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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第三章 双璧の死神
74/120

74、夕闇






 それから平穏な一週間が過ぎた。

 ベネは一晩屋敷で過ごしてから村に帰っていった。彼とはまた手紙を送ることを約束している。


 屋敷の襲撃者達は城の牢屋に移動されることとなり、犯罪者用の馬車で送られていった。

 リックと王女の文通はまだ続いているようで、研究者肌の二人は気が合ったのか二日に一回は伝書鷹の姿を目撃している。


 コーはあれから随分と明るくなり、廊下ですれ違うと話しかけてきてくれるようになった。

 メリアは花の無くなった庭園で時間を過ごすことが増え、よく廊下の窓から彼女の姿が見えた。


 ミュンツェさんは忙しそうになり、同じ屋敷の中にいても食事の時以外はあまり見かけない。

 俺は執事さんに教えてもらいながら生垣いけがきを直し、時間の空いた時はリックに文字の練習に付き合ってもらった。そのお陰か、今は他の人が見ても大分読めるような字が書けるようになってきている。


 リックは俺の教科書にも興味を示し、勉強の隙間時間は逆に俺がリックに教科書の内容を教えるという勉強漬けの毎日を送っていた。

 そんなある日。それは突然訪れた。


 窓から夕陽が差し込み、そろそろ夕食かと俺とリックが勉強道具を片付けていた時のこと。

 突然とつぜん硝子がらすの割れる音と悲鳴が階下から聞こえ、俺とリックは部屋を飛び出す。


 「イツキさん! リック!」


 名前を呼ばれて振り返ると、ポンチョをひるがえしながらコーが駆けてきた。


 「コーの後ろから離れないで下さいー。二人はコーが護ります」


 頼もしい言葉と同時に、彼女の両手に二振りの短剣が握られる。

 その瞬間、風切り音と共にコーの短剣が煌めく刃を受け止める。


 大鎌を跳ね返され、距離を取ったスカイルは獰猛な笑みを浮かべた。


 「おーおー、お前コレルじゃねぇか。久しぶりだなぁ!」


 スカイルはコーに気が付くと、親し気に手を振る。


 「……久しぶり」


 対して彼女は警戒するようにワインレッドの瞳を細めた。


 「お前、全然変わらねぇなぁ。ルコレも相変わらずお前とそっくりなのか?」


 気安く話しかけるスカイルに、コーがカッとしたように叫ぶ。


 「何言ってるの? ルーはゼスがさらった! スカイルの方がよく知ってるんじゃないの⁉」


 コーの叫びに、スカイルが眉を顰める。


 「ゼスが? 知らなかったなぁ」


 とぼけた様子もなく言うスカイルが、少し考えるように宙を見上げてから顔を戻した。


 「オレには難しいことは分かんね。とにかく今は仕事をさせてもらうぜ!」


 彼は地を蹴り、大鎌を振り上げた。

 コーは俺達を庇うように前に出ると、短剣を構えた。



========================================



 部屋で仕事をしていたミュンツェは階下から聞こえてきた悲鳴に立ち上がり、部屋を飛び出そうとした。


 「ちょっと待てよ」


 その背中に、しわがれた声がかけられる。ミュンツェが足を止めて振り返ると、換気のため開けられていた窓の枠に、ゼスが腰掛けていた。


 「なあ、お前が領主様ってやつか?」


 「……ああ。私が領主のミュンツェ・ラルシャンリだ。何か用かい?」


 警戒を緩めずに名乗ったミュンツェに、ゼスは薄い笑みを浮かべる。


 「いや、なに。ちょっとお前に頼みがあるんだ」

 そう言うと、ゼスはひらりと部屋の中に降り立った。



========================================



 ルイーゼは生垣いけがきを飛び越えると、庭園の中に降り立った。


 「げっ」

 彼女の無表情の中に、一瞬苦い物が走る。

 ルイーゼの視線の先。そこにはベンチに腰掛けるメリアの姿があった。


 咄嗟にルイーゼが身をひるがえした瞬間、足元に白い塊が突き刺さる。


 「なんだか屋敷が騒がしいようですわね」


 彼女の背中に声がかけられ、魔力が立ち昇る。

 ルイーゼが振り返ると、立ち上がったメリアの周りに数え切れない程のドライアイスが生成されていた。


 彼女が鎖鎌を構えた瞬間、無数の白い弾丸が発射された。



========================================



 スカイルが振り下ろした大鎌を、交差させたコーの短剣が受け止める。

 力比べとなり押されたコーは短剣を傾けて大鎌を流すと、体勢を崩したスカイルの身体に短剣を突っ込んだ。


 それを上体を仰向けに倒すことでかわしたスカイルはそのまま後方宙返りして体勢を立て直し、再びコーに襲い掛かる。

 刃を右手の短剣で受け止めたコーは地を蹴って宙を踊り、逆手に持ち替えた左手の短剣を振り下ろそうとした。


 「お前、なんちゅー動きするんだ!」


 切っ先を辛うじて避けたスカイルが、わめきながら咄嗟に振り上げた大鎌を避け、コーが俺達の元へ飛び退く。

 その瞬間、俺達とスカイルの間にあった窓硝子まどがらすが割れ、外から何かが転がり込んできた。


 「ルイーゼ⁉」


 それの正体に気付いたコーが驚いたように叫ぶ。

 全身傷だらけになりながらも立ち上がったルイーゼは、コーを見て目を見開くとスカイルの元に飛び退いた。


 「スカイル、ごめん。当たり引いた」


 「それって」


 ルイーゼの言葉にスカイルが何かを言おうとした刹那、割れた窓硝子まどがらすにトンッと軽い音がする。

 赤と藍色が混ざった夕闇をバックに窓枠にしゃがみ込んでいたメリアが、ふわりとワンピースをなびかせて飛び降りた。


 彼女の姿を見た瞬間、スカイルが顔を引き攣らせた。







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