81、おさらい
我、汝を愛する者。
いかなるときも、永遠なる愛を汝に捧げることを誓う。
我、汝を愛する者。
いかなるときも、久遠に等しい時間の中で汝のみを愛すると誓う。
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リーフグリーンの髪の少女に抱えられたティーポットから紅茶が注がれ、水色の髪の少年の手によってカップが運ばれる。
全員にお茶が行き渡ったのを確認して、ミュンツェさんが口を開いた。
「それじゃあ、これから話し合いを始めようか」
風の間に集められた人は、全員で六人。
ソファーの片側には俺、メリア、コーが腰掛け、反対側のソファーにはミュンツェさんが座っている。その後ろにはメイド服のルイーゼと執事服のスカイルが静かに待機していた。
俺達はルーを見つける手を話し合う為に、集められたのだ。
「まずは二人に説明する意味でも、振り返りをしよう」
チラッと背後のスカイル達に視線を送り、ミュンツェさんが指を組む。
「事の始まりは、レティーがお嬢さんを襲ったことからだ」
「はいはーい、レティーって誰すか?」
彼が話し始めた途端に、スカイルが話の腰を折る。ミュンツェさんは苦笑を浮かべた。
「本名はテネレッツァ。森に住んでいたエルフの少女だよ」
「え! エルフってまだ残ってたのか⁉」
ミュンツェさんの言葉に、スカイルが驚いたように目を見開いた。
「ああ。話を戻すよ。レティーはお嬢さんを襲い、その際に死神と黒のローブの人物が乱入。ルーを攫って逃亡した。そして現在レティーは行方不明となり、王から指名手配されている」
「指名手配⁉」
勢いよくリックが立ち上がり、カップから紅茶が少し飛び散る。
「どういうことですか、領主様! 先生が指名手配って、何でですか⁉」
リックだけではなく、コーも初めて聞いた話に目を丸くしていた。
「そうか、すまなかったこれは伝えていなかった私が悪い。アレストレイル王は、強大な力を振るって行方をくらませたレティーを危険人物と認めたようだ」
「そんな……」
国王の言っていた言葉に、リックが呆然とソファーに座り込む。
「ただ、処刑を命じたわけではないと言っていたからね。そんなに気に病まないほうがいい」
彼女を気遣うように声をかけ、ミュンツェさんは「話を続けるよ」と言った。
「そして先日、屋敷を襲撃した死神はルーが誰かに連れ攫われたと言っていた。スカイル、ルイーゼ、二人はギルドでルーを見なかったかい?」
彼の問いかけに、二人は顔を見合わせる。
「オレ達もずっとゼスに引っ付いてた訳じゃねぇからな。コレルに言われるまで、ゼスがルコレを攫ってきたことすら知らなかったぜ」
「右に同じく」
ルイーゼがスカイルの言葉に同意を示す。二人の答えに、ミュンツェさんが考え込むような仕草をした。
「仮に、ゼスの言葉が嘘だとする。その場合、ルーはまだギルドに捕らえられている可能性が高い。ただ、ゼスの言葉が本当だとしたら、私達は手掛かりを失ったことになる」
彼の言葉に、部屋の中に沈黙が降りる。それを破ったのは、スカイルだった。
「もしギルドに捕まってんなら、ルコレはまだ殺されてねーと思うぜ」
「何でそう思うんだ?」
俺が聞き返すと、彼は肩を竦めた。
「ギルドは裏切り者には制裁を下すことになってる。その裏切り者に家族がいた場合は、先に目の前で家族を殺されてから嬲られて、殺されていく。ギルドはコレルを捕まえてから二人一緒に殺すつもりだと思うぜ」
予想外に血生臭い話に、リックやミュンツェさんが顔を顰める。俺の顔も恐らく引き攣っていただろう。
「だとすると、ゼスの話が嘘だったのならば、ルーはまだギルドに捕らえられていて生きている、と」
「でも、本当だったのなら……」
ミュンツェさんが話を整理する。リックが語尾を濁し、再び部屋の中に沈黙が降りた。
「本題に関係ないんだけど、一つ聞いてもいい?」
その時、意外にもルイーゼが口を開いた。
「レティーって人は少女を襲ったって話だったけど、何で襲われたの?」
少女というのは、ルイーゼがメリアを呼ぶときに使っている呼称だ。ちなみに俺は何故か少年と呼ばれている。
「……先生は昔、ドラゴンに里も家族も燃やされたらしいんだ。ドラゴンに恨みがあった先生は、だからメリアさんを襲ったということらしい」
ルイーゼの質問に、リックが感情を殺した声で答える。その言葉に、ルイーゼは無表情で首を傾げた。
「少女って、本当にドラゴンなの?」
彼女の問いに、空気が凍りつく。
俺もそれらしい返事をもらったことはあったが、ちゃんとドラゴンだと言われたわけじゃなかったからな。
その場の全員の視線を集め、紅茶に口を付けていたメリアがソーサーにカップを戻す。
彼女の唇が開かれ、言葉が紡がれようとした瞬間。
「彼女は正真正銘ドラゴン、アルストロメリアだよぉ」
聞き覚えのない声が割り込み、俺の心臓が驚愕に飛び跳ねた。
「誰だ⁉」
ミュンツェさんの厳しい声が飛び、声の聞こえた方を振り返る。
刹那、視界が歪み引きずり込まれるような感覚に襲われる。
それが何故か、俺には憶えがあるような気がした。
四章に入りました。
これからも、よろしくお願いします。