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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第二章 幻想の姫君
57/120

57、テラス






 「失礼いたします」


 声がかけられると同時にドアが開けられ、メイドが入ってくる。

 部屋の中に居たメリアは、振り返った。


 「メリア様、イツキ様からお花を頂いたので飾らせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


 「構いませんわ」


 返事を返し、彼女は再び背を向ける。

 メイドは棚の上に花瓶に活けられた花束を置いていくと、「失礼しました」とお辞儀をして出ていく。


 メリアは腰掛けていたベッドから立ち上がると、棚の前まで足を進めて花びらにそっと触れた。


 「アルストロメリア、ですか……」


 彼女は呟き、花びらから手を離した。



========================================



 アレスティアは両手で花瓶を抱え、ドアの前に立った。


 「失礼いたします」


 声をかけてからドアを開け、中に入る。


 「お母様。イツキ様がお花をくださいましたの。とっても綺麗ですのよ」


 声を弾ませて天蓋てんがいの奥に話しかけるも、返ってくるのは静寂ばかり。

 アレスティアは花瓶をテーブルの上に置くと、そっと天蓋てんがいを捲って中に入った。


 「お母様。ワタクシ、頑張っていますのよ?」


 ベッドの傍らに立った少女は、突然とつぜんうずくまった。


 「お母様、また昔のように、ワタクシを、ティアをっ、褒めてください。頭を、撫でてください……っ!」


 アレスティアの悲痛な叫びが、部屋の中で小さく響く。


 花瓶に活けられた花束から、花びらが一枚舞い降りた。



========================================



 俺は城の中の『せせらぎの間』で手を洗っていた。

 『せせらぎの間』というのは、要はトイレのことだ。


 一番最初に教えてもらったのはミュンツェさんの屋敷だったが、この国のトイレは便座の下に直接下水道が流れているため、トイレから川の流れる音と酷似した音が聞こえる。

 その為、『せせらぎの間』なんてちょっと風流な名前がつけられたようだ。初めて聞いた時は、本当に何か分からなかった。


 常に水が流れている水場で手を洗い、ハンカチで手を拭く。

 横目で鏡を見て一応身だしなみをチェックしてから、せせらぎの間を後にした。


 「いーつーき君」


 その時、不意に声をかけられて俺が顔を上げると目の前で、バイオレットのマントがひるがえった。


 「お、王様!?」


 にこにこと笑う国王の姿に、慌ててひざまづこうとする。


 「ああ、やめてやめて! 僕そういうの嫌いだし、そこ汚いから!」


 必死に止めようとする国王に従い、降ろしかけた膝を戻す。確かにここ、トイレの前の廊下だったわ。

 昨日の雰囲気と一変して、国王から親し気な雰囲気が流れている。一番最初に会ったときのようだ。


 ふと彼の頭上を見やると、いつも被っていた王冠がない。


 「あの、王様、王冠はどうされました?」


 「ああ、今休憩中だから外してんの」


 俺の質問に、国王はあっけらかんと答える。それならよかった。また失くしていたら城中が大騒ぎだったからな。


 「あのさー、イツキ君。今時間ある?」


 急にもじもじとし始めた国王を、俺は怪訝に思う。


 「はい、大丈夫ですけど」


 「ならさ! 僕とちょっとお話しよう?」


 彼に誘われ、俺は一瞬戸惑ってから頷いた。そもそも王に誘われて拒否なんてできないだろう。


 「やった! じゃあ、テラスに行こ」


 「テラス?」


 国王の言葉を思わず聞き返す。テラスなんて場所があるのか?


 「ふっふー。僕の秘密の場所なんだー」


 ご機嫌に言い、国王が率先して廊下を歩いていく。

 いや、秘密の場所って、そんな簡単に教えていいものなのか?


 彼の後に大人しくついていき、しばらく歩いていくと突き当りに掃き出し窓が見えてきた。


 「こっちだよ」


 国王は掃き出し窓の鍵を開けると、外に出る。

 その後ろに続くと、手摺てすりで囲われた空間があり、二階からの王都の街並みが一望できた。


 「ここがテラスだよ。ここ僕の部屋と繋がっていて、僕の部屋からも出れるんだ」


 無防備な国王の言葉に、思わず苦笑いを浮かべる。そういう大事な情報を駄々漏らしにしていいのか?


 「ここなら誰にも聞かれない。お話し、しよ?」







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