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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第三章 双璧の死神
70/120

70、暗殺ギルドとは






 一つの部屋の前でミュンツェさんは立ち止まると、ドアをノックした。


 「どうぞ」


 中から執事長さんの声が聞こえ、ミュンツェさんがドアを開ける。

 俺達が中に入ると、執事長さんは驚いたように片目を見開いた。


 執事長さんは片目に包帯を巻いている。痛々しいその姿に俺達が言葉を失っていると、彼は立ち上がってお辞儀をした。


 「お迎えが出来ず申し訳ありません。お帰りなさいませ、旦那様、イツキ様」


 「ああ、それは別にいいんだが、傷は大丈夫かい?」


 心配そうに訊ねるミュンツェさんに、執事長さんは穏やかな笑みを浮かべる。


 「ええ。襲撃の際たまたま窓の前にいまして、硝子がらすで切ってしまっただけなので。お恥ずかしい限りです」


 「そうか」


 ミュンツェさんがほっと胸を撫で下ろし、俺も少し安心する。見た目ほど大怪我という訳でもなさそうだ。


 「現在賊は地下牢にて閉じ込めております。ただ、旦那様にお伝えしたいことが」


 「ん? 何だい?」


 執事長さんは一瞬辺りを見回し、声を潜めた。


 「襲ってきたのは暗殺ギルドの者でした。恐らくは死神の手先ではないかと」


 彼の言葉に、俺達は息を呑む。


 「死神の? なぜそう思うんだい?」


 「第一に襲撃者は皆鎌を装備しておりました。暗殺ギルドでは幹部の手下は皆、幹部にならった武器を装備します。第二に、襲撃者たちの動きが洗練されていたことです。まず半端なものではないでしょう」


 ミュンツェさんの問いに、執事長さんがスラスラと答える。彼の言葉に、ミュンツェさんは「そうか……」と考え込んでしまった。

 いや、何で執事長さんそんなに暗殺ギルドの事情に詳しいの?


 俺がじーっと見つめていると、その視線に気付いた執事長さんが口の前に人差し指を出した。


 「イツキ様。世の中には知らない方が幸せなこともありますぞ」


 「はい、分かりました!」


 執事長さんの言葉に即行で頷き、俺は思わず冷や汗を滲ませた。


 「分かった。邪魔をしたね」


 「いえ、こちらこそ、わざわざ足をお運び頂きありがとうございました」


 ミュンツェさんがドアに足を向け、執事長さんが再度頭を下げる。

 彼の後に続き、執事長さんの部屋を退室した俺は、隣のミュンツェさんの顔を見上げた。


 「あの、ミュンツェさん。そもそも暗殺ギルドって何なんですか?」


 「ああ、そうか。イツキは知らなかったね」


 俺の質問に初めて気付いたような顔をし、ミュンツェさんは笑みを浮かべた。


 「そうだな、この話は長くなるしお茶でも飲みながら話そう」


 たまたま廊下を通りかかったメイドさんにお茶の用意を頼み、俺達は風の間で向かい合わせに座った。


 「まずはこの国のことについて話そう。イツキはアレストレイル王に会ったよね?」


 「はい」


 俺が頷くと同時に、ワゴンを押したメイドさん達が入ってくる。

 彼女達がお茶の用意をし終えて部屋を退室するまで待って、ミュンツェさんは話を再開した。


 「彼はアレストレイルの名を継いだ七代目の国王なんだ。アレストレイル一世の時代に、クラウン王国は大きく発展したと伝えられている。硬貨に彫られているのも、彼の顔らしいよ」


 そうミュンツェさんに言われ、硬貨に彫られた青年を思い出そうとする。確かに王様に似ていたような……いや、やっぱ分かんねぇわ。


 「国に流れ込んでくる異種族の多さや魔石の保有量、魔法の発展、『地下街ちかがい』を抱え込んでいることなどを考えても、やっぱりクラウン王国の権力は隣国と比べても大きいと思うね」


 「地下街ちかがい?」


 語られる話の中から気になる単語を聞き返すと、ミュンツェさんは笑みを深くした。


 「気になるよな。イツキはトーリスと会っただろう? 彼女はドワーフという種族だが、ドワーフはこの国の地下に街を作り、そこで生活している。噂だと、国中の至る所に地下道を掘り進めているそうだよ」


 彼の言葉に驚き、俺は目を見開く。普段意識しない足元には、そんな世界が広がっているのか。


 「さて、国が発展すると共に所謂いわゆる良くない奴等も流れ込んできた。彼らはやがて集団となり、クラウン王国の日陰となってひっそりと蔓延はびこるようになった。いつしか自らを『暗殺ギルド』と名乗ってね」


 「暗殺ギルド……王様は、そのギルドの人達を捕まえないんですか?」


 俺の疑問に、ミュンツェさんは首を振る。


 「暗殺ギルドは王国でも介入できない独立した組織なんだ。襲われたら運が悪かった。この国の人達の認識はそうなってるんだよ」


 ミュンツェさんの話を頭の中で整理する。

 暗殺ギルドは独立した組織で、王国も介入できない。襲われたら運が悪かった……。


 「……って、そんなのこっちが不利なだけじゃないですか!」


 思わず大きな声を出してしまい、ティーカップに口を付けていたミュンツェさんが笑う。


 「勿論、こちらだって無抵抗じゃないさ。貴族は互いに暗殺ギルドの情報を共有し合い、警戒を強めている。その中でも『死神』と『双璧の死神』は特に名が知れてるね」


 「死神……」


 俺はゼスの鋭く輝く鎌と、スカイルとルイーゼの大鎌と鎖鎌を思い出す。


 「死神と双璧は類似点が多いから、何かしらの関係性があると言われている。どうやら私達は今、彼らに狙われているようだがね」


 肩を竦め、彼はカップをテーブルに置き、ニッと好戦的な笑みを滲ませた。


 「まあ、こちらもタダでは逃さないつもりだよ」


 ミュンツェさんがそう言った瞬間、ドアがノックされ、俺達の返事を待たずに開けられる。


 「領主様、お話し中にすみません」


 慌てたように入ってきたリックは、俺達の顔を見て不安気な表情を浮かべた。


 「屋敷中を探しても、コーがどこにもいないんです……!」







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