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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第三章 双璧の死神
79/120

79、依頼人






 「待て、死神!」


 ミュンツェさんが手を伸ばす。その声にこちらを向いたルイーゼの瞳から一筋の涙が流れ落ち、月光に煌めいた。


 その刹那、頭の中で一秒が刻まれる。


 『来るべき時が来たら、きっとイツキは魔法が使える。私はそう思ってるよ』


 あの時のリックの言葉が脳裏に蘇る。


 一秒。ゼスが鎌を振り上げる。


 二秒。俺はメリアの背中から飛び出す。


 三秒。静かに涙を流す彼女に向けて、右手を伸ばす。


 四秒。ゼスが鎌を振り下ろす。


 五秒。


 「ルイーゼっ‼」


 「絶壁‼」


 俺とミュンツェさんの声が重なり、鎌を波紋が受け止める。

 次の瞬間、ルイーゼとゼスの間の地面が盛り上がり、壁が出現した。


 「ハッ!」


 瞬間、ゼスが鼻で笑い、魔力がほとばって壁が砕かれる。

 少女の前に飛び出した俺に向かって、刃を翻した鎌が振り上げられた。


 その刃が俺に届く前にピタリと停止する。

 ゼスの前に滑り込んだコーが彼の喉元に短剣を突き付け、背後に回り込んだメリアが魔力を高ぶらせていた。


 「武器を下ろしなさい。さもなければ、全身が砕けるほど凍らせますわよ」


 メリアの警告に、視線を巡らせたゼスは溜息をついて鎌を地面に落とす。

 彼は両手をかざして敵意がないことを伝えた。


 「分かった。こーさん、こーさん」


 ひらひらと手を振って武器を持っていないことをアピールするゼス。彼の足元に落下した鎌をミュンツェさんが回収し、離れた場所に置いた。


 「ゼス、お前、何でスカイルを斬ったりしたんだよ」


 メリア達に牽制されるゼスに、俺は疑問に思ったことを訊ねる。


 「なに、クソガキ達の子守りに、いい加減うんざりしただけだ」


 ゼスは肩を竦め、そう言い放つ。その言葉に、ルイーゼがビクッと身体を揺らした。


 「ルーは、ルコレは今どこにいるの? 言いなさい」


 顔に焦りを滲ませながらコーが問い詰め、彼は溜息をつく。


 「知らねぇ。俺が気ぃ失ってるときに、誰かにつれてかれた」


 「っ、嘘をつくな!」


 「コー!」


 ゼスの答えにコーの頭に血が上り、彼の首の皮を薄く切り裂く。ちろりと流れ落ちた赤い血に、リックが声を上げた。


 「嘘じゃねぇよ。この状況で嘘を言って何になる。あ、ちなみにルコレを連れてったやつも見てねぇから分かんねぇ」


 飄々とのたまうゼスに怒りを露わにしながらも、コーは短剣を引く。


 「死神。君達に依頼をしたのは誰だ」


 静かに問うミュンツェさんに、「それ聞いちゃう?」と悪戯っぽく笑うゼス。無言でメリアの周囲に、冷気が漂い始めた。


 「おっかねぇ女だなぁ! はいはい、大人しく言いますよー」


 背後に広がる冷気に背筋を震わせ、ゼスが口を開く。


 「俺様達に依頼したのは―――」


 と彼が言った瞬間、異様な魔力が放たれゼスの首筋に突き刺さる。


 「ぐあっ!」


 彼は大きく仰け反り、そのまま横に倒れた。

 俺は魔力が放たれた方向を振り返る。そこには、亡霊のように佇むあのフードの人物がいた。


 「あいつ……!」


 俺の視線に気付いたフードの人物が身を翻し、途端にその姿が掻き消える。


 「ゼス!」


 コーの叫び声に俺が視線を戻すと、ゼスが身をくねらせ、もがき苦しんでいた。

 喉元を押さえる手は爪が首を引っ掻き、血が滲んでいる。激しくのたうち回っていた身体がびくびくと痙攣けいれんし、開かれた口から唾液が垂れる。


 「なにこれ、この人の魔力を、変な魔力が暴走させてる! このままだと、この人死ぬよ!」


 瞬時に虹色の瞳に変わったリックが、息を呑む。瞬間、ゼスの身体からとてつもない魔力が迸り、俺達は吹き飛ばされた。


 「ぐっ……」


 数メートル程地面を転がり、俺が顔を上げると痙攣けいれんするゼスの下の地面がクレーターのように凹んでいる。


 「調律だ!」


 リックが叫ぶ。確か、調律とは死にかけた時に核が変異する現象だったか。

 刹那、リーフグリーンの三つ編みが跳ねた。


 「ゼス‼」


 ルイーゼがゼスに向かって駆け、衝撃に揉まれる。堪えるように足を踏ん張り、彼女は地面に手をついて四つん這いになり一歩一歩、ゆっくりとゼスに近付く。


 「ゼス……!」


 ルイーゼが手を伸ばし、ゼスの手を掴む。


 「る……いぜ…………」


 彼女の手の感触に、目を剥いて苦しんでいたゼスが、焦点を彼女に合わせた。


 「……お……まえ……ち、は…………いき、ろ……」


 喘ぐように告げられたその言葉に、ルイーゼが目を瞠る。


 「……ぅか……いる…………る……ぜ……」


 震える唇が名を紡ぎ、ゼスの瞳から光が失われる。

 だらりと力の抜けた手を握り、ルイーゼは呆然と呟いた。


 「ゼス――?」







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