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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第三章 双璧の死神
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64、双璧との戦い






 貧血を起こしたのか、頭の中がぐわんぐわんと揺れるような感覚がし、身体がどこまでも重くこのまま地面にめり込みそうだ。

 その瞬間、頬にそよ風が触れ、ミュンツェさんが息を呑む音が聞こえる。


 眩暈めまいを堪えて目を開けると、目の前にしゃがみ込んだメリアと目が合った。その後ろで、スカイルとルイーゼが戸惑ったように視線を行き来させている。


 「メリア……?」


 俺が名前を呼ぶと、彼女は口元に手首を寄せる。そのまま口を開けると、真っ白な手首に犬歯を突き立てた。


 「おまっ、何やってんだ!」


 メリアの手首から血が噴き出し、彼女の手を伝って地面にポタポタと垂れる。思わず声を上げると、メリアは無言で俺の右腕を掴んできた。


 「っ!」


 口をついて出そうな悲鳴を必死に飲み込んでいると、メリアは俺の傷口に自分の血を流し込む。

 その瞬間、傷口から金色の燐光りんこうが放たれ、痛みがまるで波が引くように引いていく。


 俺はハッと目を見開いた。リックの声が蘇る。


 『彼らの血は瀕死のものを蘇らせる力を持つ』


 ドラゴンの血。どんな傷も病も治す血。


 「わたくしの血でも失った血までは戻りません。せいぜいそこで大人しくしていることですわね」


 そう言うと、メリアは振り返りもせずに、背後に迫っていた大鎌の刃先を左手の人差し指と中指で掴む。

 そのまま彼女は軽く左手を振り下ろし、大鎌を構えていたスカイルは俺達の後ろに勢いよく投げ飛ばされた。


 次の瞬間、風切り音と共に投擲とうてきされたルイーゼの鎖鎌がメリアに襲い掛かる。

 しかしそれも受け止めたメリアは、逆に鎌を握り鎖を引っ張った。


 ルイーゼとメリアの綱引きは一瞬でルイーゼが引きずられ、彼女がよろけた瞬間に肉薄したメリアがルイーゼを蹴り飛ばす。


 「馬車を止めたのはこの鎖ですわね。大方、車輪にでも絡めて横転させたのでしょう」


 大きく弧を描いて飛ばされたルイーゼは馬車の中に突っ込み、起き上がってくる気配はない。


 「ルイーゼ!」


 倒れ込んでいたスカイルの叫びが聞こえた刹那、姿を消したメリアが次の瞬間には少年の前に立ちはだかり、スカイルが大鎌を握っていた右手の甲を踏みしめていた。


 「言ったでしょう? 貴方ごときに剣は必要ないと」


 「ぐあっ!」


 メリアが足に力を加える。ミシミシと骨が軋む音が、俺の耳まで届いてきた。


 「メリア、やめろ!」


 俺が呼びかけると、彼女が振り返る。その金髪の後ろ姿からメリアの顔が覗こうとした時、風切り音と共にメリアの身体に鎖が絡みついた。


 「なっ!」


 予想外の攻撃に、メリアの顔に焦りが走る。彼女が腕に力を込めたのが分かるが、鎖は微動だにしない。


 「……その鎖、切れないでしょ」


 不意に静かな声が鼓膜を揺らし、馬車の方を振り返ると馬車の残骸の上にルイーゼが立ち上がっていた。


 がらす子で目の上を切ったのか、左目を閉じて顔の半分を真っ赤に染めた少女が、表情を変えずに口を開く。


 「この鎖は、一つの巨大な魔石から削り出された一級品。それゆえ繋ぎ目がないから、これが切れることはよっぽどのことがない限りあり得ない」


 ルイーゼにメリアが気を取られた瞬間、僅かな緩みを逃さずスカイルがメリアの足の下から手を引き抜いた。


 「オレ達は二人で双璧そうへき。どちらか一方に囚われたら、もう一人に首を刎ねられるぜぇ?」


 唇の片方を吊り上げながら、膝をついた体勢からスカイルが大鎌を振り上げた。


 「絶壁‼」


 寸前、耳元で大声が聞こえ、メリアとスカイルの間に切り立った断崖だんがいが出現する。


 「今度は私のことを忘れていないかい?」


 俺から手を離したミュンツェさんは、俺達を庇うように立ち塞がった。


 「お嬢さんばかりに守られるのも性ではないからね」


 次の瞬間、ピキピキッと甲高い音と共に鎖に真っ白な霜が降りる。

 あまりの冷たさに堪えきれずにルイーゼが鎌から手を離すと、身体を回転させて遠心力で鎖を解いたメリアは足元に鎖鎌を落とし、じろりとミュンツェさんに視線を送った。


 「別に貴方の助けがなくても大丈夫でしたのに。余計なお世話ですわ」


 「私は余計なお節介を焼くのが好きなんですよ」


 メリアの素直じゃない言葉に苦笑を浮かべたミュンツェさんが右手を構え、メリアの髪が自身の魔力でひるがえる。

 スカイルはその場に屈むと、大きく跳躍。メリアのすぐ近くを通るように疾走し、彼女の足元の鎖鎌を冷たさを物ともせずに拾い上げた。


 勿論、メリアもただでは通さない。すれ違いざまに幾つものドライアイスをぶつけたが、スカイルは意にも介さずにルイーゼの前に立ち止まる。

 その瞬間ルイーゼの膝が折れ、彼女は力なくスカイルに寄りかかった。


 「絶壁のミュンツェ・ラルシャンリに、規格外の女。おまけに後衛の相棒がここまでやられちゃぁ流石のオレにも分が悪いことくらい分かるぜ」


 腕や顔に幾つも凍傷を負いながら、彼はルイーゼを担ぎ上げ、俺達を振り返る。


 「てなわけで、今回はここらで退散するわ。この双璧を前に一回見逃してもらえただけでも幸運と思えよ!」


 「スカイル。それ負け惜しみってやつ」


 「うるっせぇな! 文句あんなら自分の足で歩け!」


 「無理、全身ボロボロ。置いてったらスカイルの弱点全部暴露してやるから」


 「お前、ホントおっかねぇ女だな⁉」


 ギャーギャーとメリア達の前で口論を繰り広げ、二人が呆気に取られているとスカイルはぶつぶつ言いながらその場で跳躍した。

 彼の姿が掻き消え、静寂がその場に満ちる。


 「あのー……」


 その瞬間、背後から声をかけられ、俺達は勢いよく振り返った。


 「大丈夫ですか? 事故でも起こしました?」


 ビクッとしたように肩を揺らした少年は、それでも心配したように声をかける。

 彼の姿に、俺は呆然と呟いた。


 「ベネ……?」







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