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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第三章 双璧の死神
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68、情報交換






 「お前達に頼まれた情報は同じものだったんでね。二度手間を省くために一緒に呼ばせてもらったよ」


 「おい、勿体ぶるんじゃねぇよ」


 空き箱に腰掛け足を組むトーリスに、同じく空き箱の上で胡坐あぐらをかきながら、ゼスが野次を飛ばした。


 「まあまあ、慌てなさんな」


 トーリスは首筋を這っていた後れ毛を背中に払うと、その指で軽く唇に触れ、口角を吊り上げた。


 「お前達の依頼はラルシャンリ家に転がり込んできた金髪の少女について。死神だけじゃなく双璧にまで依頼するなんて、よっぽどお前達の依頼人はその子にご執心なんだな」


 「ゼスが失敗した依頼をオレ達ができる訳もないのにな」


 「おい、俺様は失敗したんじゃねぇよ。引き際をわきまえていただけだっつーの!」


 トーリスの話にスカイルが口を挟み、ゼスが彼の頭に手を乗せて乱暴に揺する。「やめろぉ!」ともがくスカイルの隣からトーリスの隣へと、ルイーゼがひらりと移動した。


 「はいはい、そこ。話を続けるよ」


 隣に腰掛けたルイーゼの三つ編みに手を伸ばし、トーリスが空気を変えるように咳払いをする。


 「元々ラルシャンリ家には、金髪の少女なんていなかった。しかし、ある日突然彼女の噂が流れ始めた。お前達、氷結塔ひょうけつとうが鳴り始めた日を憶えているかい?」


 彼女の問いに、三人が次々に頷く。

 今からひと月ほど前、突然時を刻み始めた氷結塔ひょうけつとうの鐘の音は王都まで聞こえてきている。


 「そう。あの氷結塔が鳴り始めた日を境に、少女の目撃情報が出てきているんだ。それと同時に、『イツキ』っていう黒髪の少年も目撃され始めてる。というより、彼のほうが目撃情報自体は多いかな。店に来て自分も会ったけど、ごく普通の男の子だよ」


 「野郎はどうでもいいんだよ。俺様が聞きたいのは金髪の女の方だ」


 トーリスの話を遮ったゼスに、彼女は肩を竦めた。


 「生憎、彼女についてはあまり情報が集まらなくってね。これには自分もお手上げだ」


 「おい、どうしたトーリス。情報屋の名が泣くぜぇ?」


 珍しく気弱な彼女に、ゼスがからかうように八重歯を剥き出しにして笑う。


 「ただし、ここには彼女を直接見た、またやりあった奴等がいる。どうだい? 情報交換といこうじゃないか」


 トーリスの提案に、三人は互いに素早く視線を巡らせた。


 「……いいよ」


 真っ先に声を上げたのは、いままで沈黙していたルイーゼだった。

 リーフグリーンの三つ編みをトーリスに弄ばれながら、彼女は思い出すように虚空こくうに視線を彷徨わせる。


 「確か、少女は『メリア』って呼ばれてた。戦闘力的には文句の付け所がない。力も素早さも魔法も技術も、一級以上。スカイルの鎌を靴で跳ね返したくらいだもん」


 「ほー、自分が研いだスカイルの鎌をか。そりゃ鍛冶師としても無視できないな」


 話を聞いていたトーリスが、感嘆したような声を上げた。


 「それから、多分そのイツキって少年の傷口に、自分の血を流し込んでた」


 「なんじゃそりゃ。気味悪ぃ女だな」


 ルイーゼの言葉に、ゼスが嫌そうに顔を顰める。彼女の言葉に、トーリスは何かを考えこんでいるようだった。


 「ぶっちゃけ魔法もいかれてるぜ。冷たすぎて火傷するって話聞いたことあるか?」


 ルイーゼの話を継ぐようにスカイルが口を出し、ゼスが驚いたように目を見開く。


 「ちょっと待て。お前が冷たいって分かったのかよ」


 「ああ。それなのに、魔法に触れた身体は火傷しやがった。全く、どうなってやがんだ」


 スカイルがぼやきながら、頭を掻きむしった。


 「俺様は直接やりあってねぇが、女が大精霊とまともにやりあって勝っちまったとこをこの目で見た」


 「はあ⁉ 大精霊と? なんだそりゃ、そんなの化け物かなんかじゃないか!」


 スカイルが驚愕きょうがくの声を上げ、声こそ発しなかったもののルイーゼも驚いたように目をみはっている。


 「……いや、いるじゃないか。そういう化け物が」


 不意に、今まで黙っていたトーリスが口を開いた。


 「もし、少女の血に癒しの力があったとしたら? もし、少女が桁外れの魔力を持っていたとしたら? もし、少女が大精霊以上の化け物だったら?」


 トーリスの質問に、三人の頭に疑問符が浮かぶ。


 「なんだ、まどろっこしい。つまりお前は何が言いてぇんだ?」


 我慢できなくなったように言ったゼスに、彼女は興奮したように瞳を輝かせた。


 「少女がドラゴンだとしたら、全て合点がいくと思わないか?」


 トーリスの言葉に、三人が息を呑む。


 「いや、待て待て。仮にドラゴンだとしても、あいつの魔法については説明がつかねぇだろ。ドラゴンは火属性のはずだろ?」


 「そんなの、どうとでもなるだろ」


 スカイルの疑問を一蹴いっしゅうし、トーリスは頬を上気させた。


 「なあ、お前達あの子を殺しても構わないって依頼を受けてるんだろ?」


 三つ編みから手を離し、彼女はルイーゼにしがみ付く。


 「自分の全財産をくれてやるから、依頼人に死体を渡す前にドラゴンティアだけかすめ取ってきてくれよ」


 「ドラゴンティア?」


 ルイーゼが首を傾げると、「ドラゴンの心臓にある魔石さ」とトーリスが言葉を添える。

 彼女の「全財産」という言葉に、ゼスとスカイルが尻上がりの口笛を吹いた。


 「すっげぇ。業突ごうつりのトーリスが全財産と言いやがった。そんなにドラゴンティアっつーもんはいいもんなのか?」


 「いいもなにも、ドワーフの憧れの宝石さ。いいだろう? ちょこっと取ってきてくれればいいだけなんだよ」


 ルイーゼに縋りついて離れないトーリスに、彼女が困ったような顔をしているとゼスが「分かった」と頷いた。


 「いいだろう。女を殺したら、お前にドラゴンティアをくれてやる」


 「本当かい⁉」


 ゼスの言葉に、トーリスが顔を輝かせる。


 「依頼人だけじゃなくトーリスにも執着されるなんて、あいつもえらく人気なもんだ」


 スカイルが笑いながらそう言うと、トーリスが妖艶ようえんな笑みを浮かべた。


 「そりゃそうさ。ドワーフは皆ドラゴンティアに狂ってるようなもんさ」







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