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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第二章 幻想の姫君
61/120

61、頑張ったね






 さあ、起きて下さい。

 あの人の手を取って、引き寄せる。


 ダンスを踊りましょう?

 両手を握り、足を踏み出す。


 いち、にー、さん、しっ。いち、にー、さん、しっ。

 二つの足がゆったりとしたステップを刻み、身体がくるりと回る。


 不意に足がもつれ、床に膝をついてしまった。


 ああ、転んでしまった。


 ……転んじゃった。



========================================



 王女の告白に、俺は何といっていいのか分からずに黙っていた。

 ずっとおかしいと思っていた。王妃として王女が話しかけていたのが人形だったことも、国王がまるで王妃が人間のように話すことも。


 「あははははは!」


 不意に甲高い笑い声が部屋の中に木霊し、俺達は驚いてきょろきょろと部屋を見回す。


 「下よ!」


 という声がし、床に目を落とすと王女の影がゆらりと動いた。


 「きゃあっ!」


 短い悲鳴を上げて影から飛び退く王女。

 その影が意思を持ったように起き上がり、色や輪郭りんかくを宿していく。


 やがてそこには、王女と瓜二つの少女が立っていた。

 髪型や顔立ち、ドレスやリボンまで全く同じ少女に、俺達は目を見開く。


 「アタクシは見ての通りアレスティアの影よ!」


 「ワタクシの、影……?」


 堂々と胸を張る影に、王女が戸惑ったような視線を送る。



「貴女の魔力は生まれたときからずっと影に流れ込んでいて、アタクシが出来たの! だからアレスティアは王族にしては魔力が少ないのよ」


 「ちょ、ちょっと!」


 秘密を暴露された王女が、慌てたような声を出す。

 俺はふと思い当たる節があった。


 「もしかして、一昨日の夜に俺の部屋の中に来たのって?」


 俺の問いに、影はにぃっと見覚えのある笑みを浮かべた。


 「あったりー! まあ、イツキと最初に会ったのは傭兵団の試験でホールに居た時だけどね」


 「貴女、何をやっているのです!?」


 明るく言い放った影に、王女が真っ赤な顔をして怒鳴る。そういえば、ベネに闘技場に連れていかれる前も、ピンク色の縦巻きを見たんだった。


 「あら、アタクシの行動は、全部アレスティアの望みよ」


 しかし、影の言葉に王女は息を呑んだ。


 「アタクシは言わばアレスティアの『眷属けんぞく』みたいなものね。あとは『本音』? 貴女、イツキに興味あったんでしょ? だからアタクシはイツキの様子を見に行ったのよ」


 「な、な、なっ!」


 王女の顔から引いていた赤みが、再び戻ってくる。ちらっと横目で見られたが、俺は視線を合わさないようにした。


 「でね、今アタクシが出てきたのは、アレスティアをよしよししてあげるためなのよ!」


 そう言うなり、影はしゃがんでアレスティアの頭に手を置いた。


 「アレスティア。いっぱい頑張ったね。アタクシは全部見てきたから知ってるよ」


 影に頭を撫でられ、王女は目を見開く。


 「お母様を喜ばせる為に頑張って勉強もお稽古もして、お父様の為に話を合わせて研究も始めて、頑張ったね。辛かったね」


 「そんな……自分に言われても、何も嬉しくありませんわ……」


 「だからこその、イツキの出番だよ!」


 「俺!?」


 急に矛先を向けられ、俺は思わず自分を指差す。


 「ほらほらアレスティア、遠慮なく全部言っちゃいなよ。アレスティアが本心を口にしないまで、アタクシは戻らないわよ」


 「~~~~~っ! 分かりましたわ!」


 声にならない声を上げた王女が、腹を括ったように叫ぶ。


 「ワタクシは確かに努力はしてきました! ですが、それはワタクシが人より劣っていたからにすぎませんわ。それに、ワタクシは、お母様に褒めて頂きたいという下心があって、勉強にもお稽古にも取り組んできました。ワタクシの努力は、手放しに喜ぶことができるものではありません」


 「それに」と続けた彼女は、顔を伏せた。


 「ワタクシは、お父様の嘘を守るためとはいえ、メリア様に血を求めてしまいました。お母様はもういらっしゃらないのに、ワタクシは、ドラゴンの血という言葉に惑わされて、メリア様に血を流すよう求めてしまったのです……!」


 うつむき、王女の声が段々と小さくなっていく。

 俺は息を吸い込んで口を開いた。


 「王女様は、本当に頑張ってきたんですね」


 俺の言葉に、彼女が勢いよく顔を上げる。


 「あ、いえ、影の王女様がそう言ったからではなく、純粋に王女様の言葉を聞いて、本当に頑張ってきたんだなと思ったんです。だから、そんなに自分を責めないでください。王女様は、自分で思っている以上に凄い人です。それは俺も、影の王女様も、王様も、皆知っています」


 俺が話していくほど、王女の目から静かに涙が零れていく。


 「……てください」


 「え?」


 小さく呟かれた声に、聞き返す。


 「……頭を、撫でてください」


 王女がそう呟き、じっと俺を見つめてくる。

 俺は少し躊躇いながらも恐る恐る手を伸ばし、彼女のローズピンクの頭の上に手を乗せた。


 その瞬間、今までと比べ物にならない量の涙が王女の瞳から流れ始め、彼女はそのまま嗚咽おえつを漏らして泣いた。

 いつしか影はいなくなり、俺は妹にしてきたように彼女の頭を撫で続けた。



========================================



 俺達が王妃の寝室から出ると、「イツキ様!」と突然名前を呼ばれて顔を上げる。

 俺を見つけたメイドが駆け寄り、息を切らしながら告げた。


 「只今ただいま連絡があり、ミュンツェ様のお屋敷が、何者かに襲われたようです!」







このお話で二章は終わりとなります。

引き続き、三章もよろしくお願いいたします。

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