように微笑みながら振り返り、ドラゴン達からの祝福を受けたのだった。







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