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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第三章 双璧の死神
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63、笑う骸骨






 少年は大鎌を振り上げると、真っ先に俺達に向かって飛び出してきた。


 「まずは一人目!」


 少年が獰猛どうもうな笑みを浮かべる。その視線の先には、ミュンツェさんがいた。


 「ミュンツェさん!」


 俺の声にミュンツェさんが腰を浮かしかけ、思いとどまったように動きを停止する。


 「絶壁!」


 代わりに魔力を膨らませ、大地が勢いよく盛り上がった。


 「うおっ⁉」


 突っ込んできていた少年が足元から出現した壁に撥ね飛ばされ、宙を舞う。

 しかし少年は空中で体勢を整えると、着地した瞬間に再び突撃しようとした。


 その瞬間、少年が何かを察知したように飛び退り、少年がいた場所を白い塊が次々に着弾する。


 「わたくしをお忘れでありませんこと?」


 ひやりとした冷気が漂い、メリアの周りにドライアイスが生成される。

 地面に着弾したドライアイスから蒸気が上がるのを見た少年は、「ヒュ~」と尻上がりの口笛を吹いた。


 「オレ、メインは最後に取っておく派なんだけど、今回はそうも言ってらんねーみたいだな」


 メリアが手を振り払い、目にも留まらぬ速さでドライアイスが発射される。

 少年は大鎌の柄を両手で持つと、バトンのようにくるくると回し始めた。


 鎌に触れたドライアイスが跳ね返され、それでもすり抜けた塊が少年に当たる。

 肌に直接ドライアイスが触れた少年は、顔をしかめた。


 「うへー、オレ今まで色んな傷受けてきたつもりだったけど、冷たくて火傷する感覚って初めてだわ」


 そう呟き、大鎌を構え直した少年は唇の片方を吊り上げた。


 「この感じ、なんか癖になりそ!」


 少年がメリアに向かって疾走し、メリアの周りに冷気が集う。

 発射されたドライアイスが少年を狙うが、少年はぎりぎりまで上体を倒して地面すれすれを駆け、次の瞬間には跳躍し、空中から躍りかかった。


 「メリア!」


 思わず俺が声を上げた刹那、メリアが足を振り上げた。

 メリアのサンダルが大鎌を刃を受け止め、跳ね返す。


 地面に手をついて一回転したメリアは、涼しい顔をして髪をかき上げた。


 「なんだよお前、靴に鉄でも仕込んでんのか?」


 流石に驚いた表情の少年の言葉に、メリアは小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 いや、普通サンダルのほうが斬れるだろ。メリアのサンダルどうなってんだよ!


 「貴方ごとき、剣を取り出すほどでもありませんわ」


 「ほぉ?」


 メリアの言葉に、少年が気に障ったように声を上げる。


 「お前、本当にその剣とやらを出さなくていいんだな?」


 「ええ」


 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)に答えたメリアに、少年は再びあの笑みを浮かべた。


 「そうか。お前のその油断がな、仲間を傷つけるんだよ!」


 少年が叫んだ瞬間、俺の耳にヒュンッという風切り音が届き。

 右腕に焼け付くような痛みが走った。


 「あ⁉ 痛ってぇえええええええっ‼」


 「イツキ!」


 思わず絶叫を上げ、ミュンツェさんの声が鼓膜を揺らす。

 右腕に目を落とすと、ブレザーの袖が切り裂かれ、中からどくどくと血が噴き出していた。咄嗟に左手で押さえるが、指の間から溢れた血が流れる。


 「スカイル。仕事遅い」


 「文句言うなよルイーゼ! こいつら意外と手強いんだって。ルイーゼこそ、もっと早く補助に入れよ」


 「ボクはしかるべき時を見極めていただけ」


 少年が誰かと話す声が聞こえ、目を上げるといつの間にか少年の隣に一人の少女が立っていた。


 リーフグリーンの髪をうなじで二本の三つ編みに纏め、顔の横にはらりとかかる短い髪を鬱陶うっとうしそうに振り払っている。同色の瞳を持つ目は、スカイルと呼ばれた少年とよく似た猫目をしていた。


 ウエストが丸見えになっている短いトップスの上から袖を抜いた上着を羽織り、ショートパンツの下にはロングブーツを履いている。いまいち露出が多いのか、少ないのか分からない恰好だ。

 頭上についている三角の耳と、上着から覗く尻尾をぴくぴくと動かす。


 そして彼女の手には鎖が握られており、その先には血に濡れた刃の鎌がついていた。


 「スカイルにルイーゼだって? もしかして、君達はあの『双璧』か⁉」


 ミュンツェさんが何かに思い当たったように叫び、「ご名答」とスカイルが笑った。

 彼は右腕の包帯に手をかけると、それを解いた。


 包帯の下から現れたのは、口角を吊り上げ、眼帯をした骸骨の刻印。まるで今にもケタケタと不気味な笑い声を上げそうだ。その上には切り裂かれたような傷が走っている。


 「暗殺ギルド所属、双璧の死神、スカイル」


 「双璧の死神、ルイーゼ。スカイル、腕の傷開いても知らないから」


 「いや、少しくらい恰好つけさせて⁉」


 ルイーゼと呼ばれた少女の顔は整っているものの、表情は乏しい。

 不意に俺は激しい眩暈めまいに襲われ、咄嗟にその場にうずくまった。


 「イツキ!」


 手を伸ばしたミュンツェさんに支えられ、俺は目を閉じた。


 「あらあら、ルイーゼ容赦なく斬ったねぇー。あの子、血ぃ足りなくなってんじゃないの?」


 「どうせ全員殺すんだもの。少しでも強い奴の足手纏いを増やしておいた方がいいでしょ」


 「うわ、えっぐー」


 クスクスと密やかに笑う少年の笑い声が鼓膜を揺らし、「だって」という少女の声が耳に届く。


 「目撃者は全員殺す。それが双璧のやり方でしょ」







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