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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第三章 双璧の死神
69/120

69、月夜






 トーリス達と別れ、お尋ね者ばかりの酒場から出たスカイルとルイーゼは暗い夜道を、ゆっくりと歩いていた。


 「あ……」


 不意に、ローブを着込んだルイーゼから小さな呟きが漏れる。


 「どうした?」


 スカイルはすぐに振り返った。


 「首飾りがない。どうしよう、折角ゼスがくれたのに」


 胸元を押さえ、狼狽うろたえるルイーゼにスカイルは「落ち着け」と声をかける。


 「店に落としたんだとしたら店主が気付かないはずはない。ここに来るまでの道を探してみよう」


 「うん」


 頷くルイーゼの瞳が月光を反射してキラリと輝く。すぐにスカイルの瞳も光り輝いた。

 獣人の特徴の一つである、『夜目よめ』は動物と同じように暗闇の中でも物を見ることができる。


 二人は目を凝らして、夜道を歩いていった。


 「……ねぇなあ」


 「もしかしたら、襲った時に落としたのかも」


 「じゃあ、ちょっと遠いが一応見に行ってみるか」


 がしがしと頭を掻いたスカイルが、上体を落とし一歩を踏み出す。

 次の瞬間、灰色のローブの姿が掻き消え、寝静まった王都の夜道に風を切る音が木霊す。


 彼に並走し、ルイーゼは王都の街並みを疾走した。

 王都から少し出たところに、戦闘の痕跡が月光に照らし出されている。


 「馬車は片付けたみてぇだな」


 足を止め、スカイルが辺りを見回しながら呟く。

 しかし幾ら探しても、首飾りは見つからなかった。


 「どうしよう……」


 しゅんぼりと項垂れるルイーゼに近付いたスカイルは、彼女のフードを落とし頭の上から何かをかけた。


 「これ……」


 「トーリスに新しいのを作ってもらうまでは、オレのを貸してやる」


 ローブの上で銀色に輝くペンダントに目を見開いたルイーゼが顔を上げると、スカイルはニッと笑って彼女の頭を乱暴に撫でた。


 「そう落ち込むな。こっそり作ってもらえばゼスにはバレねぇよ」


 「……そうだね」


 ぼさぼさになった頭を押さえて、無表情だった少女の顔に淡い笑みが浮かぶ。

 二人のシルエットを、月光は静かに照らした。



========================================



 男達が談笑し、下卑げびた笑い声を上げる。

 両手と両足を鎖に繋がれたルコレは、じっと静かに地面に視線を落としていた。


 彼の身体には幾つもの痣ができ、暴行の痕が見受けられる。ルコレがペッと唾を吐き出すと、地面に濁った唾液が付着した。

 その時男達が静かになり、奥から一人の男が進み出てくる。


 「おー、ルコレ。どうだい、ギルド式の拷問を受けた気分は」


 「……最悪だよー」


 ルコレの前に立ったゼスは、ニヤッと口角を吊り上げた。


 「そうか。まあいい。お前、そろそろ独りぼっちにも飽きてきたろ」


 「……何が言いたいの?」


 ルコレが胡乱気うろんげな眼差しを送ると、ゼスは更にニヤニヤと唇を緩める。


 「いや、なに。お前をお姉ちゃんと会わせてやるよ。姉弟の感動の再開だ」


 「っ‼ コーに、コレルに手を出すな‼」


 ガシャガシャと鎖を鳴らし、ルコレは声の限りに叫ぶ。

 ゼスは哄笑を上げると、「待ってろ。俺様がお前のためにコレルを連れてきてやるからな」とさも楽し気に瞳を輝かせた。


 「お前……っ!」


 ゼスを睨みつけるルコレのワインレッドの瞳が、妖しく光り輝く。鎖から、メキッと不穏な音が響いた。

 刹那、ドサッという重い音が次々に響き、ゼスが勢いよく振り返る。


 「誰だ!」


 鋭く訊ねた彼の膝から力が抜け、ゼスがルコレの前に倒れる。

 カラン、と乾いた音がした。


 「……誰?」


 ルコレの声に、カラン、コロン、カランと乾いた音が連続して響き渡る。

 やがて隙間から差し込んだ月光の中に、真っ赤な傘が浮かび上がった。



========================================



 俺達は途中で休憩も挟みながら、三日でミュンツェさんの屋敷に辿り着いた。

 いつの間にか兵士さん達の馬車は置いて来てしまったようで、すっかり姿が見えなくなっている。


 ベネが屋敷の前で馬車を止め、俺達は外に降りる。

 地面に足が触れると、今まで振動のある中にいた為か、なんだか変な感じがした。


 俺が伸びをしてると、屋敷の中からメイドさんが飛び出してきた。


 「旦那様!」


 「ただいま。遅くなって悪かったね」


 慌てた様子の彼女に、ミュンツェさんが落ち着かせるように声をかけると、メイドさんは息を整えてから「お帰りなさいませ」と頭を下げた。


 「城で屋敷が襲われたと聞いた。被害は?」


 「庭園が踏み荒らされ、窓硝子まどがらすが数枚割られました。幸いすぐに兵士達が捕らえましたが、近くにいた執事長が怪我を……」


 「彼が?」


 被害を聞いていたミュンツェさんが息を呑む。俺も目を見開いた。


 「怪我自体はそれほど大きくないのですが、目の近くでしたのでしばらく安静にするように伝えてあります」


 「そうか、分かった。他の皆は無事か?」


 「はい。ただ、襲われた時に丁度リクエラが来ていて、危険なのでそのまま屋敷に引き留めております」


 「了解。私は中に入るが、彼をもてなしてあげてくれ」


 そう言ってベネを示すミュンツェさんに、少年がビクッと肩を跳ねさせる。「かしこまりました」とメイドさんが頷き、ベネの案内をする声が聞こえてきた。

 俺は中に入っていくミュンツェさんの後ろについていく。


 「イツキ。私は執事長の様子を見に行くが、君も来るかい?」


 「はい!」


 ミュンツェさんに頷き、俺達は急いで屋敷の中を移動した。







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