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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第三章 双璧の死神
65/120

65、邂逅






 俺の顔を見たベネが、息を呑む。

 その時、ミュンツェさんが一歩前に進み出て、俺達に視線で黙っているよう合図した。


 「私はミュンツェ・ラルシャンリ。見ての通り事故を起こしてしまい、困っていたんだ。君は?」


 「ぼ、僕はベネといいます。すぐそこの村に住んでいるんですけど、大きな音が聞こえたので気になって。あの、その人怪我してますよね?」


 ベネの視線の先には、未だ苦痛に顔を歪める御者ぎょしゃさんがいる。


 「良かったら、僕の村で休んでいかれませんか? 簡単ですが、治療も出来ると思います」


 「いいのかい?」


 思ってもない親切なベネの言葉に、ミュンツェさんが驚いたように聞き返す。

 ベネは、無邪気な笑みを浮かべた。


 「はい。困った時はお互い様です」


 ミュンツェさんは一瞬考え込むような素振りを見せると、顔を上げた。


 「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらってもいいかい?」


 「勿論です! あ、危ないので馬だけ一緒に連れていきますね」


 ベネは暴れ疲れて大人しくなっていた馬に向かって駆け出す。途中で俺とすれ違ったが、彼は俺の方には一切見向きもしなかった。


 「イツキ、双璧そうへきに襲われたことは彼に伝えてはいけないよ」


 振り返ると、ミュンツェさんが真剣な顔をしていた。


 「無関係の彼を巻き込んではいけない。あくまで私達は事故を起こしたんだ。いいね?」


 「分かりました」


 ミュンツェさんに頷き、俺はベネの方を見る。彼は「どーどー」と馬を制しながら、絡まった手綱を素早く解いていた。


 「ミュンツェさん」


 「ん? どうした」


 俺が名前を呼ぶと、ミュンツェさんはすぐに振り返った。


 「あいつが、ベネが、前に言った俺のせいで試験を受けられなかった人なんです」


 「そうか、彼が……」


 俺の独白に目を見開いたミュンツェさんが、不意に俺の頭の上に手を乗せてくる。


 「これも何かの運命かもしれない。この機会に、彼と仲直りしなさい」


 見上げると、ミュンツェさんは優しい顔をして微笑んでいた。


 「はい……!」


 「お待たせしました。それじゃあ村に向かいましょう」


 俺が頷いた瞬間、馬を引き連れたベネが戻ってくる。


 「どうします、怪我をした方は馬に乗せますか?」


 「いや、どうやら足をやってしまったようなんだ。君の村はここから歩いていける距離かい?」


 「はい! 本当にすぐ近くなので。ここからでも見えます」


 「なら、私達で支えて歩こう。案内を頼む」


 「分かりました!」


 ミュンツェさんとベネの相談が終わり、ミュンツェさんが御者さんを抱え起こす。

 俺も手伝おうと手を伸ばし、自分の手が乾いた血で汚れていることに気付いた。


 「イツキ、気にするな。今はこっちを手伝ってくれた方が助かる」


 ミュンツェさんがすぐに察し、そう言ってくれたので俺は躊躇ためらいながらも御者ぎょしゃさんの背中に手を添えて肩を貸した。


 「大丈夫ですか?」


 「ああ、行こう」


 心配そうに顔を曇らせるベネにミュンツェさんが頷き、ベネが馬を連れて先導する。

 ベネの村は確かにここからでも目視できるほど近く、俺達はゆっくりと歩きながら村を目指した。

 村に入ると、ベネは立ち止まって息を吸い込んだ。


 「お婆~っ! いるー?」


 「……何だいベネ。そんなに大声を出さなくても聞こえるよ」


 張り上げたベネの声が木霊す中、近くの家からのそのそと老婆が出てくる。

 背中が酷く曲がった彼女は、俺達に気付くと「おやまあ」と驚いたように小さな目を瞬かせた。


 「お婆、怪我人がいるんだ。早く診てあげてよ」


 「はいはい。その前に、この方々はどなただい?」


 老婆の疑問に、ミュンツェさんが俺に御者ぎょしゃさんを託して、彼女にお辞儀をした。


 「突然申し訳ありません。私はミュンツェ・ラルシャンリ、帰り道で事故を起こしてしまい、ベネに助けて頂きました」


 「こりゃまあ、ご丁寧に。あたしゃ一応この村の長をさせてもらっとるただのしがない老婆です。皆はお婆と呼んでおりますので、ラルシャンリ様もどうぞご自由にお呼び下さい」


 老婆もお辞儀を返し、俺達に背を向ける。


 「怪我人はこちらに。ベネ、その馬は空いてる厩舎にでも入れておいで」


 「分かった」


 老婆の言葉に従い、ベネが村の奥に歩いていく。

 彼女が家の中に入っていったので、俺とミュンツェさんは老婆の後ろについていった。


 「怪我人を寝台の上に。お兄ちゃん、申し訳ないんだけど部屋が狭いから外に居てくれるかい?」


 「あ、はい」


 老婆に部屋から追い出され、俺は外に出る。

 家の外では、メリアが壁に寄りかかって立っていた。


 「メリア、お前は怪我とかないか?」


 「ええ。大丈夫ですわ」


 俺が訊ねると彼女は簡潔に答えた。

 俺もまた、メリアの血のおかげか、右腕の傷どころか強打した肩の痛みまで消えている。


 肩を動かして調子を確かめていると、村の奥からざわざわとした声が聞こえてきて、ベネが男衆と共に歩いてきた。


 「イツキ様。僕達はこれから馬車を路肩に寄せてきます」


 「あ、ありがとう、ございます」


 確かにあのままだと、他の馬車が通った時に危ないかもしれない。男の人達は皆筋骨隆々で、この人達なら車輪が外れた馬車も運べそうだ。

 ベネは目を伏せて俺とすれ違う。分かりやすく距離を取られ、俺もまた不自然だと分かりながら目を逸らした。







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