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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第四章 隠された傷跡
83/120

83、ドラゴン






 「ハーフドラゴンだって?」


 ミュンツェさんが胡乱気な声を出す。彼の訝しむような視線を受け、璃穏さんは肩を竦めた。


 「おれの話をする前に、アルストロメリアちゃんに会ってほしい人がいるんだよねぇ」


 「メリアに?」


 思わず聞き返した俺に頷き、璃穏さんが指を鳴らす。

 その瞬間、天井から二つの影が舞い降りてきた。

 屋根裏に潜んでいたのか、その人影は璃穏さんの左右に着地すると無遠慮な視線を俺達に向ける。


 璃穏さんの右側に降り立った青年はミュンツェさんよりも少し年上くらいに見え、驚いたことに侍のような袴を穿いていた。

 前髪ごと後ろで束ねられた髪は青く、同じ色をした鋭い目つきの瞳は強い意志を宿しており、内側から輝いている。

 まるで抜き身の刃のように鋭利な雰囲気を放つ青年は、余計な物を削ぎ落したような美しさがあった。


 璃穏さんの左側に降り立った女性はディーネさんと同じくらいの年に見え、豪華絢爛な花魁衣装に身を包んでいた。

 結い上げられたボリュームのある橙色の髪にはこれでもかと簪や髪飾りが付けられており、中々重そうだ。値踏みするように細められた瞳は温かなオレンジ色で、化粧の施された顔は表情を読み取るのが難しい。

 匂い立つような色香を振りまく女性は、妖しげな美しさがある。


 不意に、袴姿の青年が口を開いた。


 「この死にぞこないが。無様な姿を晒しながらよく往来を歩けるものじゃ。その恥知らずさ、虫唾が走る」


 メリアを指差し、嫌悪感を露わにしながら吐き捨てるように青年が告げる。


 「アルストロメリア」


 それに続くように、花魁衣装の女性が紅を刷いた唇を開く。


 「ぬしはこの世界にいりんせん。もう一度、あの塔でお眠りなんし」


 瞬間、青年の姿が掻き消え、背後から聞こえた物音に振り返ると、青年に蹴り飛ばされたメリアが襖に突っ込み、その衝撃で襖が外れた。


 「あー、もぉ、ライナード。自分で片付けなよぉ?」


 「ライナードだって⁉」


 璃穏さんの台詞に、ミュンツェさんが驚愕に満ちた声を上げる。それは彼だけではなかったようで、リック達も目を見開いて驚きを表していた。


 「ライナードって?」


 「前に説明したでしょ? ドラゴンと呼ばれる四人の内の一人、『青のライナード』」


 こっそりリックに訊ねると、彼女が素早く耳打ちしてくる。

 ということは……。


 「ドラゴンってこと⁉」


 「ライナードだけではござりんせん」


 俺の叫びに、花魁衣装の女性が声をかける。

 彼女はしずしずと歩き、俺達の前に出てくると艶やかな笑みを浮かべた。


 「あちきはエレヴィオーラでありんす。お見知りおきを」


 エレヴィオーラと名乗った女性の後ろで、ライナードさんが腰に佩いていた鞘から二本の剣を抜き放つ。

 それは刀身が綺麗な青色に染まっており、静かに燃え上がる青い炎を彷彿させるような細身の剣だった。


 それを見たメリアが宙に手を翳し、空間に入った切れ目から一本の剣を引きずり出す。

 メリアの背丈よりも大きな黄金色の大剣。それは、大精霊と戦った時にメリアが取りだしたあの剣だった。


 「二人共、家の中で火は使っちゃダメだよぉ」


 「承知した」


 璃穏さんの呼び掛けにライナードさんが頷き、次の瞬間、その姿が再び掻き消える。

 キィンッと甲高い音が鳴り響き、激しい打ち合いが始まった。


 あまりにも高速で交わされる剣戟に目が追い付かず、二人の姿は霞み、青と金の光が瞬く。

 不意に揺らいでいた姿が止まり、刀身で押し合いをしていたメリアが僅かにライナードさんに押される。


 「無様なことじゃな。ドラゴンティアを失ったお前は、この程度の実力か?」


 交差した剣に加える力を強め、ライナードさんが哄笑を上げた。


 「くっ……!」


 苦し気に顔を歪めたメリアが、魔力を膨らませる。


 「させぬ」


 瞬間、ライナードさんの背中から陽炎のように魔力が立ち昇った。

 青い炎を模った魔力はメリアの魔力に喰らいつき、飲み込んでいく。


 メリアの膝が折れ、彼女の眼前に刃が迫った。


 「メリア!」


 思わず俺が上げた叫び声に、メリアが双剣を跳ね返した音で答える。

 飛び退り、距離を取った彼女の瞳が、不意に開かれる。


 「あ……」


 呆然と呟いたメリアの口の端から、一筋の血が流れ落ちた。

 彼女の胸から、一本の剣が貫かれる。


 メリアの背後に立ったエレヴィオーラさんが、レイピアのように細い橙色の刀身の剣を彼女の背中に突き刺していた。


 「囚われたでありんす」


 「えっ⁉」


 俺達は目の前に立つエレヴィオーラさんと、メリアの後ろにいる彼女を見返した。

 メリアに剣を突き刺したエレヴィオーラさんが剣を抜き、くるりと手の中で回す。


 刹那レイピアが縮み、オレンジ色の玉飾りの付いた簪に変化する。

 それを髪に刺し、メリアの背後に立っていたエレヴィオーラさんが煙のように消える。


 俺達の目の前に立っていたエレヴィオーラさんは、袂から煙管を取り出して指先に橙色の炎を灯すと、煙管に口を付けた。

 その瞬間、メリアが膝をついて畳の上に倒れ込んだ。







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