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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第三章 双璧の死神
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66、仲直り






 しばらくして、中からミュンツェさんと老婆が出てきた。

 ミュンツェさんの腕には、どこから入ってきたのか少しヨレヨレした鳩が乗っており、彼が腕を掲げると羽を羽ばたかせてどこかへと飛んでいく。


 ミュンツェさんは俺とメリアに向き直ると、「お婆さんと話が纏まったよ」と口を開いた。


 「この村の馬車を貸してもらえることになった。私達はそれで先を急ごうと思う。後の馬車に鳩を飛ばしておいたから、事情は伝達済みだ」


 後の馬車というのは、行きの時に兵士さんや荷物が乗っていたもう一つの馬車のことだ。とにかく早く出発したいということだったので、先に俺達だけ出てもう一つの馬車は後程追いつく予定になっていた。

 しかしこうなってしまった以上、もしかしたら先を越されてしまったかもしれない。その為ミュンツェさんは鳩を飛ばして、事情を共有しようということだろう。


 「怪我人と馬車はうちの村でお預かりします。なに、ちゃんと治ったらちゃーんとお戻ししますよ」


 やけにご機嫌な老婆に「ありがとうございます」と俺が頭を下げると、彼女はニタァっと口が裂けたような笑みを浮かべた。


 「いえいえ、貰うものは貰ってますからね。ふぉっふぉっふぉ!」


 老婆の言葉に俺は納得する。大方ミュンツェさんが迷惑料でも払ったのだろう。

 その時、野太い騒めきが聞こえ俺が振り返ると、ベネと馬車を支えて押してきた男衆達が戻ってきた。


 「お婆。どこに置いても危なさそうだったから、ミュンツェ様の馬車持ってきちゃったよ」


 「はいよ。その辺にでも置いておきなさい」


 ベネの言葉に老婆が村の入り口の近くを指差し、男衆が慎重に馬車を下ろす。


 「ああ、そうだ。ベネ。お前、ラルシャンリ様達を領地までお送りして差し上げなさい」


 「え⁉」


 馬車を見守っていたベネは、老婆に命じられ驚いたように振り返った。


 「な、なんで僕が?」


 「なんでも、ラルシャンリ様達は急ぎで領地まで戻らなければならないそうで。お前なら『暴れ馬』も従えさせられるだろう?」


 「そうだけど……」


 ベネは抵抗するように上目遣いで老婆を見つめる。子犬がすがるるような眼差しを老婆は「ぐだぐだ文句言うんじゃないよ」と一蹴いっしゅうし、ベネの背中を叩いた。


 「ほらシャンとしな。しっかりラルシャンリ様達をお送りするんだよ」


 「分かったよぉ……それじゃあ僕、馬車の準備してくるから」


 少年は諦めたように肩を落とし、村の奥へ走って行く。


 「イツキ」


 ミュンツェさんに名前を呼ばれ顔を向けると、彼は俺を促すようにベネの背中に視線を送った。

 その意図を察した俺は、少年の背中が見えなくなる前に慌てて追いかける。


 ふと瞬きをした瞬間にベネの姿を見逃してしまい、焦って足を止める。必死に視線を巡らせると、倉庫のような建物の中からベネが出てきたのを目撃した。


 「ベネ!」


 俺は名前を叫び、彼の元へ駆け寄ろうとした。


 「イツキ⁉ 来ちゃダメだ!」


 瞬間、ベネに強く止められ、思わず足が動かなくなる。

 その時、ベネの後ろから出てきたシルエットが日の光を浴びて色を宿した。


 それはとても巨大な馬だった。身長は二メートルなんかとっくに越しているほど大きく、手綱を引いているベネが小さく見える。限りなく黒に近い赤色の全身は筋肉という筋肉がとても発達し、思わず見とれてしまいそうだ。

 不意に馬の耳がピクッと動き、大きく仰け反ったかと思うと「ヒヒィイイイイイインッ‼」と耳をつんざくようないななきを上げた。


 あまりにも大きな声に、思わず耳を押さえる。それでも尚、ビリビリと全身が震えるような声だ。


 「落ち着け‼ いい子だ落ち着くんだ、お前ならできるだろう⁉」


 ベネが負けじと声を張り上げ、馬を落ち着かせようと声をかけ続ける。

 やがて馬が口をつぐみ鼻息を吐き出したのを見て、ベネが「いい子だ」と馬の胸を叩いた。


 「もう大丈夫ですよ。どうされました?」


 馬の胸に手を添えたまま少年が振り返り、俺は恐る恐る彼らに近付く。


 「えっと、この馬は……?」


 あまりにも馬のインパクトが強くて、つい本題に入る前に聞いてしまった。


 「ああ、この子は『暴れ馬』。あまりにも気性が激しくて力が強いので、皆にそう呼ばれているんです。この子一頭で多分イツキ様達、全員運べますよ」


 「全員⁉」


 この一頭で成人三人プラス、ベネと馬車を運べるというのか?

 俺は呆気に取られしばらく暴れ馬を見上げたが、彼にじろりと睨まれ、本題を思い出した。


 「あの、ベネ」


 「はい?」


 俺はベネの目の前で勢いよく頭を下げた。


 「あの時、ベネの試験の邪魔をしてごめん! 俺がベネに道を聞かなければ、ベネはもしかしたら団に入れたのかもしれないのに、俺のせいで、本当にごめん‼」


 誠心誠意を込めて直角よりも更に深くなるように、俺は頭を下げ続けた。


 「……イツキ様、あれは僕が悪かったんです。イツキ様の話も聞かず、早とちりで試験に連れて行ってしまった僕が悪かったんです」


 静かに、頭上から降り注いだ声に、俺は目を見開く。


 「だから、頭をお上げ下さい。貴方は何も悪くないんです」


 ベネの言葉に、俺はゆっくりと頭を上げる。

 目が合った少年は、にっこりと微笑んだ。


 その瞳の奥に、まだ溶け切らない塊を見出して、俺は咄嗟にベネの肩を掴んだ。


 「ベネ、ごめん。虫のいい話だとは分かってる。でも、俺はベネと対等に話したい。対等な関係でいたい。だからその話し方はやめてほしい。あの時みたいに、普通に、ベネと話したいんだ……!」


 驚いたように目を見開いたベネが、ゆっくりと口を開く。


 「……でも、イツキ様は、俺なんかよりよっぽど高い身分の方ですよ?」


 「知ってるか、ベネ? 俺な、ミュンツェさんに保護してもらえなかったら仕事も住む場所も、食べ物も金さえないくらいの立場の人間だったんだぜ? そんなろくでもない奴に敬語で話すなんて馬鹿馬鹿しいと思わないか?」


 俺はベネの目を見つめて、真剣に思いを伝えた。

 やがてベネはふっと笑うと、「あはは!」と明るい笑い声を上げた。


 「それはすごいや! 今イツキが生きてるのってよっぽど幸運だったんだね」


 「……! おう! 俺、運だけは自信があるんだ!」


 ベネの瞳の中には、もう塊は残っていない。

 俺達は何がそんなにおかしいのか。互いに笑い転げながら、ミュンツェさん達の元へ戻っていった。







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